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第1話

読んで頂きありがとうございます。

・同時投稿なのでペースが遅くなるかも知れません。

・文章に拙い部分があると思います。

・改善点、誤字等ございましたら教えてくださると幸いです。

……卒業式後の体育館……

「我が校特有の『卒業式第二部』が始まりますね。重々しい第一部とは異なり、皆さんで作る、いわば『パーティー』。」

敬語の少年は隣に座る知的そうな少年に言った。

「最後の宴だ。宴は本来『酒の席』と言う印象があるが、『楽しむ』と言う意味もある。最後の『楽しみ』だ。」

「ところで、東君の姿が見当たりませんね……。」

敬語の少年は周囲を見渡した。

「確かにそうだな……。彼ほどの人間がこの最後の宴に出ないという事は無い筈だが……」

「一応、参加は自由ですからね。」

「最初の出し物って何時からっすか?」

軽そうな少年が横から口を出した。

「さて……。」

知的そうな少年はポケットからプログラムと取り出そうとした。しかし、どこのポケットにも紙は入っていなかった。

「参ったな……。仕方がない。教室まで取りに行く。」

「まだ間に合うから焦らなくても平気でしょ。……早く帰りて~。」

気怠そうな少年は腕時計を見ながら言った。

……教室前……

「…………入るに入れないな。」

知的そうな少年は教室の扉を前に中に入る事が出来なかった。誰もいない筈の教室から馴染みのある二人の声が聞こえて来たからだった。扉越しの為、会話は途切れ途切れだがいい雰囲気というのだけは鈍感な少年にも分かった。

「……話って何……?」

少女の声が聞こえて来た。

「その……お前また…………ろ?」

次に聞こえて来たのは別の少年の声だ。

「うん……。もう少しみんなとも…………けど、……だからしょうがないよね。」

「きっとみんなからも一言ずつ……だろう。ただ俺は……を言いたい。きっとこのままじゃ………な。」

そこから暫くは何も聞こえなかった。やがて教室の中の少年は深く息を吸い、大きな声を出した。

 知的そうな少年はその後の展開を聞いて安心していた。少年の頭からはプログラムの事などすっかり抜け落ちていた。

「……俺達の努力は……無駄じゃ無かったな。この一年……本当に長かった。」



時は遡り、桜が咲き誇る四月のある日……通学路に一人、少年が立っていた。

「う~ん……」

少年は空中にポッカリと空いた長方形の穴を唸りながら眺めていた。どこかで見た事のあるような形の穴だ。穴の向こうには少なくとも今少年が居る場所とは異なる風景が広がっていた。試しに指を入れてみる。しかし、穴に指は通らず、アクリル板をつつくような感覚だった。

(この穴、他の奴には見えていないのか?)

少年は周囲から視線を感じた。とても冷たい目だ。

(マズい……学校行こう……。)

少年が歩き出すと同時に彼の横を別の少年が乗った自転車が通った。

「うわ! 危な……。」

自転車を見送った少年はあるものを見て目を丸くした。なんと先ほどまで微動だにしなかったあの穴が自転車と同じ速度で自転車の横を着いて行くのだ。

(何だろう……あの穴……。)

少年は学校へ向かった。今日は進級後初の登校だ。


学校に着いた少年は席に座り、ただ考え事をしていた。

(……朝に見た穴……いや、正確には枠だな。あれは何なんだろうか……。)

暫く考え込んでいると、教室に女性の教師が入って来た。

「おはようございます、皆さん。今日からこの三年五組の担任になる……です。」

(『おはようございます、皆さん。』……か。倒置法……。)

少年は手に顎を乗せて話を聞いていた。

「それと、転校生の紹介をしたいと思います。」

担任は教室の扉を開き、手招きをした。すると外から美少女が入って来た。いや、美少女なんて言葉じゃ足りないほどに可愛らしい女子生徒だ。しかし、少年の心を奪ったのはその容姿ではなく、彼女の前に浮かぶ『枠』だった。

(あ、あの枠は……!)

しかし枠は彼女にも見えていないらしく、彼女は自己紹介を始めた。

「は、初めまして。私、加賀美(かがみ)千明(ちあき)と言います。よ、よろしくお願いします。」

声も可愛らしい声だった。少し緊張しているようだ。

「はい、加賀美さんです。ご両親のお仕事の都合で二年間だけですが、この学校に通います。皆さん仲良くしてくださいね。」

(引っ越し族か……大変な家庭に生まれたものだな……。)

担任は開いている席を指差し、千明に座るよう促した。千明が座ると担任は別の話題を切り出した。

「皆さんも挨拶がてらに自己紹介をしましょう。名前と部活を教えてください。じゃあ、出席番号三〇番から。」

「え?! 俺から?! まさかの逆順?! まぁ、ハイ。……です。部活は……です。」

(ん?名前と部活の部分だけ聞き取れなかったな……。後で名簿を確認しておくか。)

最初は気のせいだと思っていた少年だが、名前と部活動がはっきりと聞こえない者が殆どだった。しかし、ごく稀に両方ともはっきりと聞き取る事の出来る者が居た。

「はい。岬優佳(みさきゆうか)です。チアリーディング部です。」

「……ほ、本庄(ほんじょう)……美晴(みはる)です……。」

園嵜望(そのさきのぞむ)です。どうぞ宜しく。」

聞いていて分かった『名前がある者』の共通点はみんな単純にキャラが濃い事だ。そして最大の共通点は、彼らの近くには必ずあの『枠』が浮いている事だった。やがて自らの出番が回って来た少年は足元を見て目を丸くした。自らの足元からこちらの顔を見上げるように枠が配置されているのだ。咳払いをしてから自己紹介をした。

国枝総司(くにえだそうじ)です。以後お見知りおきを。」

少年の名前は『国枝総司』だ。やがて自己紹介も終わりという所で、もう一名、名前が聞き取れる人物が居た。枠も大きく、体全体を映すようだった。

東健吾(あずまけんご)です。サッカー部です。宜しく。」

他の名前がある者とは全く違った。雰囲気と言い、容姿と言い、全てだ。健吾を最後にして自己紹介が終わった。ここからホームルーム活動に移った。

担任が口を開く。

「今日皆さんに係と委員会決めをしてもらいたいと思います。」

係決めの係とは科目係というもので、それぞれの科目に関する次回授業の連絡やプリント配布をしたりする。因みに、最も忙しいとされているのが数学と英語、逆に社会科、美術係は全くと言って良い程仕事が無い。委員会は学級委員長、副学級委員長、保健委員、文化委員、風紀委員、図書委員、選挙管理委員の『七本柱』の事だ。総司には既に心に決めている係があった。

「じゃあ、まずは正・副委員長を決めましょうか。まずは委員長をやりたい人……」

担任が言いかけた時にスッと手を挙げた者がいた。

「はい。俺、やりまーす。」

教室の前の方から声がした。手を挙げたのは東健吾だった。総司とは初めて同じクラスになる健吾だが、その名を知らぬ者はいない程、学校内では有名人だ。文武両道でイケメン、社交的とまるで王子様を絵に描いたようだ。首席で入学、サッカー部ではキャプテンを務める。

「他にやりたい人は?」

健吾を前に張り合おうとする者はまずいない。このまま係決めに移ると思いきや、別の人物が手を挙げた。

「はい。」

手を挙げた者を見た他の生徒達からざわめきが起こった。

(転校生?! 早速東に宣戦布告か?)

総司も思わず目を疑った。目を疑ったのは千明が手を挙げた事では無く、彼女と健吾の前に『枠』がある事だった。

「じゃあ、先に副委員長をやりたい人は?」

担任も少し焦っている。担任の前にも一瞬枠が現れた。担任の問いに対して手を挙げる者はいなかった。

「(良かった……)じゃあ、東と加賀美は話し合って決めてちょうだい。因みに正委員長になれなかったら副委員長になってもらいます。その間に他の係を決めちゃいたいと思います。」

健吾と千明は教室の隅で話し合いを始めた。それを確認した担任は前を向いて話し始めた。

「では、次に国語、数学、社会科、理科、英語、音楽、美術、技術、保健体育係と書記を決めたいと思います。委員会は後で決めます。まずは国語係、やりたい人?」

担任は黒板に係名を書きながら訊いた。

「はいっ!」

総司はすぐさま手を挙げた。しかし、あまりにも大声だった為か、周囲がざわついた。

「他には?」

黒板の『国語』の下に『国枝』と書かれた。

「全然手が挙がらない……。取りあえず国枝は確定ね。」

その後の係と委員会はすぐに決まって行った。総司は最初に一人の手が挙がるとどんどん挙がっていく事を分かっている。先程『名前が無かった者』は黒板の名前も『……』だった。結局もう一人の国語係は決まらず仕舞いだった。

……数十分後……

「おいおい、あの二人、まだやってるのか?」

「転校初日から点数稼ぎ?」

健吾と千明の会話を見る者の視線は鋭い。

「もうじゃんけんで決めちゃいなよ。」

声を出したのは書記になった岬優佳だった。

「じゃんけん?そんなの完全に運だろ?」

健吾が呆れたように言う。

「でも、そうでもしないと決まらないでしょ?ね、加賀美さん。」

「う、うん。」

結局じゃんけんで決める事になったようだった。結果、健吾が委員長、千明が副委員長になった。

「じゃあ、俺の右腕として頼むぞ、加賀美。」

健吾は右手を差し出した。

「う、うん。」

健吾と千明は握手をした。それを見ていた優佳はつまらなそうな表情を浮かべた。

(まぁ、東が委員長なら大丈夫だろ。)

総司も安心していた。

「では、正・副委員長は今日から早速会議があるので後ほど生徒会会議室へ向かってください。」


……放課後……

(よし、帰ろう。)

総司は家に帰って『枠』の正体を掴もうとしていた。

「君、ネクタイが緩んでいますよ。制服の乱れは心の乱れです。まだ春休み気分ですか?」

「え? ああ、すまん。直ちに直す。」

総司はネクタイを締めた。指摘をしてきたのは風紀委員の園嵜望だ。七三に分けた髪が良く目立つ。ワイシャツは第一ボタンまでキッチリと閉じている。流石風紀委員と言ったところだ。

「ハハッ。制服の乱れは心の乱れ、か。あながち間違ってはいないかもな。少し考え事をしていたから、乱れていたのかもな。制服と心が繋がっているなんて胡説乱道(デタラメ)な事言うなとも言えないからな。」

苦笑いをする総司を見て望はニヤリとした。

「君、面白いですね。気に入りましたよ。」

「(面白いって、どこがだ? 何がだ?)そう言ってもらえると嬉しいな。」

「もし良ければ係会長になってみては?僕が推薦しますよ。君のそのトーク力、思わず感服してしまいました。」

係会長とは三年の全クラスの科目係から一教科につき一人の係会長を決める。係会が定期的に行われ、各科目の今後についての話を聞かされるのだ。中でも係会長の発言力は強く、生徒会の書記くらいは抜ける程度だ。

「買いかぶりすぎだ。……権力には興味無い。」

「やはり君は面白い……。今日の放課後、良ければ一緒に帰りませんか?」

「構わないが……。」


……帰り道……

「僕は東とは長い付き合いでね。三年間同じクラスで腐れ縁と言うやつなんですよ。彼の社交性に惹かれて気付いたら友人に……と言う具合です。彼は信頼できる男です。」

望は嬉しそうに話している。

「そうなのか……。確かに転校生の、しかも異性にいきなり握手だもんな。俺には無理だ。しかし、あの二人、美男美女だな。……良いコンビだ。」

「まるで漫画のヒーローとヒロイン……でしょうか。」

「……ほう。(漫画! それだ! あの『枠』の正体! 漫画の枠! 勝手な解釈になるが、この世界は実は漫画の世界で、展開からして加賀美か東が主人公の話だ。園嵜、岬、本庄、そして(国枝)は何かしらの形であの二人の両方もしくは片方と接点を持つ……。現に、園嵜は東の親友だ。岬もやたらと東との距離が近かったな。残った問題はなぜ俺にしか枠が見えないかだ……。)」

「あの……国枝君? 聞こえていますか? 何ボーッとしているのですか?」

望が覗き込んできた。

「あ? ああ……すまん……。少し考え事をな。」

「また考え事ですか? 悩める男ですねぇ。」

望がクスクスと笑う。

「そう言う浮いた話の一つでもあればいいのだがな……。」

総司は苦笑いをした。


……総司の自室……

 総司は机にノートを広げ、何やら書き込んでいた。

「さてと。この世界が漫画の中の世界と仮定して、まとめてみよう。まず、話の主人公は東健吾もしくは加賀美千明。備考として加賀美は転校生だ。「続いて、我らが三年五組の……恐らく『割と主要な脇役』と言ったところだろうか。」

・学級委員長で例えるなら『白馬の王子』な東健吾。物語のヒーロー?

・転校生で副学級委員長の加賀美千明。物語のヒロイン?

三―五メンバー

・風紀委員にして東の親友の園嵜望

・書記で恐らく東に気がある岬優佳。岬は加賀美に対する当たりが少々キツイので『恋敵』になるのだろうか

・図書委員の本庄美晴

「今はここまでしか分からないな……。取りあえず、主人公が東なのか、加賀美なのか……。

どちらが主人公かによって俺の立ち回り方も変わってくる筈だ……。後は……俺と本庄の設定が全く分からないな……。参ったな……自分の事は自分が最もよく分かっている筈だが……。しかし、漫画という事は他に最低五人は『登場人物』が居る筈だ。まだ名前が分かっていないだけで今はまだモブキャラな者もいるかも分からない。」

総司は天井を見上げ大きく息を吐いた。

「次に物語のジャンルだな。青春のラブストーリーか、ラブコメか……。役者は揃っている訳だしな。」

ここまで言って総司は急に青ざめた。

「漫画と言う事は誰かが……俺達の知らない誰かが……見ているという事だよな……。そして……作者が下手な書き方をすればネットではキャラクターが、俺達が叩かれる……! 大体この漫画、作者なんて居るのか? 俺達が俺達の手で作り上げていく話なんじゃないのか?」

多少の疑問を残しつつ、総司は床に就いた。しかし、この世界が漫画の中と言うのはほぼ確信していた。


第1話を最後まで読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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