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月明かりの下で



「エリナもリチャード様もお人が悪いわ。そんな大事な事言ってくれれば直ぐにお父様に伝えたのに。望まない結婚より、望んで結婚した方が良いわ。あまりおおっぴらには言えないけれどね」


クスリと笑うライアーに、エリナは愕然とした表情を浮かべた。彼女は決定的なミスを犯したのだ。顔合わせや、婚約に至るまでライアーが異論を唱えなかったのはタイミングを逃したのと父の顔に泥を塗らないためだ。しかし、エリナはリチャードに気があると勘違いしたのだ。


今更取り消せないこの状況に、エリナは顔を歪めた。


「まぁいいわ、お二人お似合いですし。お二人ともご婚約おめでとうございます。ところで、リチャード様は女癖が悪いと言う噂を小耳にはさみました。ただの噂でしょうから気にしなくて良いでしょうが、妹を泣かせる事はお止めになってね」


離縁して帰ってきて、またからまれでもしたら迷惑だし。と言うことまではさすがに口に出さず、ライアーは満面の笑みを浮かべた。


ただ、エリナはその噂を知らなかったのか、真意を聞くためにリチャードに詰め寄った。もはや彼女の事など眼中になさそうな二人だったが、まったく気にする様子もなくライアーは続けた。


「今後お二人ともに歩む道が、幸多き事お祈りしますわ」


クルリと振り返ったライアーは来賓へ向け頭を下げ、すぐにパーティー会場を後にした。


その足で、屋敷にある広大な庭へと向かった。高いヒールの靴を脱ぎ捨て、芝生の上に足を置き空を見上げた。今日の月はいつにもまして輝いているので、暗闇の中歩き回っても平気だ。


「今日はいい天気ね」


歩き回ったライアーは庭に置かれた椅子に座り込む。視線を上げれば、月だけではなく星もキラキラと輝いていた。雲ひとつない空に明日もいい天気だろうかと外で御茶でもしようかなと暢気な事を考える。


「お嬢さん」


ふいに声をかけられ、ビクリと肩を震わせた。背後から聞こえた声に警戒しつつ振り返ると、綺麗な顔つきの男性がフンワリとした優しい笑みを引っさげて立っていた。


「こんな夜に一人で居ては危ないですよ」


「……何の用かしら」


ぶっきらぼうに答えるライアーに、男性は綺麗な装飾をされた靴を持ち上げて見せた。紛れもなく、数分前にライアーが放り投げたハイヒールだ。


「これ、貴女のでしょう??」


「そうよ。ありがとう、そこに置いておいて」


いつもの様に愛想良く対応せず、あいかわらずぶっきらぼうに答える。男は何も言わず懐からハンカチを取り出すとライアーの前にひざまずいた。


何をする気だと見下ろしていると、おもむろに男はライアーの足に触れハンカチで汚れをふき取った。足をもたれた事に目を見張り抵抗しようとするが、そんな暇もなく綺麗に拭かれた足には靴が履かされていた。


「ハンカチ、汚れてしまいましたね。すいません、弁償します」


汚れた部分を内側に織り込んだハンカチを男は懐にしまい、首を振った。


「いいえ、構いません。お疲れでしょう、今夜は早く寝たほうがい。ここに居ては風邪をひいてしまうかもしれないしね」


靴を履いた足を見下ろしていたライアーは、スクッと立ち上がると小さな笑みを浮かべた。


「ご忠告ありがとう。貴方の言うとおり眠る事にします、おやすみなさい」


頭を下げ、男の横をすり抜ける。銀色の男の髪が視界の端で揺れるのを見て息を呑んだ。バッと振り返ったライアーに、男は目を瞬かせ首をかしげた。


「……綺麗ね、貴方の髪。宝石みたい」


月明かりに照らされた男の銀髪は宝石の様に煌いていて、自然と口からすべるように出てきた。吃驚したように目を丸める男に、何を言っているのだと我に帰ったライアーは焦ったように視線を泳がせた。


「ごめんなさい、急になんでもないわ。さようなら」


きびすを返し歩き出したライアーに、ボーっとしてハッと我に返った男は焦りつつも声をかけた。


「ありがとう、嬉しいよ。おやすみなさい」


チラリと振り返るライアーに、男はフワフワした笑みを浮かべ遠慮がちに手を振っていた。このまま無視するのも失礼かと小さく振り返した。


らしくない、らしくない。あーー恥ずかしすぎて穴に入りたい。ライアーは顔を手で覆いながら一目散にその場から逃走した。


初対面の男性に、髪が綺麗ねなんて今まで一度たりとも言った事はない。いや、綺麗だったのは認める、どんなケアをすればあんなに綺麗になるのか是非ご教授願いたい。

しかし、宝石みたいなんてセリフはない。いろいろと思い出し死ぬほど恥ずかしいと、悶える気持ちを紛らわせるためガシガシと頭をかいた。


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