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地獄タイム




自分の意思と反して行きたくない場所に行く、会いたくない人に会う。人間生きていれば、こういう場面に数度と遭遇する。大多数は行きたくないと頭を抱えるだろう。


「あーしんどい。体調悪くなってきた」


ボソリと死んだような目をしたライアーは拷問のような時間を過ごしていた。


客間まで嫌々連れてこられたライアーが目にしたのは、エリナがリチャードに密着してキャッキャッとはしゃぐいでいる姿だった。


別に良いけど、帰って良いか??と喉元まで競りあがってきた言葉を押さえ込む。デレクもその様子に先ほどから忙しなく目が泳いでいる。


実の娘がイチャイチャしていることろなんて、父親として普通見たくはない。ましてや相手は、姉であるライアーの婚約者になる男だ。どうしようかと悩む彼の目は、落ち着きなくあっちへこっちへと動く。


「エ、エリナ。ライアーも来たから離れなさい」


ゴホンッと咳払いをして、デレクは大胆な行動を取るエリナに待ったをかけた。


「嫌ですわお父様。こうされるのは、お(いや)かしら??リチャード王子」


実の父親に注意されても、大胆に目の前で体を密着させるエリナはある意味強者だ。ライアーはそんな様子を気にするわけでもなく椅子に座る。


「紅茶をお願い」


「かしこまりました」


椅子の近くで待機していた侍女に頼むと、彼女はペコリと頭を下げ準備のため身を引いた。ティーカップがソーサーにぶつかりなる、細いカチャリと言う音に耳を傾けた。


「それで、リチャード様。ご用件は??」


自分に身を寄せるエリナの体にちゃっかり腕を回しているリチャードは、なんの悪びれもなく呆気からんとライアーの質問に答えた。


「君に会いに来たのさ」


「……あら、嬉しい。私はてっきりエリナに会いに来たのかと思いましたわ」


嫌みったらしくニッコリと染み付いたような愛想笑いに、デレクは過剰に反応した。張り付いたような愛想笑い=キレる寸前という方程式が、彼の中では出来上がっているようだ。


実際、ライアーはかなり怒りを我慢していた。


それもそのはずだ。君に会いに来たと言いながら腕の中に違う女が居るのだ。非常識だと世の女性は怒るに決まっている、リチャードに会いたくないライアーなら尚更だ。


大切な時間を割いて、婚約者(仮)と実の妹の見たくもないイチャイチャシーンを見るのだ。この世で一番いらない時間だ。


ビンタして部屋を出たい衝動に駆られる。それを我慢だとなんとか抑えこんだ結果、手が尋常じゃないくらい激しく武者震いしている。


「……あぁそうか。嫉妬したんだね可愛い子猫ちゃんだ」


俯き怒りを抑えるライアー姿に、リチャードは何を思ったのか手を叩いてニヤニヤと笑った。


「本物のケツになる覚悟は出来てるか」


「それはお父さんも覚悟がいるからできれば、抑えてほしい」


ボソリと呟いたライアーの地獄のような低い声は、近くに座っていたデレクだけに聞こえた。彼女は獲物を狩る獣の様に、鼻の下を伸ばすリチャードを狙った。ガタッと立ち上がりそうになるライアーをデレクは必死で止めた。


「大丈夫です、ケツ顎は元からですし。本物になっても大差ないですよ」


必死で止めるデレクにライアーはそっと耳打ちした。


「大差あるよね。ってゆーかずっと思ってたけど本物って何!?!?怖いよ本当に!!」


デレクは涙目で必死に止める。童顔の所為でその涙目すらも物にしている方がよっぽど怖いなと上目遣いの父の姿に、ふとライアーは我に返った。


ストンッと座りなおし、前に出された紅茶の波紋に視線を落とした。とりあえず、地獄タイムはまだまだこれからのようだ。



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