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尻尾は口ほどにものを言う


手合わせをするべく三人が行き着いた先は、王宮の一角にある武道場だった。普段は近衛兵が鍛錬をする場所だ。


ニコニコと余裕の笑みで木刀を構えるイアルとへっぴり腰で木刀を構えるウィル、そして危なくないほど距離をあけ見学するライアー。


ちょっとした勘違いで、始まってしまった争いにウィルはかなり乗り気ではない。


「さぁ、始めようか」


「だから勘違いッスよ、殿下~」


どれだけ叫びをあげようと、イアルは首を縦には絶対に振らなかった。


「よろしくお願いします」


「話しをまるで聞かないこの人!!!!」


一礼するイアルに、しぶしぶウィルも一礼して剣を構えた。


以後風のような速度で、二人は攻防戦を始めた。打ち込んでは、受け止め、また打ち込み返す。何度も木刀が交わりガツウンッ!!と重々しい音を武道場に響かせた。


見守るライアーも、手に汗握るほど白熱している。


互角の腕前で、お互いに一歩も引かない。二人の口元には確かな笑みが浮かんでいた。


いつの間にか、全てを忘れ勝負を楽しむ二人の様子にライアーはフッと微笑んだ。


やっぱり仲いいじゃないか。


このままドローになるのかと思われた勝負は、一瞬の隙を突いたイアルの勝利で終わった。


立てた木刀にもたれる様に跪くウィルは、浅く荒々しい呼吸を繰り返している。イアルも同じような息遣いをしながら前髪をかきあげた。


「きっつーー。さすが殿下、でも次は勝つッスよ」


「何度やっても僕が勝つさ」


熱く握手を交わす二人、何て素晴らしい友情なのだろうと感動しつつ近くまで歩み寄った。


「お二人とも、風の化身かと思うほどすばやい動きでしたね」


「……風の化身」


「それは褒め言葉ッスよね??」


「勿論です」


苦笑いを浮かべる二人を見上げ、自然な違和感に気がついた。いや、おかしな言い方だが自然にかぎりなく溶け込んでいるが無いはずのものがあるのだ。


イアルの耳と尻尾があるのだ、衝撃で体が硬直した。


シュッとした三角耳、つやつやの尻尾。手入れの行き届いたそれを幻覚だろうかと何度も目をこすって確認したが、幻覚ではなく確かにそこに存在しているようだ。


触りたいという衝動が胸の中で膨らみ始めるが、グッと押さえ込んだ。


「そうだ、ライアー嬢からも言ってやってください。俺があの時耳打ちしてたのが、浮気の誘いじゃないのかって殿下は勘違いしてるんッスよ」


なんでそうなった。


ライアーは困惑を瞬きで表現した。ぱちぱちと短い間に何度も繰り返す。


「私が、ホイホイと殿方に言い寄る女だとお思いなのですか??」


信じてもらえてない事は悲しいし悔しい、そこから生まれる怒り。ニコーッと笑うライアーに、イアルはシュンッと耳と尻尾を垂らした。


「そうではないと思うよ……でも仲良さそうだったし」


「その元気のない耳と尻尾をいつも力を使って消していると聞きました。それが、どれほど大変できつい事かウィルから聞きましたが、毎日されてるなんてイアルは凄いです」


そのお話を聞いていたんですよと説明するが、イアルは硬直したままだった。


「イアル??」


顔を覗き込むが目の焦点があっていない、何処を見ているんだと目の前で小さく手を振る。ただ、尻尾は千切れんばかりに揺れていた。


「俺、ずっとなんで隠すのか考えてたんスよね。でもなんとなく分かりました」


唐突に、閃いたとウィルは手を叩いた。なにが閃いたのか??どういうことなの??とライアーは首をかしげる。


ウィルは得意げに人差し指を立てた。


「殿下はライアー嬢がちょー好きなんスよ。で、尻尾って態度よりも正直じゃないッスか、きっと何か言われるごとに尻尾が千切れんばかりに揺れるのがはずッッ!!!!」


「もーそろそろお口は閉じようかウィル君」


「ぶあー、でふふがくふづへ、こは(うわー殿下が君付け、こわ)」


顔面を掴まれたウィルが、ジタバタと暴れた。全てウィルの妄想である、しかしイアルの態度を見ると事実を言われ焦っているようにも思える。


……いや、勘違いか、うんそうだ。自意識過剰と思われるわ恥ずかしい。


事実なのか聞きたくも思ったが、ここは黙るのが賢いと口をがっちりと閉じた。



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