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多分、嫌い


自身を囮にするのが一番良いのではないか。そうも考えたが、怪我をしたときの三人の顔を思い出し、言い出せはしなかった。


時計の秒針を刻む音。それが明確に聞こえるほど、部屋は静まり返っていた。


「……もう、こんな時間か」


ロマードは時計を目にして、立ち上がった。次の仕事の時間が迫っているのだろう。


「大丈夫だ、なんとかする」


そう笑うロマードに、ライアーは笑い返す。だが、いろんな人に迷惑がかかっている事を自覚しているため、素直に笑えない。


部屋を出る二人の背を見つめながら考え込む。何とかしてもらうのではなく、自分が何とかするそれが正しいのではないか。


悶々とするライアーの口元に、唐突に焼き菓子が押し付けられる。もちろん犯人はイアルで、目を丸めれば彼はふわりと笑った。


「いつもされてるから、お返し」


口に押し付けられた焼き菓子を口の中に入れれば、濃厚なチョコの味が口の中に広がった。


「美味しい」


「そう、よかった」


もぐもぐと口を動かすライアーに、イアルは満足そうにする。


「気分転換に庭園でも散歩に行こうか。今の時間だったら、来てるだろうし」


ほらと差し出された手に、来てる??誰が??とライアーは自身の手を重ねた。


悩んだり、辛かったり、苦しかったり、そんなときいつも彼は気分転換に連れ出してくれる。


有難うとライアーは照れくさそうに小さく呟いた。




王宮にある庭園は、十人が十人見とれるほど綺麗な場所だ。芝生が敷かれ、色とりどりの花が咲き、庭園の中心部には大きな噴水もある。


どうやらその噴水は、動物たちの飲み水になっているようだ。


来ているとは動物の事だったようだ。大きな黒ヒョウが一匹噴水の傍でくつろいでいた。


その大きさに驚いたライアーは、襲われるのでわ??とイアルの背に身を隠した。


ジーッと見ていると黒ヒョウの耳がピョコピョコッと揺れ、閉じていた琥珀色の目が開いた。


「いつも通りここで寝てたのかい??」


イアルの声に、くわぁっと大きく口を開きあくびをした黒ヒョウは立ち上がった。


「あ、あれ突進とかしてきませんか??」


「しないしない、大丈夫だよ」


ハラハラとするライアーをよそに、イアルはいつも通り笑っている。


「大きな猫だと思えばいいよ~」


「大きな猫~って思えないほど大きいんですけど」


イアルの背にガシリとつかまる。なぜか嬉しそうなイアルはそっちのけで、ライアーは向かってくる黒ヒョウに焦っていた。


急にがぶって来られたらどうしよう。


動物が嫌いなわけではないが、さすがに一番最初に触るのが黒ヒョウなのはハードルが高かった。(イアル)は触ったが、それは噛まないという確信があったからできた事で、野生の黒ヒョウに触れるほど勇敢でも無謀でもない。


腰をかがめて、黒ヒョウに向かい合う彼の背でライアーはひぃっと喉を鳴らすしかなかった。


「あ!!こちらに!!イアル様!!少しお話が!!」


イアルの指先に黒ヒョウが触れるか触れないかのタイミングで、近衛兵の一人が駆けてきた。どうやら、仕事の話のようだ。


コアラのように背に引っ付いていたら、邪魔だろうと離れる。


「それは、資料を取りに行かないと」


どうやらここでは、話は進まないようでチラリと視線を感じた。ならもう散歩は止めて帰りましょうと口を開く前にイアルは笑みを浮かべる。


いやな予感に、待ったをかけようと手を伸ばす。


「ちょっとここで待ってて」


「は!?え、ちょッ!?」


すぐ戻ってくるから~!!と風のように二人は去り、黒ヒョウと二人っきりの状態で放置された。


グルルゥと唸る黒ヒョウと目を合わせる。何故か気持ちは一緒のような気がした。


「とりあえず、座るか」


噴水の傍のベンチに座ると、黒ヒョウも近くに座った。これって触っても大丈夫なのかと、揺れる耳をちら見する。


「さわ、いや、噛まれる??でも」


手を出したり引っ込めたりを繰り返していると、黒ヒョウが頭を突き出してきた。まるで、触るならさっさと触れというかのようだ。


「触っても良いって事??」


失礼しますと頭をゆっくり撫でた。一度触ってしまうと恐怖心は薄れるもので、頬や喉元にも手先は伸びた。喉元や頬の毛はもっふもふで触り始めると止まらない。


「すごく大人しいのね」


嬉々とした表情で撫で回すライアーに、黒ヒョウは大人しくされるがまま。しかし、しばらく続いたもふもふタイムは、黒ヒョウが起き上がった事で突如終了した。


ジッと一点を見つめる黒ヒョウに、ライアーも不審に思い視線を向けた。


「あらあら~~??庶民の娘がこんな所でなにをしているのかしら~??」


女性らしい高い声と共に現れたのは、綺麗に着飾った女性三人だった。先頭に立つ赤毛の女性は、扇子で口元を隠し見下すような視線をライアーに向け。後ろに居る二人はクスクスと笑っている。


多分、嫌いなタイプだな。


三人を見上げ、そうそうに好きか嫌いかを判断したライアーは、視線をそらし黒ヒョウを撫でた。



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