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夫人を怒らせてはダメ


見えていた馬車の姿が完全に見えなくなって、それでもその方角をライアーは見つめ続けていた。


見慣れた馬車が遠くなっていくのはなんだか、切ない。振っていた手を下ろしながら、らしくない事をと小さく笑う。


さて、状況をおさらいしようかとライアーは気持ちを切り替えた。


まず大神官が襲われた。これは今回の結婚に反対の人物が行ったと推測する。


どういう状況で襲われたのかというのも重要だ。これは本人もしくは誰かから詳しい情報を入手する必要がある。


問題は、これで話が終わるとは思えない所だ。大神官を襲った相手がこれだけで済ますとは思えない。次に来るのはきっと私の所だろう。


いいだろう、返り討ちにしてやるわ。


と言いたいところだが、ライアーは腕っ節が強いわけではない。口は達者な方だが、剣術も体術もからっきしだ。


「剣の素振りでもしようかしら」


唐突に言い出したライアーの発言に、イアルは固まった。


「急になにを!?」


「いや、護身術くらい覚えるべきかなと思いまして。お命頂戴!!って来た時に、あげねーよッッ!!って返り討ちできないかなと」


我ながらナイスアイディアでは??といきまくライアーだったが、イアルに即座に却下された。


「そんなことしなくてもいいよ。僕が命に代えても、君を守るから」


イアルはライアーの手の甲にキスを落とした。一瞬なにをされたのか分からないほどそれは自然で、ライアーは口をパクパクさせて赤面するしかなかった。


恋だの愛だの面倒だとスルーしてきたライアーにとって、手の甲へのキスさえ過剰に反応してしまう。笑いたければ笑えば良いわと俯くライアーの耳元でイアルはそっとささやいた。


「……もしかして照れてるの??可愛い」


「うるさい!!!!」


普段はふわふわを具現化したようにおっとりしているのに、突如その雰囲気が消え去る瞬間がある。

子犬だと思っていたら狼だったみたいな気分だ。同じイアルなのに、まるで別人のようだとライアーは前髪をくしゃりと握った。あんなの反則じゃないか。


レットカードよ!!退場よ!!とプリプリ怒るライアーを、イアルははいはいと受け流した。


「ほら、戻ろう」


気付けば、また自然に手を繋いでいた。歳はそれほど変わらないだろうに、イアルの方が一回りくらい年上ではないかと感じるほどの余裕さだ。


いや、私がガキなだけかしら。ライアーは繋がれた手に視線を落とし、ため息をこぼした。


屋敷に戻り、事態を自分なりに整理しようと考えていたライアーだったが、すでに新たな問題は起きていた。


「陛下にお目通りを!!何故、(わたくし)の娘ではなく人間の娘を!!」


屋敷に入ってきた瞬間、怒鳴り声が聞こえた。見た目から貴族の夫人というのは分かる、それからかなり怒った様子なのも。


対応をしていた使用人もどうする事も出来ず困った様子だった。


どうやらイアルの婚約者がライアーであることに激怒した様子で、それはそれは怖い顔で捲くし立てている。


「大神官様が怪我をされた、これがすべてでしょう!!人間などを我が国に入れようとして災いが降りかかったのですよ!!今からでも遅くはありませんわ!!婚約を解消し、人間は国に帰すべきですわ」


ヒートアップしていく中、夫人のライアーに対する悪口が増えていく。


品がなかった、王太子妃に相応しくない、来賓者に一人一人頭を下げる姿は滑稽だった、見え見えの愛想を振りまいて、さすが人間だ汚らしい。


その手の話は聞きなれているので、ライアーは気にしていない。まぁよく喋るご夫人だことと呆れながら見ていたが、イアルはそうもいかなかったようだ。


「あの人は、一体なにを言っているんだ??」


「ちょっと、イアル??」


明らかに隣の様子がおかしいと、ライアーは咄嗟に繋いでいた手の力を強めた。睨む目は今まで一度も見た事がないほどギラギラと光っている。


「……ライアー、手を離せ」


いつぞやとは逆パターンだなと思いつつ、ライアーは首を振って拒否した。


「どうしたのライアー??大丈夫だよ。怖がらないで??すぐに終わらせるから」


ニッコリと笑うイアルの顔には大丈夫ではないと書いてある。完全に怒りで、理性もクソもない状態になっているのだ。


「全然、大丈夫そうじゃない!!」


グッと力を込めるが、ズルズルと引きずられ、まったく意味を持たない行動に終わった。


すぐに夫人の元にたどり着いたイアルは、キャンキャンとわめき散らかす夫人の肩に触れる。やっとこちらに気付いた夫人はライアーを目にして、汚い物を見るような冷たい目をした。


「あんたが!!あんたがイアル殿下をそそのかしたんでしょ!!!!」


夫人の鋭い爪が、振り下ろされる。イアルを必死に止めようとしていたライアーは、完全に一歩で遅れる形となり目を見開く事しか出来ないでいた。


――あ、これやばくね??


夫人の動きがスローモーションのように感じた。獣人独特の鋭利な爪が、キラリと光った。



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