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月夜の涙


婚約披露パーティーが終わり。来賓者全て帰った後、使用人たちが総出でせっせと片づけを始めた。


そんな中ライアーはルイズ、ロマード、イアルたちと共にある部屋に集まっていた。


その部屋は来客者用の部屋で、デレクとエリナが二人揃っていた。


婚約披露パーティーでの事、それに対する処分がロマードから二人へと告げられた。騒動を起こしたエリナは永久国外追放、父デレクも国への入国には制限がかけられる事となった。


「ゆくゆく王妃になるのが人間なのはやはり心配だと、不安視する声がある。ただ私もルイズもそれは杞憂だと思っている。(みな)にも杞憂であったと思わせてやれ」


ロマードはフッと笑い、頷くライアーの肩を叩いて部屋を出て行った。


「イアルも行きましょう、ご家族で話す事もおありでしょうから」


ロマードの後に続く、ルイズがイアルを呼ぶ。心配そうに離れようとしないイアルにライアーはいつも通り笑った。


「大丈夫よ」


その一言に、イアルは渋々といった様子で部屋を出て行った。


部屋に残された三人は何も言わない中、デレクはゆっくりと立ち上がった。申し訳なさそうに、顔を歪めるデレクをライアーは何も言わず抱きしめた。


「お父様、変顔の練習ですか??」


「何でこんなときまでいつも通りなの」


「いつも通りで安心したでしょう??私は大丈夫よお父様。それにさっきの話も安心して、文句言う奴は口で言い負かす自信あるし」


ふふっとライアーが含み笑いすると、デレクは想像できるから怖いと震えた。その様子を見上げていたエリナは下唇をグッとかんだ。


「……なんでいつも私が!!私は何も悪くないじゃない!!頭が良くて綺麗で全てを持っている姉の傍で私はどんなに惨めな思いをしてきたと思ってるの!!婚約を邪魔してなにが悪いのよ!!」


爆発した感情が、エリナを興奮させた。顔を真っ赤にさせ床に崩れたまま叫ぶエリナ、それをライアーから離れたデレクは見下ろした。


「僕にとって、エリナもライアーも宝だ。妻が僕に残してくれたかけがえのない宝。ただ、大事にしてしまいすぎたようだね。父親失格だ、すまないエリナ。お前はもっと広く世界を見るべきだ」


「何よ世界って!!なにを言ってるかわからないわ!!!!」


激昂するエリナの肩にデレクは触れる。


「エリナ、お前を公爵家へ奉公に出す」


髪を振り乱し暴れていたエリナの動きが止まる。はらりと一束の髪が顔に流れ動きを止めた、エリナの瞳に絶望が現れる。


「お、とう様。嘘よね??」


縋るように、差し出すエリナの手をデレクはしっかりと握った。


「もっと早くにこうするべきだった。お前はライアーの存在に囚われてすぎている。家を出てもっと広い世界を見ておいで。お前にはお前しかできない事がきっとある。ライアーとエリナは違うんだ。張り合う必要も勝つ必要もない」


デレクは、自分の武器を探しておいでとエリナを抱きしめた。行きたくない、嫌だ、と泣きじゃくるエリナにデレクは何も言わず抱きしめ続けた。


あれが、妹の本音だったのだろう。ライアーは、泣きじゃくる妹の姿を見て目を閉じた。


何故嫌がらせを受けるのかといつもイライラしていたが、妹には妹で色々と思いつめる部分があり、その原因は自分なのだと気付き胸を痛めた。


「お前が気を病むことはないよライアー。お前は何も悪い事をしていない」


顔を上げれば、デレクは微笑んでいた。


「疲れたろう、今日は部屋に帰って休みなさい。エリナには僕がついてるから大丈夫だ」


「……はいお父様。おやすみなさい」


「おやすみライアー」


これ以上いても、なんに役にも立たない。そう思ったライアーは素直に部屋を出た。


部屋の外に出ると、壁に寄りかかるようにしてイアルが立っていた。窓の外をボーっと見ている姿も恐ろしいほど綺麗な人だなとライアーは目を逸らした。


それよりも、彼はずっとここで、話しが終わるのを待っていてくれたのか??驚き視線を戻すとイアルと目があった。


「話は終わった??」


「……はい」


「少し時間いい??ほんの少しで良いから」


手を握られたライアーは困惑しつつ頷いた。イアルはこっちと握った手を引く。


何処まで行くのだろうかと後をついていっていると、イアルが急に振り返った。


「目を閉じててね」


「え、なんでですか??」


「いいからいいから」


言われるがままに素直に目を閉じる。歩くの怖いなと思いながらも慎重に歩き、しばらく歩いた先でイアルが立ち止まった。


「もう良いよ、目を開けて」


ライアーはゆっくりと目を開けた、そして息を呑んだ。目の前には、月の光に照らされて輝く花が沢山咲いていたのだ。


「きれい」


淡い青色に輝く花。月の光によって照らされているのかと思ったがどうやら花自体が光っているようだ。


月夜(つきよ)(なみだ)って品種の花だよ。この国固有の植物で、昔はランタンの中に入れて明かりの代わりにしてたんだって」


「そう、なんですね」


腰をかがめて、花を観察する。マーガレットのように白く小さな花。花は不思議だ、自然と笑顔になれる。月夜の涙を見つめ微笑むライアーに、イアルも満足そうな顔をした。


「元気でた??」


「え??」


「……部屋から出たとき、すごく辛そうな顔をしてたから」


ふわっと吹く風に、月夜の涙の花びらが舞う。花もこの人も不思議だとライアーは思った。傍にいると、自然と笑顔になれる。


「えぇ、もう元気です。ありがとうございますイアル」


離れていた手をどちらともなく繋ぎ直し、月明かりの下で綺麗に咲き輝く花を、二人は寄り添い眺めた。


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