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オリジ・ヘーケイド



かなりまずい状況だと、その場に居たもの全員が口をつぐんだ。


打開策なんてない、今まで面倒な妹から逃げ、面倒な求婚から逃げてきた私への罰だろうか。ライアーは、悲鳴に近い使用人たちの騒々しい声が何処か遠くから聞こえてくるように感じた。


脱力しブランとたれ落ちた腕。ソッと暖かなぬくもりが触れた。


「ライアー様、まだ諦めてはいけません」


触れたぬくもりは彼女の手だった。スミネはライアーの手をとり眉を吊り上げ、諦めかけていたライアーを鼓舞するようにギュッと手を握り締めた。


それでもいい案なんて浮かばない。下唇を噛む力がいっそう強くなった。


「なにをボケッとしているのですかお嬢様」


突如聞こえた聞きなれた声に、俯いたライアーの顔があがる。顔を上げた先に立っていたのは、母のように慕ってきたクレフィング家の古株の使用人オリジだった。


きっとデレクの計らいで、彼女も婚約パーティーへの出席する予定だったのだろう。


「オリジ」


ライアーがか細く震える声で名前を呼べば、オリジは仕方がないなとでも言わんばかりに目じりに皺をつくって優しく笑った。


「私は、オリジ・ヘーケイドと申します。クレフィング家で使用人として働いているものです。そこの方、大変申し訳ありませんが裁縫道具の準備をお願いいたします」


オリジは近くにいた使用人にテキパキと指示を出していく。頼まれた者たちは困惑しつつもその場を去っていった。指示を出し終えた彼女ライアーに向き直り、自信満々に言ってのけた。


「お嬢様の婚約を台無しになぞさせません。このオリジにお任せあれ」


まるで、シナリオが出来上がっているようだ。彼女に任せれば大丈夫だと皆が思うほど、声色からは自信と力強さを感じる。


「どうするの??」


「何簡単なこと、そのシミを隠せばよいのです。幸い数箇所ですからね何とかなります」


まもなくして指示を出された使用人たちが大急ぎで戻ってきた。手にはそれぞれ裁縫道具、破かれた数着のドレスが握られている。


「どなたか、できる限りの人を集めていただけますか」


数人の使用人がはいと頷き散り散りに走っていく。用意された部屋に全員が移動しオリジは、はじめましょうと頷いた。


「今からハサミでこのドレスを花形に切っていただきます。形はまばらでも構いません」


城中からハサミを持ち寄り、使用人たちはどうするのだと首をかしげながらドレスに刃先を入れた。ライアーは仮のドレスに着替え、同じようにハサミで生地を花形に切っていく。


「針子の方はこちらへ、赤いシミのある場所を中心に取れぬようにしっかりと縫い付けてください。真ん中に糸を通すだけで結構です」


切られた花形の生地が、シミを覆い隠すように縫い付けられていく。すべて縫わず、真ん中だけ縫い付けている花がユラリと揺れている。


花を着けていくことで、シンプルだったドレスがフンワリとした印象のものに変わっていく。


「レースをお持ちしました!!」


荒々しくドアが開き、レースの生地を持った使用人が走りこんでくる。オリジは、その人の元まで向かうとねぎらいの言葉をかけその生地を受け取った。


「お嬢様ドレスを」


オリジに急かされライアーはあわててドレスに着替える。フワリと揺れる花を覆うようにレースを巻きつけ、リボンを作る。一瞬にしてドレスは出来上がった、銀色一色の綺麗なドレスだ。


レースによって、歪な形の花や切り口の解れなどは綺麗に隠れている。


綺麗にシミが隠れ変貌を遂げたドレスに、あちこちから歓声と拍手が飛び交った。


「有難うオリジ、それから皆さんも。有難う御座います」


頭を深く深く下げると、何処からともなく「気にするな」「よかった」「綺麗よ!!」という言葉が聞こえる。


嬉し泣きしそうになるライアーの頬をオリジは真顔で摘んだ。


「泣いてはなりません、せっかくの化粧がはげます」


「すひまへん」


怖いし痛い。が、本気で涙腺のダムが決壊しそうだ。我慢できず、ライアーがオリジに抱きつけば彼女はやさしく背に手を回した。



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