ここに来てまさかの反対!?
「先ほどは大変失礼いたしました」
掃除道具を取りに向かう少女たちを横目に、使用人の男が頭を下げた。大したことではないので、別にかまわないと笑った。
幼い少女がしでかした事、それにあの反省振りからして二度と同じことはしないだろう。
水に濡れたくらいで怒らないと言うライアーに、横を歩いていたイアルの口角があがった。
王と王妃が待っている部屋の前まで、案内し終わると男性は一礼してドアをノックした。中からはいと鈴の音のような綺麗な声が聞こえた。
「陛下、イアル様そしてご婚約者であるライアー様をお連れいたしました」
「あぁ、入れ」
失礼いたしますとドアが開き、中へと促される。どうやら書斎のようだ。机に座る王とその横には綺麗な服を身につけた女性が立っていた。彼女が王妃だろう。
「父上、母上。ご紹介いたします、クレフィング伯爵家のご令嬢ライアー・クレフィングさんです」
イアルの紹介の後、ライアーはゆっくりと頭を下げた。
「ライアー・クレフィングと申します、お会いできて光栄に御座います」
イアルの父である国王は、予想以上に見た目が若かった。というのが一番最初の印象だった。父というよりは、兄といわれたほうが納得がいくような。
「ロマード・ゲイン=ファニマーン、イアルの父です。私も、君にあえて光栄だよ」
その横に立っていた女性も、前に一歩でた。瞬間にキッと綺麗な眉を吊り上げた。
「私は人間との結婚など認めませんよ」
まさかここにきての反対。ライアーはポカーンッと口を開けた。
「そもそも、貴方には私が用意した婚約者がいたはずです」
「ッ!!……母上、僕はその方とは結婚いたしません。このライアーと結婚します」
突如腰に手を回され引き寄せられる。ふんわりと匂う彼の香りと彼の体温に、顔が赤くなるのを感じた。やめてくれ、恥ずかしさで死にそう。
「……と言うつもりでした。つい先ほどまで」
え??今度は、イアルもライアーも共に目をパチクリとさせた。言うつもりだった??ということは今は違うということか??
「聞きましたよライアーさん。使用人の者が大変失礼な行いをしてしまったようですね。貴女はそれを咎めることなくお許しになったとか」
彼女の言っていることは、先ほどの少女のことだろう。
もう両陛下の耳に入っているとは思わなかった。驚きつつも首を左右に振った。
「いえ、その件でしたら私もあたりをキョロキョロとしておりましたので。彼女だけに非は御座いません」
「!!……そう、あの子だけが悪いとはおっしゃらないの」
王妃は驚いたように目を丸めた。ライアーの発言は予想だにしていなかったようだ。一息ついた彼女が再び口を開いた。
「私は人間が苦手です。傲慢な生き物だとずっと思っていましたから」
王妃は目を伏せ過去を思い返しているようだ。過去、彼女が人間を嫌う出来事があったのだろうか。とても悲しそうな彼女を見て、なんと声をかけていいのか悩んだ。
ふと彼女の視線がライアーに向けられる。
「ですが、改めねばならないと今しがた思いました。イアル、よき伴侶を見つけましたね」
「有難う御座います」
頭を下げるイアルにならってライアーも頭を下げた。
「改めてロマードの妻、ルイズ・リア=ファニマーンです。先ほどはごめんなさいね、仲良くしたく思うわ、どうぞよろしく」
美人の笑顔とは、恐ろしいほど綺麗だ。ポーッと見とれていたが、我に返りすぐにライアーは頭を下げた。




