緊張する
知らず知らずのうちに彼に惹かれていた事実をはっきりとさせてしまった。
はっきり言って恥ずかしさが尋常じゃない。恋愛事とは今まで疎遠だったのだ、ほぼゼロに等しい。
恋多きは妹エリナの方。むしろ、ライアーの恋愛運はすべてエリナに吸い寄せられていくのではないかと思うほど、姉妹での差があった。
それでも良いとライアーは思ってはいた。恋の駆け引きなど面倒くさくて仕方ない。
恋愛事なんて生涯しないだろう。そんな考えを持っている彼女に訪れた初の恋心。相手は好都合にも婚約者、いいことはいいがかなり負担がある、主に心臓に。
「ライアー、どうしたの??」
体調でも崩したのかとイアルが顔を覗き込むが、彼の行動は今のライアーには逆効果。
ボボボッと顔が真っ赤に染まる。
「なんでもありません、えぇまったくなんでもありません」
「なんで念押し??」
なんでもないと、彼に言っているのか自身に言っているのか。ライアーはなんでもないと首を振った。
馬車は、ファニマーン王国の王都ルシテナの町の中を進む。
「綺麗なところ」
窓の外に広がるのは、活気づいた町並み。
今日のオススメはこれだとでも言っているのだろう、体格の良いおじさんが新鮮な野菜を片手に道行く人に声をかけている。
子供と手をつないで買い物に着た女性。噴水の近くで読書をする青年。どこか見覚えのある風景だが、全員フサフサの耳と尻尾がついている。
不思議な光景だ。
町の中を横切り、一際目立つ城へと向かう。聳え立つ大きな外壁、外門がゆっくりと開き始め馬車が通過する。
外門から敷地内へ入って少しして、馬車はゆっくりと止まった。
止まると同時にイアルが先に外へと出た。
彼はドアを開け、中にいるライアーへと手を差し出した。いつものように手を握るという行為に緊張する。
「ちょっと待ってください、手汗が」
「……緊張してるの??」
必死で手を乾かすライアーに、イアルはキョトンと目を丸めた。
そうだ緊張している。彼が思っている以上に、かなり。足は生まれたての子鹿も吃驚なほどに小刻みに揺れている。
婚約といいつつもイアルの両親への挨拶は今日が初めてだ。本来は会うべきなのだろうが、互いに容易に行き来できないため今日が顔合わせとなった。
それにプラス恋心の自覚。まさにダブルパンチとを食らったようだ。緊張しない方がおかしい。
あぁ震える。と差し出された手を握れば優しく握り返される。
「大丈夫、僕が傍にいるから」
微笑む彼に、自然と心が落ち着く。確か、前にも同じようなことがあった。
不思議だが、彼といると心がどれだけ荒れていても落ち着くことができるようだ。きっと彼の温和そうな雰囲気のおかげだろう。
馬車から降り、イアルに手を引かれ玄関先まで歩いていくと。城に使える使用人たちが一列に並んで二人を向かいいれた。




