まっさか~そんなわけ、え??
盗賊とまさかの接触というトラブルを乗り越え、無事にファニマーン王国へとたどり着く事ができた。一時はどうなるかと思ったが、どうにかなるものだなとライアーは隣でスヤスヤと眠るするイアルに目をやった。
「イアル様、そろそろ着きますよ??」
ファニマーン王国が見え始め、イアルの肩を揺らす。ピクリと瞼が動いた。だが彼は何も言わず目を閉じたまま、どうやら狸寝入りをする気らしい。
なんで??なんでだ王子よ。という彼女の呼びかけにも応じない。どうしたものかと悩むが、すぐに彼が反応しない理由がわかりグッと下唇に力が入った。
「イア……ル起きて」
イアルが返事をしないのは、ライアーの呼び方が悪かったためだ。その証拠に、言い直すと彼はあっさりと目を開けた。
「よくねたぁ」
「……それは良かった」
あの想像の後ぐっすり眠れるってあなた只者じゃないわね。というライアーの心中は表に出ることはなかったが彼がゆっくり眠れたのであれば何よりだ。
んーっと背伸びをしつつ、彼は口を開いた。
「命の危機を感じなかったから、安心して寝れたよ」
「は??」
え、命狙われてるの??大丈夫なの??という困惑が顔前面に押し出される。そんなライアーにイアルはハハハ~ッと笑って見せた。笑い事ではない。
「誰に狙われてるんですか!?」
胸倉を掴む勢いで、捲くし立てるライアーにイアルは笑みを浮かべたまま外を指差した。
「あ!!着いたみたいだよ」
「話を聞いて!?!?」
着いたか着いてないかより大事なことを今は話しているんだけれど!?!?
何故自分の命が狙われているかもしれないのに、彼はこれほどノホホーンとしているのか理解に苦しむ。もしや彼はかなり強いのか??狼ではなくゴリラなのか??と一人顎に手を当て考える。
「大丈夫だよ、命を狙ってくる人たちが誰か知ってるし」
「大丈夫の意味とは??」
ライアーは真顔で、イアルを見た。彼の大丈夫ほど信用できないものはないだろう、この話をしてひどく理解した。知ってるから大丈夫なんて事はないだろう。
「寝てるとナイフを投げられるんだよ、訓練と称してね。奇襲を受けてもすぐに起きれるようにと父上が言い始めて、ぐっすり寝たのは数年ぶりかな」
「……は??」
あれ、なんか私が思っていたのと違う。そういうやつなの??と再び困惑タイム。
王座を狙った血みどろ争いの真っ最中かと思いきや、まさかの訓練。いや大切ではあるよねとライアーはうなづいたが、その顔は少しやつれ気味だ。
王様になれば何処から奇襲を仕掛けられるかわからない。その訓練はそういう場合有効かもしれない。ただ、時々は安眠させてやれよとファニマーンの王様には言いたい。そしてイアルには、紛らわし言い方するなと説教したい。
この数分が一番疲れたと、背もたれに身を任せた。盗賊とのトラブル5回分くらいの疲れを感じる。
「……あッ!!王座争いとかで命を狙われているとかはないですよね!?腹違いの弟がいてその母親が我が子を次の王に!!みたいな」
ライアーはハッと起き上がった。
王様は数人の妻がおり、腹違いの子がたくさんいる。そして、それぞれの妻は自分の子供を次の王にとだいたい推す。心配されるのは、そこから始まるのは血みどろの争い劇だ。
自分自身が巻き込まれたくないのが一番だが、それよりもシュッとした見た目からは想像できないほどのほほ~んとした彼がそんな中で生き残れる気がしないのだ。
次期王ならより狙われる確率が高い。今ならまだ間に合う、もしそうなのであれば彼に逃げようと提案しなくては。
しかし、それはライアーの杞憂に終わった。
「父上には妻は一人しかいない。嫡男は僕だけだしね、君が心配してるようなことはないよ」
ふわっと彼が笑うのを見て、そうかなら良かったとホッと息をつく。
一人歩きしていた妄想が落ち着いていく。冷静になり、先ほどのホッとした胸に手を当てた。彼の身近に命を脅かす脅威がいない事を知って、ひどく安心した。
何故だ??
そもそも、一人で逃げ出せばいいものを二人で逃げようと考えていた。何もかも捨てて、命の危険のない場所に逃げようとした。
何故だ??
……え??と自分の心情に戸惑った。この気持ちが、何なのかわからなぁなんて言わない。もしかしてとライアーは口に手を当てた。
「好きになりかけてる??」
自分で言った事を、ライアーはまっさか~と笑い飛ばした。
しかし、隣に座る彼と視線が合うと高鳴る胸。そして上がる体温がすべてを示している。自覚してしまうと、戻れないといつか誰かが言った。
ライアーは、顔を手で覆って叫びそうな声を必死で抑えた。




