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短編集

魔術学院で落ちこぼれたあたしは、魔法少女となって成り上が……え、魔法少女?

作者: 緋色の雨

 フォーセリア大陸の歴史は、魔術の発展と共にあった。

 大気中にある魔力素子(マナ)を魔力へと変換し、六属性の魔術を行使する。もしくは魔力が結晶化した魔石を使って、様々な魔導具を使用する。

 フォーセリアはそうやって発展を続けている。


 ゆえに高い魔術適性を持つ者は国から優遇される。基本的に適性は遺伝するため、高い適性を持つ者は貴族となり、適性を持たない者は平民として暮らしている。

 だが――


 フォーセリア大陸の片隅にある、ククリという田舎町。

 十二歳になった子供達を集めておこなわれる成人の儀で、魔術適性は遺伝するという慣例を蹴っ飛ばすような異常事態が発生した。


 とある田舎娘――あたしのことだ。あたしが魔術適性を調べる水晶球に手を置いた瞬間、まばゆい光を放って水晶球が砕け散ったのだ。

 呆気にとられているあいだに周囲が騒然となり、あたしは別室へと連行され、身分の高そうなおじさんと二人っきりにされてしまう。


 あたしは、あわわ、高そうな水晶をくだっ、砕いた!? あたし? あたしのせい? 弁償しろって言われたらどうしよう!? ――なんて感じでパニックだ。


 だって、あたしの家は貧乏なのだ。

 魔導具なんて火を熾す安物の魔導具がかろうじてあるくらい。水は少し離れたところの井戸から汲んでいる。高価な魔導具を弁償するお金なんて絶対にない。


「そなた、名はなんと言う」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。あたしが一生働いて返していくので、家族だけは、家族だけは許してください!」

「……む? なんの話だ?」

「え? その、水晶の弁償をさせるために名前を聞いているんです、よね?」

「あぁいや、弁償の必要はない」

「本当ですか!?」

「うむ。必要経費として国から支払われるから心配しなくて良い」

「よ、良かったぁ……」


 あたしはへなへなとテーブルにへたり込んでしまった。それから深呼吸を三度、ようやく落ち着きを取り戻したあたしは、自分がフィオナだと名乗った。


「ならばフィオナ。少々興奮しすぎたせいで、そなたを驚かしてしまったことを謝罪する。だが、そなたがそれだけの異常事態を引き起こしたということを理解して欲しい」

「……異常事態、ですか?」

「そうだ。そなたの触れた水晶がなにを調べる魔導具かは知っているな?」

「魔術適性、ですよね? たしか……百を越えれば将来は安泰。千を越えれば貴族になるのも夢じゃないって、聞きました」

「そうだ。そして、あの水晶は理論上9999まで測定できるといわれている。それを、そなたは砕いて見せた。つまり――」

「あの水晶が壊れていたと?」

「違う。そなたの魔術適性が9999を越えている可能性が高い、ということだ」

「………………はい?」

 意味を理解できなくて、あたしはこてりと首を傾けた。


「ありえるんですか?」

「普通はありえない。だが、水晶が砕けたのも過去に例はない。そなたは、この国の誰よりも魔術適性があるということだ」

「いやいやいや、ありえないですよ。だってあたしは平民の娘ですよ? お貴族様でも千を越えてるくらいなのに、それよりもずっと上なんて……」


 あるはずがないと捲し立てるあたしを、おじさんがジッと見つめている。まるで物分かりの悪い子供が理解するのを、辛抱強く待っているかのようだ。


「…………まさか、本当に?」

「うむ。むろん、水晶が劣化していた可能性も否定は出来ぬが、それでも数千を超えていることは間違いがない。ゆえに、そなたには王都にある魔術学院に通ってもらう」

「――無理です」

 あたしはきっぱりハッキリ断言した。


「……む、なぜだ?」

「さっきも言いましたけど、うちは貧乏なんです。学費はもちろん、王都で一人暮らしするお金だってありません」

「それならば国から奨学金が出るので心配ない」

「……それ、後で返さなきゃいけないんですよね?」

「結果を出せば返す必要はない。それに、学院を卒業すればそなたは魔術師だ。奨学金くらいいくらでも返せるようになる」

「そう、なんですか?」

 あたしはちょっと心引かれた。


「そなたは魔術適性が9999だから、なんの心配もない。将来は上位貴族になることも夢じゃないだろう。そうすれば、家族にも楽をさせてやれるぞ」

「ぜひ、その学院に通わせてください!」

 あたしはその話に飛びついた。



 その後、あたしは魔術学院で最高の成績を収め、王様から直々にお褒めの言葉を頂いて貴族の地位を得る。でもって、家族のみんなを呼び寄せて幸せに暮らしましたとさ。

 ――って、なるはずだったのに、はずだったのに!

 あたしは速攻で躓くこととなった。


 まず、学院では当然のように読み書きが必要となる。けど、田舎町で生まれ育ったあたしは、お店の看板や物の値段が読める程度。

 それでも良いですかとおじさんに尋ねたら、ダメに決まってるだろと、入学までの一ヶ月のあいだにスパルタ教育を施された。

 しかも、朝から晩まで勉強漬けでがんばって覚えたら、間に合うとは思わなかったと呆れられる始末。出来ないと思って詰め込んだわけ? 酷すぎる。

 一生分の勉強をした気分なのに、本格的な勉強はこれからなんて……あたし、大丈夫かな?



 そんなこんなでスタート前から躓きながらやって来た入学初日。あたし達一年生は校庭に集められていた。その校庭には同じ魔法陣がいくつも描かれている。


「……なにが始まるんだろ?」

「これから魔術属性を調べるんですわよ」

 あたしの呟きに答える声があった。見れば美しいプラチナブロンドを風になびかせる、おっとりしたお嬢様が微笑んでいた。


「こんにちは。わたくしはリズベットですわ」

「あ、えっと……あたしはククリ村のフィオナだよ」

「まあ! やはり、あなたが魔術適性9999を叩き出したフィオナさんですわね!」

 瞬間、周囲がざわっ! と騒がしくなった。


 周囲から「魔術適性9999? 嘘だろ?」「いや、俺は聞いたことがある」「あぁ、なんでも水晶が砕けたらしい」「平民のくせに、魔術適性9999だと?」

 ――なんて声が聞こえてくる。


「あら……騒ぎになってしまいましたわね。わたくしったら、ごめんなさい」

「う、うぅん、気にしないで。それより、属性を調べるってどういうこと?」

「自分が持つ属性がなにかを調べるんです。光と闇、それに風、水、土、火の六属性があり、適性のない属性の魔術は、原則として使うことが出来ません」

「え? じゃあ属性がなかったらどうなるの?」

「落ちこぼれ決定ですわね。でも最低でも一つ、優秀なら二つ三つは属性があるのが普通なので、心配する必要はありませんわ」

「そうなんだ、なら大丈夫だね」

 あたしは魔術適性が9999もあるのだから、問題はないだろう――と、このときのあたしは楽観していた。

 だけど、属性を調べる魔法陣に魔力を注いだ結果――魔法陣は真っ白な光を放った。


「おい、見ろよ、あいつ無属性だって」

「マジかよ、無属性なんて落ちこぼれ決定じゃねぇか!」

「おいおい、あいつ、魔術適性9999だったやつだろ?」

「うはっ、笑える」

「魔術適性が9999もありながら無属性ですべてを台無しにするとは、さすが平民だ!」

 周囲から聞こえてくるのは、あたしを嘲笑う声だった。


「無属性……適性が、ない……落ちこぼれ」

 結果を出せなければ奨学金を返さなきゃいけない。でも、落ちこぼれたら奨学金を稼ぐなんて出来るはずがない。

 その事実を理解したあたしは――意識を失った。




「うぅん……ここは?」

 目を覚ましたあたしは、見知らぬベッドに寝かされていた。白い部屋で、ベッドの周りにはカーテンの仕切りが引かれている。


「あ、ようやく目が覚めたんだね」

 すぐ側から振って降りる声。見上げれば、ベッドサイドにブロンドの少女が座っていた。

 そして、その耳がふわふわである。


「……イヌミミ族?」

「うん。ボクはイヌミミ族のミレルだよ」

「あ、えっと……あたしはフィオナだよ。それで……あたし、どうなってるの?」

「えっとねぇ……」

 ミレルいわく、あたしが校庭で倒れた後、先生と一緒にここに運んできてくれたらしい。でもって、自分の属性検査は終わっていたので、付き添ってくれたらしい。


「ありがとうね。えっと……ミレルさん?」

「ミレルで良いよ~」

「じゃあミレル、あたしもフィオナで良いよ」

「うん、フィオナ。それで……もう大丈夫?」

「……あ、そうだ。あたし、無属性で……」

 現実を思い出して唇を噛む。


「あ、フィオナは無属性じゃないよ」

「……え?」

 さらりと言われたせいで理解できなかった。


「六つの属性にはそれぞれ相克――互いに打ち消し合う属性が存在するの。そして、それらの光の組み合わせは、白い光へと変化するんだよ」

「……そう、なの?」

「うん。たとえば――」

 あたしには良く分からなかったけど、光には色が付いていて、その色が一定の混ざり方をした場合は白い光に見える、ということだった。


「じゃあ……あたしは無属性じゃない、の?」

「うん。フィオナは六属性全部持ってるよ」

「そうなの!? なら、あたしは普通に魔術が使えるの?」

「うぅん、それは無理」

「無理なの!?」

「うん。属性が打ち消し合っているから、普通にやっても魔術は発動しないんだよ」

「そんなぁ……」

 うぅ、どん底から引き上げて、また落とすなんて酷すぎるよ。


「元気出して、フィオナ。フィオナでもある方法で魔法を使えるよ」

「え、そうなの?」

 あたしはパチクリとまばたいた。


「うん。フィオナはそれを目指したら良いんじゃないかな?」

「へぇ、そうなんだ? それなら、あたしにも出来るかなぁ?」

「フィオナなら大丈夫……って、その腕、どうしたの?」

 ミレルの視線があたしの腕に釘付けになる。腕から少し血が出ていた。


「これは……さっき転けたときに怪我をしたみたいだね」

「そうなんだ。ちょうど良かった。ちょっと腕を出してみて」

「えっと……こう? ――ひゃうっ!?」

 手当てしてくれるのかなと思って腕を差し出したあたしは、ミレルに傷口をペロリと舐められて悲鳴を上げる。


「なっ、なにするの!?」

「えへへ。ボクがフィオナに力を貸してあげる」

 意味が分からない。

 つぶらで邪気のない瞳が、ジッとあたしを見つめている。ふざけているようには見えないけど……なんだろう? イヌミミ族の友情の証とか、そういうのなのかな?

 そんな風に考えていると、ミレルが再びあたしの腕を掴んで舐め始めた。


「ちょ、く、くすぐったいんだけど……っ」

 腕を引こうとするが、ミレルが強く掴んでいて振り払えない。もちろん、全力は出していないけど、そうするとミレルを怪我させてしまいそうで出来ない。

 そうしてあたしが戸惑っているあいだに、ミレルはペロペロと……


「あ、あの、ミレル? いつまで、んっ。舐めてるの?」

「……あ、ごめん。血が美味しくてつい」

「血が美味しくて!?」

 今度こそ手を引っ込める。


「ど、どういうこと? あたしを食べるつもり?」

「まさか、そんなことはしないよ。いまのは……えっと、そう。ちょっとした冗談だよ」

「……なんだ、冗談か。脅かさないでよ」

 あたしはホッとため息をついた。

 でも、無属性でも魔法を使う方法ってなんだろう? そう口にしようとしたところで席を外していた保健室の先生が戻ってきて、あたし達は寮へと帰宅することになた。

 初日は、挨拶と属性の検査だけで終わりだったらしい。



 こうして、あたしの最悪な入学初日は終わりを迎えた。

 はずだったのだけど――

 学生寮に与えられた部屋で黄昏れているあたしのもとにリズベットがやって来た。


「リズベットさん? どうかしたの?」

「フィオナさんと少しお話をしたいと思いまして」

「……えっと、じゃあ……上がる?」

「ええ、お言葉に甘えますわ」

 ということで、あたしはリズベットを部屋に上げた。


「……見事になにもありませんわね」

 飾りっ気のない部屋を見て、リズベットがぽつりと口にする。


「あたしは平民だからね」

 奨学金で部屋を借りているけど、家具を買う余裕なんてない。

 むしろ、結果を出さなければこの部屋も追い出されるはずだし、入学などに使った奨学金も返さなきゃいけなくなる。

 頭の痛い話を思い出してあたしはため息をついた。


「そういえば、あたしにも魔法を使う方法があるって聞いたけど、ホントかな?」

「あら、どこでその話を聞きましたの?」

「えっと、ちょっと小耳に挟んだんだけど、ホントなの?」

 あたしの問い掛けに、リズベットはこくりと頷いた。


「事実ですわ。わたくしもちょうど、その話をするためにやって来たんです」

「……どういうこと?」

「わたくしの一族は、契約した相手に力を与えることが出来るんです」

「契約?」

「ええ。結論からいいますが、契約すると、フィオナさんは魔法を使えるようになります」

「え、ホントに!?」

 このまま落ちこぼれて借金まみれの運命――なんて思っていたあたしは、その言葉に光明を見つけた気持ちになった。


「教えて、どうすれば良いの!?」

「わたくしと契約するだけです。わたくしはあなたから純度の高い魔力を供給してもらい、あなたはわたくしの力を行使する。そういう契約です」

「……えっと、あたしは魔力をあげるだけ?」

「ええ、その通りですわ。必要な魔力も、魔術適性9999のあなたには些細な量でしかありません。決して損はさせないと約束いたしますわ」

「ええっと……」


 まさに渡りに船といわんばかりの提案。

 だけど、だからこそ、あたしは警戒する。魔術適性9999で貴族にだってなれる。そんな甘い言葉に釣られてホイホイやって来た結果がいまの状況だからだ。


「ホントのホントに、魔力を供給するだけで良いの?」

「ええ、もちろんですわ」

「あたしにとってありがたい話だけど……リズベットさんにはどういう利点があるの?」

「わたくしが秘術で契約できるのは生涯で一度だけなんです。ですから、出来るだけ魔術属性が高くて、無色に近い魔力を持つ相手と契約することが望ましいんですわ」

「……つまり、あたし?」

「はい。フィオナさんは、わたくしにとって最高の契約相手ですわ」

「そう、なんだ……」


 それが本当なら、あたし達は共存共栄が出来る。

 本当かどうかは疑問が残るけど、奨学金のことを考えると、たとえ怪しくてもこの話に乗るしかない。それくらいあたしは追い詰められている。


「もう一度だけ確認させて。リズベットさんの言葉に嘘はないんだね?」

「ええ。わたくしの家名に掛けて誓いますわ」

 あたしを見るリズベットの目は、どこまでも澄み渡っていた。


「……分かった。それじゃ、あたしと契約をして」

「ありがとうございます、フィオナさん。決して後悔はさせませんわ」

「うん、そうしてくれると嬉しい。それと、あたしのことはフィオナで良いよ」

「では、わたくしのこともリズで構いませんわ」

「分かった。それじゃリズ。さっそくだけど、契約ってどうするの?」

 さっそく契約をしようと、あたしはやり方を尋ねた。


「手を出してください」

「えっと……こう?」

「はい。指先を少し切りますね」

 リズがナイフを取り出して、私の指先に押し当てて少し横に引いた。


「――あいたっ」

 わずかな痛みが走り、指先から血が滲んだ。


「それでは……契約をいたしますね」

「う、うん」

 どうするんだろう? そう思ってみていると、リズがあたしの指をくわえた。


「リ、リズ!?」

「うごかないひぇ、くらさいまへ」

 リズがあたしの指先、おそらくは血を舐め取っている。そのくすぐったさに身を震わせながら耐えていると、リズはほどなく指から口を離した。


「……これで、契約は完了ですわ」

「へぇ、いまので終わりなんだ。これで、魔術が使えるの?」

「え? いえ、魔術じゃなくて魔法ですよ。魔法少女です」

「あ、そういえば魔法って言ってたよね。あれ……? 魔術と魔法って違うの!?」

 言い方が違うだけだと思ってたあたしは思わず慌てる。


「似たようなものだから大丈夫ですわよ」

「……ホント?」

「ええ、問題ありませんわ。…… (変身しなきゃ魔法が) (使えない以外は)

「……え、いまなにか言った?」

「いいえ、なにも言ってませんわ」

「そっか……」

 似たようなものなら問題ないだろう。

 ない……よね? きっと、結果を出せたら大丈夫、だよね。


「それで、どうすれば良いの?」

「いくつか手順があるんですけど、まだフィオナの血がわたくしに馴染んでいないので、その辺りはまた後日にいたしましょう」

「そっか……楽しみにしておくね」

「ええ、そうしてくださいませ」

 リズはふわりと微笑んで立ち去ろうとする。

 だけど玄関口で思い出したかのように振り返る。


「フィオナさんは魔術適性が高い上にすべての属性を兼ね揃えているという、奇跡のような存在。他にも契約をしたいという者が現れるかもしれませんが、浮気はダメ、ですわよ」

「浮気って……」

「ちなみに、浮気をしたら大変なことになります」

「……大変なことが気になるけど、しないから心配しないで」

 あたしは笑ってリズを送り出した。


 学院の生徒は貴族とかが大半で、肩身の狭い思いをするかも、みたいなことも聞いてたけど、初日から友達も出来た。色々あったけど、ひとまずはなんとかなりそう、かな。

 そうして一息ついて奥に戻ろうとしたら、再び扉がノックされた。


「なにか忘れ物を――」

 扉を開けたあたしのに立っていたのは、リズではなくてミレルだった。


「……あれ、どうしたの?」

「うん、保健室での話、途中で終わっちゃったから」

「あぁ、そうだったね」

 ということで、ミレルを部屋にあげる。

 そして――


「それじゃ、フィオナとボクが契約したことだけど」

「……………………え゛?」

 変な声が漏れた。


「ま、まままっ、待って、ちょっと待って。おおおおち、落ち着いて!」

「落ち着くのはフィオナだと思うけど……」

「そそそ、そうだよね!」

 深呼吸を繰り返して状況を整理する。


「えっと、その……契約したって、い、いつのこと?」

「さっき、保健室で、だよ。フィオナの血を、ボクが舐めたでしょ?」

 や、やっぱりいいいいいいいいっ!

 って、口に出さないあたし、超頑張った。


「あ、あれが契約、だったんだ。じゃ、じゃあ……その契約って言うのはもしかして、あたしが魔力を上げる代わりに、魔法を使う力、だったり……?」

「あ、知ってるんだ。その通りだよ!」

「はうあっ!」

 その契約、あたしリズともしちゃってるよおおおおおおおおお!

 なんて言えるはずもなく、あたしは思わず頭を抱えた。


 待って、落ち着くのよ、あたし。ミレルはあたしになにも言わずに契約したくらいだもの。きっと契約の破棄だって簡単にできるはずよ。


「ちなみに、契約の破棄って……」

「……え? それは出来るけど……」

 ミレルがちょっと悲しそうな顔をする。罪悪感に苛まれるけど、心を鬼にしなきゃいけない。そう思った矢先――


「でも、ボク達が契約できるのは生涯で一度だけなの」

「……え? そ、そうなの?」

「うん。だから、一度破棄したら、ボクはもう誰とも契約できなくなっちゃうかな」

 寂しそうに笑う――って、笑ってる場合じゃないでしょうが!


「なんでそんな重大なこと、あたしになにも言わずにしちゃったの!?」

「だってボク、フィオナが運命の相手だと思ったんだもん。他の貴族みたいに横暴じゃないし、イヌミミ族のボクを見ても蔑まないし。なにより、魔力が凄いし」

「だからって……」

「ボク、軽い気持ちで契約したんじゃないよ。フィオナになら、ボクの力をあげてもいい。そう思ったから、フィオナと契約したんだよ」

「そ、そう、なんだ……」


 あうあうあう。こんなこと言われたら、破棄してなんて言えないよ。

 でもでもでも、浮気……っていう言葉が正しいのか知らないけど、いきなり二重契約。リズは大変なことになるって言ってた。

 このままじゃ、どう考えても身の破滅だよ。これからどうすれば良いんだろう……と、窓から見える空を見上げた。太陽が地平線へと沈み、空が紫色へと染まっている。

 その少し不穏な色が行く末を示しているような気がして、あたしは思わず息を吐いた。

 

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