表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いきなりバディ学園!  作者: らいず
4/35

 衝撃冷めやらぬ中、話は進む。

「では、肝心のバディを発表します。端末に送りますねー」

 今の時代、一人に一つの端末は、当たり前の物となっていた。業務用の端末導入にかかるコストより、大量の印刷代や消耗品の方が高くついてしまう程だ。

 生徒達は、一斉に自分の端末へと視線を落とした。

「えー…? 話した事ねえけど」

「ちっ」

「あれー? ねえねえ」

 浮き沈み激しく、またしても教室内は騒がしくなっていく。

 反応は実に様々。疑問を抱く者や、バディの元に向かう者…。示されたバディに対して、早くも嫌悪感を表す者も居た。

 その中で…他の誰とも違う反応を、せざるを得なかった人物が居た。

(………)

 それは、他でもない剣士だった。ただ静かに、表面上冷静さを保ちながら、剣士は自らの端末を見つめる。そこには、彼のバディとなる相手の名前があるはずだった。

 しかし、実際には…。

(空白…)

 送られてきたメッセージには、何も書かれてはいなかった。それでも間違いなく、受信自体は完了している。

(何かのミス…では無いんだろうね)

 このメッセージだけを見れば、単に送信ミスである可能性はあった。それでも剣士がそう判断したのは、もう一つの要素によるものだった。

(この人…なんで俺見て笑ってんのかな…)

 その視線は、確かに剣士を捉えていた。何かを言っている訳では無い。しかし言外に、何かがあると語っていた。

「皆さん、バディが誰になるかわかりましたかー? 何か質問のある子はぁ、居ませんかー?」

 女性の視線は、未だ剣士の事を見据え続けている。

(聞けってか…? この…)

 目の前の、自分の肩まであるかもわからない小さな女性は、見た目通りのかわいらしい人間じゃない。剣士はそれを確信した。

(なんとなくわかるよ。これでも空気は読める方だと思ってるしね。どうせこっちから聞かなくても、これ見よがしに寄ってくるなりしそうだ。それなら…)

「先生」

「はい。なんですかー平城君」

(白々しい…)

 やり取りを耳にし、近くの生徒達が注目した。しかし剣士は構わず続ける。むしろ注目する人間が少ないうちに、事を済ませたいと考えていた。

「俺へのメッセ、何も書いてないんですよー。バディって、誰になるんでしょうか?」

「この学年って、生徒数が奇数なんですよぉ」

「…ええ」

「厳正なる審査の結果…。平城君には、係を受け持ってもらう事になりました♪」

「…なるほど」

「始業式の後、指導室まで来てくださいね?」

「わかりましたー」

(ふざけろ…っ)

 二人の笑顔と笑顔のやり取りは…この場では一度、打ち止めとなった。


 教室での騒ぎとは一転、何の変哲もない始業式を経て…。剣士は今、指導室へと向かっていた。

(腑に落ちないんだよね…。色々とさ)

 その心中は疑念に満ちていた。

 突如として宣言されたバディ制度。それを説明された通りの、コミュニケーション練習制度だと鵜呑みにする程、剣士は素直な人間では無かった。そんなものは、それこそ聞こえの良い建前なのではないか。何より彼にとっては、この呼び出しの時点で、すでに単なるバディ制度では無くなっている。

「失礼します。平城です」

(そう言えば、あの教師名乗ってすら居ないね。胡散臭すぎでしょ…)

「どうぞー。入ってきてくださーい」

「…」

 無言で室内へと入り、二人はアイコンタクトを交わした。机を挟んで腰掛け、再び笑顔が向き合う。

「それで…係と言うのはなんなのでしょうか? 拝聴します」

「ふふっ。難しい単語使っちゃって」

「…いやあ。はは」

 剣士は湧きあがるイラつきを、努めて押し止めた。心を乱し態度に出せば、相手がつけ上がる。彼はまだ若いが、それをよく知っていた。

「調整係」

「は…?」

「もしくはお助け係? 何でもいいんですけどね」

(長々と付き合うのはごめんだ)

「何をすればいいのでしょうか」

「平城君、正直どう思います? この制度、まともに機能すると思いますか?」

「…そうですね。難しい事もあるでしょうね」

 剣士は、当たり障りのない相槌を返していく。目の前の女性が望んでいる方向へ、なるべく一直線に話が進むように。

「そこで平城君の出番です♪」

「はい」

「青さ爆発でまともに機能しなくなる前に、心ばかりの手を差し伸べて、上手い事やってください」

(適当なのもいい加減にしろよこのく…)

「なるほど。しかし、大変な役目ですよね。この国の先進教育が掛かってる。なぜ俺なんかを?」

 剣士にとっての焦点は、はっきり言ってそこだった。バディ制度の真実なんてどうでもいい。この面倒すぎる事態の中でも、最も面倒極まるポジション。なぜそこに、自分が据えられたのかが問題だった。

「私たちはねー。入念に入念に調査してきたんですよー。そしたら、クラス内の結構なグループに所属していながら、昨年一度も人と衝突していない…。そんなコミュニケーションのプロが居るじゃありませんかー」

(あ゛あ?)

「それが俺って事ですか? そんな買い被りですよー」

 剣士は、イラつきを散らしきれなくなってきていた。

(何が入念な調査だ。プロだ。むしろ俺は、神経使って避けてただけ。そんな事も見抜けずに、ドヤ顔で糞みたいな役目振ってきやがって…)

「これは平城君だからこそお願いする、重要な役目なんです。最初にどのバディと行動して貰うかは、追って連絡します」

(問答無用ね。知ってたよ)

「わかりました。自信はありませんが、出来る限り頑張ります」

(これはもう最悪の場合…)

「そうだぁ。平城君には一足お先にお伝えしますね」

「…なんでしょうか」

「逃げられませんよ?」

 剣士は、若干の怖さを感じた。しかし、それでも態度は崩さない。

「…ああ、係からですか。大丈夫ですよ。とにかく頑張ってみますから」

「それだけではありません。この学園から…です」

「…」

 それは、剣士の思考を先回りするかのようだった。

「何の為にこの学園があるのか。何の為に契約書交して、税金で貴方達を援助しているのか。まして平城君は…ねえ?」

(…うちの両親の借金の事とかも、当然ながら知ってるって訳です…か)

「大丈夫ですよ。最初からそんな気ありませんから」

「本当ですか?」

「俺、何も聞いてませんよね?」

「…そうでしたねぇ」

(………しくじった。若干感情が乗った)

 剣士の反応に対し、女性はより笑顔を深めていた。あなたの内面なんてお見通しだと、まるであざ笑うかのように。

「質問が無ければ、今日は解散にします」

「………」

 予想よりも早い解散は、剣士にとっても良い事のはずだった。しかし、手のひらで転がされて、ただ終わるだけのような現状に、何か一矢報いたいと考えてしまう。それでも相手の土俵である事は揺るがない。大した考えも浮かばず、なんとなくの疑問を口にした。

「先生の名前、なんておっしゃるんですか?」

「ほ…?」

 その虚を突かれたような表情に、剣士はほんの少しだけ、溜飲を下げる事が出来た。

「ああー。名乗ってませんでしたかーそうですねー。でもなんか、そう思うと………」

 その後はコロリと表情を戻し、女性は楽しそうに身体を左右に振りながら悩んでいた。やがて、ピンと閃いたかのように、手を合わせて言った。

「決めました。内緒にしましょう」

「…内緒ですか」

「あーでも、呼び名は必要ですかー。じゃあ…LC(えるしー)と呼んでください♪」

「LCさん…ですか」

「れっつ、こみゅにーけしょん。これキャッチコピーなんですよ~」

「なるほどー」

 この女性…LCに対して、まともに向き合っても無駄。剣士はそれを悟った事だけを収穫に、その場を立ち去る事しか出来なかった…。


 剣士が去った後の指導室で、LCは鼻歌を歌って微笑んでいる。

「♪~。かわいいもんですねー」

 くるり、くるりと…ふわふわ回りながら。容姿と不釣合いのスーツ姿に加え、その様子は、さらに異彩を放っていた。

「ちゃあんと…わかってて貴方に振ったに、決まってるじゃないですか」

 その呟きが、剣士に届く事は無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ