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自分の思い違いに気付き、花子は罪悪感に包まれていた。
(わたし勘違いしてた。とんでもない事しちゃった…とんでもない事しちゃってた!)
「あの…そこまで謝る必要ないから。わかった、本当にこの前の事はもういい。今改めて許すからさ」
「本当…ごめ…なさい」
彼女がここまで戸惑う原因は、一つの認識のずれだった。
(てっきり同じだと思ってた…。向こうも、“何かを強く言われるのが怖い”んだって…)
それだけは避けようと思っていた。それに近い物言いになった事を謝っていた。でも、剣士を傷つけたのはそこではなかった。
「あたし、平城に悪口言った事を謝ってた。言い過ぎちゃったって…」
慌てた流れで、普段言わないと心に決めていた悪口を言ってしまった。
「でも、今そうじゃないってわかって…。本当に、一番嫌な事をしちゃったんだって!」
剣士は花子のように、悪口や強い口調が怖かった訳ではない。似た経験をしていても、触れられたくない部分は違っていた。彼が避けていたのは、名前の話それ自体だった。
そうなると話は変わる。
悪口を言ってしまった。自分が嫌な事をやってしまった。でも一言だけで止まれてよかった。
そうではなく、言われて一番嫌な悪口を言ってしまっていた。
もちろん、あの瞬間だって本気で謝っていた。それでも、自分の想像よりずっと傷つけていたかもしれないという事実に、花子はショックを受けたのだ。
(わ、わたし、またちゃんと説明できてないかも…。どうしたら―)
許してもらう為に踏み込んだはずが、想定外の事態だった。
「あーうん。なるほどね」
(ちゃんと話さないと…。えと、話さないといけないのは…何? なんでそう思ったか?)
「わかった。こっちもちょっと勘違いしてたかも。だからこの件はもう」
(こういう時は初心よ! 繰り返してた最初に戻って…。それを落ち着いて話すのよ! 今日、あたし何話そうとしてたっけ?)
「手打ちにしようよ。というか、そもそももう本当に怒ってないんだけど」
「平城!」
「う、うん」
「あたし、ちゃんと隠さずに話す。だから聞いて欲しいの」
「…うん?」
「それで、ちゃんと改めて謝るから…。だからお願い」
「え、いやだから野村――」
それは、花子が初等部の頃の話だった。




