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剣士は端末を閉じ、待ち合わせ場所を見据える。
(あー、やっぱりね。そんな気はしてたけど)
そこには、既に花子の姿があった。剣士にはまだ気付いていない。
時刻は、約束の時間より30分ほど前だ。
(まだ早いし、顔を合わせる必要は無いんだよね。……そうは言っても、どうせ無駄な時間になる訳で。その分、早く解散するなりすればいいかな)
剣士はそんないつもの調子のまま、花子の下へ近づいた。
「おはよう。おまたせ」
「………」
「…野村?」
「……っころ。…手必……」
「………」
(まーたぶつぶつと物騒な事言ってるよ)
花子の視線は下を向いたままで、一度も剣士を捕らえていない。無視をしている訳では無いのは、剣士もすぐにわかっている。
そんな様子を見て、剣士はとある欲求が芽生えた。
(なんかイタズラしてやりたくな――)
そこまで考えて、剣士はそれを全力で押し止める。
(いやいやいや…名に血迷ってるんだか。なんでそんな、無駄に他人と近づくような事…)
加えて剣士は、そういう冷やかしによって、傷つく事もあると知っていた。少々過剰な配慮ではあるが、少なくとも、あえてそんな事をする選択肢は、剣士の中には無かった。
そして剣士は迷った末…適当に、呼びかけながら待つ事に決めた。
「…野村ー?」
「………っころ」
(というか今日の格好、前の私服と随分違うね。ぶっちゃけダサ…いや、中学生っぽいというか、むしろ小学生っぽいというか)
「野村ーおまたせー?」
「………勝」
(あーでも、小柄だし同級生としてみなきゃ…似合ってない事もないかなあ)
こうして呼びかけ始めて、すでに結構な時間が経っている。それでも花子は、気付く事無く呟き続け、真剣な表情をしていた。
「…ふふっ」
そんな必死さに、思わず笑ってしまった時、それに気付いたのか、それとも偶然か、花子がやっと顔を上げ…。
「…しまっ…。今何――」
剣士の姿を捉えた。
「―じ…ぃぃぃぃあああああ゛あ゛ああああああ!?」
とんでもなく大きな叫びだった。
そんな、驚きで慌てふためく花子を余所に、剣士は背中を向け、笑いを堪える事しかできない。なぜだか理解できぬまま、剣士は結局笑っていた。
それは剣士にとって、いつも通りの表情のはず。なぜかそれを、彼は無意識に隠していた。
「うん、まあ…行こうか」
「え、へ…ええ…。あれ…?」
「野村ー。また適当に飯でも行くよ」
「ま、待ちなさいよ…ってか、あんた挨拶くらいねえ―」
「いや、したした。これでもかってくらい」
「本当に!?」
これは、ただの学園の課題のようなもの。成績の為に、こなすものだ。一度目の時と変わらない。
少なくとも、剣士はそういうつもりで居た。
商店街の中を、二人は歩き始める。前回は、適当な場所の説明をしつつ、剣士が話題を振っていたが、今回口火を切ったのは花子だった。
「あ、あのっ!」
「うん?」
「え……今日の服どうっ!? …じゃない!!」
勢いのある話題提供からの、即撤回である。
「うん」
(良かったよ。前回ならまだしも、今日聞くのかって感じだし)
短い相槌のみで、剣士は花子の言葉を待つ。
(にしても、なんでここまでテンパってるのかね。今日は)
「えー…そう。今日は、平城の行きたいところに行きましょう」
「俺の…?」
「そ。前は、あたしが気になったところ回ったでしょ? 順番よ」
「うーん、なるほどね」
「で? 一つや二つあるでしょ?」
「いや、特に無いけど」
「…はい?」
「そんな凄まれても、無いものは無いんだよね」
「そんな訳ないでしょ。あんたにも好みとか色々…」
「特に行きたくないところは無いけどね」
「行きたいとこを聞いてるんだけど!?」
「んー…。また野村の行きたいところで良いんじゃない?」
「~~~~~! だめ! とにかくあんたに任せるからね!」
「………」
(そうは言われても、気遣ってるとかじゃなくて、ちゃんと本心で答えてるんだよね。どうしたものかな)
「とりあえず…行こうか」
「…! ええ!」
(適当に見て回れば、それでいいでしょ)
無軌道な、剣士主導の散策が始まった。




