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学園も企業も、ある意味一つの組織。そこで毎日のように顔を合わせ、挨拶を交わす。人間関係にあわせて、ラフなものもあれば、敬語を用いる事もある。
バディ同士も、もちろんそうだ。
「…おはよう!」
「うん、おはよー」
元気な声を受け、それを笑顔で返す。言葉遣い的にも、なかなか親しい間柄のように思える。
しかし、そうとは限らない。この世界では至るところで、人間関係が演じられている。例えば何かの目標を、円滑に達成するために…。社会の大人達は、多かれ少なかれそうしているのだ。
剣士と花子は、今日も変わらない。会話もするし、バディ学習の時間になれば、常に近くに居る。双方笑顔で、あれ以降衝突する素振りすら無い。ほとんどのバディが苦戦している中、二人は順調に交流しているように見えた。
「定期フィードバックを行いまーす」
今日もバディ学習が始まろうという時。教壇に立つLCが、突然そんな台詞を言い放った。
「ふぃーど…バック?」
「なんだっけ…ほら、成果とかを返す…みたいな?」
「要は反省会みたいなやつでしょ」
一つ何かがあれば、すぐに騒がしくなる。物珍しい教育を実践するハメになっていても、そこは普通の学生と変わらない。
(これ、確かビジネス用語だよね。まさに仕事…ってか)
軽快な電子音と共に、メッセージが各人へ届いていく。
それぞれ異なる文面なのはもちろんだったが、そんな中に、共通して明確なものがあった。それは、学生にとっては切っても切れないもの。仕事における成果に当たるもので…。
「80点…これっていいの?」
「さあ?」
「高得点じゃん!」
「これで成績決まんのか? どんな基準だよー」
相も変わらず、輪をかけて騒がしくなっていく。そんな状況を作り出したフィードバックは、当然剣士の下にも届いていて、そこには―。
『第一回フィードバック評点 0』
5段階評価かもしれない。もしかすれば、数字が小さい方が良くて、調整委員なるものまでやらされている自分は、特別な評価なのかもしれない。そんな考えを、周りの声がかき消していく。
100点満点中…0点。
(あー…うん。……やってられないね)
ほんの一瞬…その微笑は、怖さを感じさせるものに変わっていた。
放課後、呼び出された剣士と花子は、LCと指導室で向き合っていた。
(まだ4月なのに、もうここへ来るのも何度目か…)
「さて…」
「はい」
LCのもったいぶった語り出しに、剣士はしれと相槌を打つ。
「ふふ…まあはっきり言いましょう。…駄目ですよぉ。こんな事では」
「いやあ…期待に添えなかったようで、すみません」
(このLCとか名乗ってる怪しい先生か、その上に居るやつかは知らないけど、誤魔化されるほど無能ではなかった…って事か)
「あ、あのっ!」
「はい、野村さん」
「なんでこんな点なんですか! 長谷部さんとかにも聞いてきたけど、あっちはそこそこ良い点だった…。なのにどうして!」
(ああ、野村はわかってないのか。本当、平和な…奴だね)
「野村さん? 勘違いしてはいけませんよぉ。長谷部さん達のバディは関係ありません。最終的な経歴には、調整委員の成果が加味されるとしても…。今回のフィードバックは、あくまでバディ学習の課題に対する評価ですからねー」
「そ、それだって、でも…。もしかしてあれを…でもあの時居なかった……」
(まあ、ずっと監視されてるみたいだからね…)
花子の反論は、尻すぼみに小さくなっていく。普段の強気さを保つ事が出来ていない。
「じゃあ聞きましょうかー? あなた達…、そもそも自分達が、仲良しだと思ってます?」
「それ…は――」
「それなりじゃないですかねー」
「え…」
ここで言いよどむのが、全ての答えだった。
二人の課題は、“仲良くする事”。その不思議な課題には、明確な答えが見当たらない。けれど、今自分が、そう思っているかどうかはわかる。隠れた本心だとか、そんなものではなく、ただ仲がいいと思っているかというだけなのだから…。
そこで、花子は仲良しだと即答できなかった。
剣士は、何食わぬ顔で即答こそしていても、やはり仲良しであると言ってはいない。
つまり二人とも、そもそも自分自身、相手と仲良く出来ていると思っていない。それなのに、課題の評価に物申すと言うのは、筋が通っていないのである。
「表面上、しっかりコミュニケーションをとって、いつも元気に笑顔で居れば、大丈夫だと思いました?」
「その……」
「お話は以上です。しばらくは調整委員のお仕事を振る予定もありませんので、今後はしっかり励んでくださいねー♪」
一人楽しそうなLCを残し…、二人は指導室を後にした。
そのまま無言で廊下を歩き始め、少したった後…剣士が口を開いた。
「あ、俺ちょっと行くところあるから」
「え? ちょ、ちょっと!」
剣士は花子の制止も聞かず、帰路を外れていく。
一度、関係の無い方向へと進み…花子と離れたところで、それが変わる。彼の足は、先程まで居た場所へと向かっていた。




