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いきなりバディ学園!  作者: らいず
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 手元に問題集を確保し、良川が再び席に着く。もう指図される方が嫌なのか、自らそれを開き、向き合い始めた。

 …しかし、それは遅々として進まない。

「………」

 答えがわからない。だからどうすればいいのかもわからない。そんな単純な思考の流れ。

 黙々と…無駄に時間だけが過ぎていく。

 長谷部は、質問されれば、きちんと答える。その気だけはあった。

 一方、良川はそれがどうにも出来ない。プライドが邪魔をするのもある。しかし根本的なところとして、本当に何もわからない。それが問題だった。質問をするにも、知識が要る。何を聞けばいいのか、その基礎すら良川はわかっていない。既に自分がわからないのは知っているはずなのに、なぜ何も言ってこないのかと、そんなずるい考えまで持っていた。

 この学園の特性として、あらゆる教育法の実践の為、あらゆる学力の生徒を受け入れている。長谷部と良川は、その両端に位置していた。前提としているものが、大きく離れすぎているのだ。

 そんな状況を、この二人はお互いに理解していない。

 しかしそんな状況を、剣士は外から予測し、見事に的中させていた。

(一応は、二人とも授業に取り組んでるんだけどね…。良川には、質疑応答じゃ無理だよ。馬鹿だから。こーやって1からおべんきょーしましょーってしないと。だからって、露骨にしようもんなら絶対キレるだろうね。長谷部が自分から、上手くレクチャーしてくれないかなあ)

 昨日の剣士とのやりとりで、長谷部はこのバディ制度を、完全に無視するのもリスクがある。それなりには自分から動こう…。そう考えを改めてはいた。しかし、その範囲までは伝わり切っていなかったのだ。彼女としては、きちんと自分から声をかけ、良川に勉強を始めさせた。そして今も、いつでも指導をする気で居る。これ以上無いほど、協力的にしているつもりなのである。

 しかしその態度は、良川にとって澄ましたものに見えた。結局のところ、自分を馬鹿にしているのだと。

「ああ~~~…ああ!!」

 この場で今不満を募らせていたのは、理由はどうあれ良川。彼はついにそれを爆発させる。

「っ…はあ!?」

 そんな彼の態度に、長谷部もまた苛立ちを顕わにしてしまった。ここまでしているのに、良川がキレる意味がわからないのだ。

(いやいやいやいやいや)

 なぜこうも子供なのか。こらえ性が無いのか。剣士は剣士で、内心呆れ返っていた。

 どうするか、仕方なく考え出した時…。ワンテンポ遅れて、さらに声を上げた者が居た。

「――お゛っら゛あああああああああ!」

「………」

「………」

(…何? なんでこいつは呼応してるわけ? 猿か何か?)

 心の中の剣士は、そこそこに辛辣だった。

 しかしながら…状況としては、悪くない方向へ転がっている。自分達を越える大声に、少なくとも長谷部は落ち着きを取り戻していた。良川も、そういえばこいつが居たと、ばつの悪そうな表情に変わる。

 そして…静まり返った周りの視線を受け、当の花子は少しテンパっていた。

「長谷部さんあたしもわからないのけど!?」

(日本語おかしくなってるけど…)

「…どこが」

「いちいち単語がわからないんだけど!」

「辞書を引きなさい」

「そんなの面倒じゃないっ」

「それ以外どうやって覚えるの」

「え!?」

「なんで心底意外そうなの…」

「長谷部さんの丸秘高得点取得法は?」

「なにそれ。言ったでしょ、英語なんて覚えるだけ。…と言うか他も一緒なんだけど」

「そんなのあたしと変わらないじゃない! 必死こいて覚えるだけ? ほんとに!?」

「当たり前でしょ…。何? そんな夢みたいな方法があると思って、勉強面倒くさがってたの?」

「ええーーー…」

 花子は、ショックを受けたように天を仰いだ。

「………」

 あまりの勢いに、剣士が口を挟む暇も無かった。

 そんな一連の流れを、自分が中心のはずが、なぜか置いていかれた良川も見ていた。

(…別に、何か違うわけじゃねえ…のか)

 彼は、何か憑き物が落ちたような気分になっていた。

 勉強のできる奴は、自分とは何かが違うから。ずるいから。特別だから。言い訳ではなく、心底そう感じて、自分の可能性を手放してしまう人が居る。しかしそれは、勘違いに過ぎない事も多い。

 成績優秀者の、普段の勉強法を知っただけ。ただそれだけの事でも、普段知る事は無かった情報。良川はたった今、一つ思い込みを解消したのだ。

 しかし…。

(いや、それでもめんどくせえぞ…)

 それで素直に、じゃあ俺も頑張るなどと言えるなら、良川は今のようになって居ない。難しい顔をして、手元を見つめ続ける。

 ここで、剣士は最後の一押しに動いた。椅子を引き、これ見よがしにゆっくりと立ち上がる。

「どこ行くの?」

(うん。その素直な質問、今はナイスだよ野村)

「ちょっとわからない単語が出てきたから、辞書取りに」

「あ、あたしも行く! 良川もほら、行くわよ。持って来てないでしょ」

「んなもん、そもそも学園(ここ)に持ってきてねえっての…」

「はあ? 持ち物にあったじゃない!」

「知るか! 一度も持ってきた事ねえよ!」

「お゛っら゛ああああ――」

「だあっうっるせえんだよ! くそっ!」

(いや本当うるさいよねこいつ。そこは同感)

 大声での言い合いを終え、身体ごと視線を外す良川。その彼の前に、重たい辞書が置かれた。

「破いたりしないように」

 置いたのは、バディである長谷部だった。

「…ちっ。お前は必要ねえのかよ」

「見えない? 私は今、英語の勉強はしてないの」

「………」

 ビキビキと、その顔には再び怒りが浮かんでいた。しかし、良川はなんとかそれをぶつけず、押さえ込む。理由はいくつかあったが…。何より彼の視界内で、走り出す準備をしている花子の存在が大きかった。

(くそが…。どうあってもダセえ……)

 不良にも色々と居る。良川は誰かを威圧して、それを楽しむ趣味は無かった。ただ思うがままに振る舞い、時にはルールでも無視する。そういう人間なだけ…。ここで、これ以上女子と口論などしたくないし、再び追いかけられるのもご免だった。それなら、自分は自分なりに、合理的に動く。それが一番、マシと言うものだ。

 ……そして、それが関の山だと言うのもある。

(どの道、この学園に居る時点で逃げられねえんだよ…)

 根底にあるのはそれだった。

 良川には良川の、この学園に来た理由がある。度が過ぎれば、給金が得られなくなるかもしれない。退学くらいなら覚悟できても、違約金として借金まで背負うのは、余りに厳しい事態。

「…ふー…」

 そうして、良川は小さく踏み出す。当たり前の勉強を始める。この学園だからそうなれたのか。そうじゃなくても、彼は勉学に励めるようになったのか。それは誰にもわからない。

 これは、強制的に作られた機会。けれどもやはり、どこかで自然に起きている事もあるだろう。そんな出来事だった。


 今回も、一連の様子を彼女は見ていた。

「いや~青春青春、ですねえー♪」

 あわや乱闘、暴力…。そうなってもおかしくなかったやりとりを、LCは笑顔で見つめる。

「貴重な経験ですよー皆さん。しっかり噛みしめてくださいね~」

 ここには他に誰も居らず、あくまでこれは独り言。けれど、心底楽しそうに…。

「それにしてもー…ふふっ。平城君も、まだ青いですね。これは、はっちゃける野村さん達に、もっと落ち着け、大人になれーとか思ってそうですねー」

 にんまりと口角を上げ、何かを愛でるように…。

「残念ながら、大人になってもそういう感情優先な人って、居るんですよねー。世知辛いです。それなのに、期待しちゃって…」

 生徒達は、従うしかない。

 その真意が何であろうとも、それが学園の指導方針ならば…。

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