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いきなりバディ学園!  作者: らいず
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 昼休みが終わり、本日のバディ学習が始まる。各々のバディと合流し、ある組は席に着き、またある組によっては場所を移動していく。

 そんな中、剣士はいつも通りの微笑を浮かべながらも、少々動揺していた。

「ふふん…」

 正面には、ドヤ顔でどっかりと座り込んできた花子が居る。それ自体は、別にどうでも良かった。ドヤ顔だろうと変顔だろうと、好きにしていればいい。しかし、問題なのは()そうしていると言う事だった。

(いやあ…まさか……)

 昨日の様子を思い出す。

 花子は悔しそうな表情で戻ってきて、少し落ち込んでいるようにも見えた。自分の予想通り、良川の説得は失敗に終わったのだと確信していた。

 それなのに、目の前の彼女はやり切ったと言わんばかりの態度をしている。一方、既に斜め向かいで自習を進める長谷部は、我関せずの様子だ。

 そこへ…一つの影が差す。ガタガタと音を立て、隣の椅子が引かれる。

(ええ…)

「………はああぁ…」

 隣に座った人間から、大きなため息が漏れる。心底、“嫌だ”と思っているのが浮かび上がるようなそれは、伝染するかのように、剣士に同じ感情をもたらした。

(こっちがため息つきたいよ。ほんと…)

 空気が緊張し、注目はため息の主へと集まる。微妙に机から離れて腰掛けた良川が、そこに居た。その表情は、不機嫌色に染まっている。

 それを見て、ますますニコニコ顔の花子。

 意外そうに、下を向いたまま目だけで確認した長谷部。

 そして、剣士はただ笑っていた。そうする事しか出来ない気分だった。

 しばらくは膠着した状況が続く。そんな剣士の思惑は完全に潰れ…。長谷部と良川、二人のバディ学習が始まろうとしていた。

 

 この状況の中、誰が口火を切るのか…。そんな探りあいの中、時間が流れている。

 剣士は、落ち着きこそ取り戻したものの、未だ納得がいっていなかった。

(こんな事なら、朝から野村の様子を確認しておけば、多分状況も読み取れてただろうね…わかりやすいし。ともかく問題は…どんな話をして、良川が今ここに居るかわからない事なんだよね。話が違ってくる)

 昨日の宣言通り、調整委員として手分けをしたなら、なぜ状況を報告しないのか。花子に対し、剣士は若干苛立ちを感じていた。

(さっきの表情からして、やる事やった気で居たからね…。絶対わかってない。今度言っておかないと…。あー…、今後の為とはいえ、それも面倒…)

 そんな事を思われているとは露知らず、なぜか動きの無い現状に困惑し、花子は段々と慌てた表情になりつつあった。

 授業なのだから、こうして席に着いた以上、バディ課題となる勉学に励む。ただそれだけでいいはずだった。しかしそれが良川に出来るなら、そもそも長谷部とバディにはなっていない。現に彼は、この場に教科書の一冊も持ってきては居なかった。

 自分で、どう勉強するか考える。この重要な要素を、教えてもらえる事は少ない。自然にそれを始められなかった人間は、理解力や頭の良さ以前に、学ぶ事自体が出来ていない場合がある。その差に気付ける人は、意外と少ない。自分で勉強法を決められる人も、そうでない人も…その状態が、その人にとっての当たり前だからだ。当たり前だと思っている事を、人は疑えないのである。

 だから、簡単な事が出来ず、噛み合わず…。時にトラブルを生む。

「やりたいのでいいから、持って来たら」

「………あ?」

 沈黙を破ったのは、意外にも長谷部だった。昨日の剣士との会話で、思うところがあったのか。ぶっきらぼうではあっても、これは長谷部なりの歩み寄りだった。

 しかし…。

「何でもいいから、やりたい教科の問題集でも持って来たらって言ってるの」

「んなもん、あるわけねえだろうが」

「…何も持たずに学園に来たの?」

「ああ!?」

「ちっ」

「………っ!」

(…まずいね)

「あー長谷部。良川は多分、やりたい科目が特に無いんだよ。ね?」

「………」

 特に訂正はしない。無言の肯定。

 今のやり取り。本当は、最初に意図を取り違えたのは、良川の方だった。長谷部は、言葉の通りやりたい科目の問題集を持ってくるように言っただけ。それを良川は、まだマシなやってもいい教科と言う意味ではなく、自分が率先してやりたい教科を指していると受け取ったのである。当然ながら、良川が好きな科目など無い。そういう意味の、“あるわけねえ”だった。

 剣士はそんな行き違いを、それとなく長谷部の方を咎める形で指摘したのだ。できるだけ、良川を刺激しないように…。

 長谷部は、あまりに呆れて言いかけた言葉を、ギリギリのところで飲み込んでいた。「何を甘えているのか」である。自分は教える立場。良川は教わる立場。そんな自分が、向こうに合わせるからやりたいものをと言った。だと言うのに、向こうはそんなものは無いと、それすら決めようとしない。なぜ自分が、そんな事まで面倒を見なければいけないのか? 一から十まで、赤ん坊扱いで決めてあげないといけないのだろうか。自分の役割は、“良川の成績を上げる”。ただそれだけのはずなのに…。どうして彼は、当然の事ができないのか。

(これは…結局俺が助け舟出すしか――)

「英語!」

 その時、意を決したような、大げさな声が響いた。

「…野村さんには聞いてないんだけど」

「いいでしょ、なんでもいいならっ。ついでにあたしも聞きたいし!」

「英語なんて、覚えるだけなのに…」

「その“覚えるだけ”がわかんないんじゃない!」

(…!)

 剣士は驚いていた。このやりとりが、自分がやろうとしていた誘導に近い事もそうだが、何よりその焦点を、花子が理解している事に。

(偶然か…何も考えてないのかもしれないけど)

 剣士が前に担当した、八社宮と数金の時と同じ。わからない部分を正確に伝え、個人的な常識を取り除く事。それが和解への第一歩となる。

(まあ…そのやり取りを良川がやらないと意味無いんだけど。……って、何を俺は、真面目に取り組もうとしてるんだか。それなりで良いんだ。それなりで…)

「良川も早く英語の課題持ってきなさいよ。今日出てたでしょ」

「……………」

 良川はのろりと立ち上がると、自分の席へと向かっていく。その表情は不機嫌そのものだが、どうやら言われた通りにするらしかった。それを見て、またしても剣士は戸惑う。

(いや本当、どうやって説得してきたわけ…?)

 上手くいかない部分はあれど…状況は一歩前進するようだった。

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