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いきなりバディ学園!  作者: らいず
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 剣士は、あえて長谷部の正面を避け、距離のある斜めの位置に座りなおした。

(さて…どうやって切り出そうかな)

 お互い、とりあえず話し始めるタイプでは無い二人。しばらく無言で、手元の問題集に取り掛かる。

 やがて、剣士は切り口を決めた。

「長谷部は、やっぱ有名大学とか狙ってんの?」

「…何? 言いたい事があるなら、本題を言っていいから」

「そりゃ話が早いね。じゃあ言うけど…バディ制度の評価、どうする? このままじゃ受験不利になるでしょ」

「…私は、良川君がやる気を出せば、ちゃんとやる気はあるんだけど? さっきも言ったじゃない」

「うん。そのやる気を出させる為に、長谷部から動かないと駄目なんじゃないかってね」

「そんなの知らない。やるべき事をやろうとしてないのは向こう」

「だからってこのままじゃ、自分に不利益がある」

「…どうしろって言うの? 私から、野村さんみたいに声掛けろって? 当たり前の事をしない向こうが悪いんじゃない」

「それでいいの?」

「別にいい。なんなら、面接で理由を話せば良いだけ。他の教科で、足切りされるような点取るつもり無いから」

(なるほど。やっぱりね…)

 剣士が、意味ありげに無言で頷く。

「言いたい事があるなら…」

「でもさ。それって要は、出来なかった理由でしょ」

 ここでほんの一瞬、長谷部は物言いたげに剣士を伺い見た。しかし剣士は、変わらず手元だけ見ている。

「…向こうは大人。私がちゃんと説明すれば問題ない」

「俺達の成績ってさ、就活の時も使うじゃん?」

 先進学園の存在意義。人材育成に適した教育を確立する為の場所…。その性質上、企業には専心学園卒であると伝わる事になる。それでなくても、就活時にどの高校卒で、どこの大学卒なのか、履歴書に記載するのが一般的だ。この学園の卒業生は、その内申もそれに付属する事になる。

「…それが?」

「長谷部は将来も成績優秀だとしてさ、このままだと、出来の悪い後輩の指導は出来ない人間…って見られる事になるんじゃないかな」

「…そんな奴が居るような会社、行く気無いし」

「だから、バディ制度の評点が低くても良いって?」

「そう」

(うん、わかってない。と言うか…本気で言ってるなら、長谷部も随分とピュアだね。野村と良い勝負かも…。大人だからって、まともな人間ばかりじゃない。俺達は身を持って知ってるはずなのに)

「長谷部は、どこの会社行くかはともかく、下っ端で居る気無いんでしょ?」

「そりゃね。結果を出し続ければ、そうなるんじゃない?」

「部下を持つ事もあるかもね」

「何? だから指導できないって評価はまずいって? だから…」

「相手がまともな部下なら、ちゃんと教える自信はある」

「……そう。だからこんなの無意味」

(俺が擦れてるのか、長谷部が見えてないのか、どっちかね…。何にせよ、このままじゃ仮に良川が来ても、どうせ無理だね。あの手の奴に、真面目君の当たり前が前提になった話じゃ。聞く耳持つ訳ないし)

 二人は、視線も合わさず話し続ける。無駄を嫌う者同士、手元では問題集が進んでいた。そんな学業の成績は、間違いなく長谷部の方が上だ。しかし、事態がよく見えているのは、この場においては剣士だった。

 人と距離を置き続けられると言うのは、つまり人をよく見ていると言う事でもある。皮肉にもそんな剣士の方が、人を信じない分、冷静に本質を見極めていた。

「働き蟻の法則」

「…え?」

「長谷部なら知ってるんじゃない?」

「そりゃ、聞いた事くらいはあるけど…」

「どんなに優秀な人材が固まっても、そのうち何割かは働かなくなる。人もそういう生き物だ…って言うよね」

「そこらの企業ならそうかもしれないけど――」

「自分が行くくらい有名な企業なら、皆優秀なはず? 良川みたいなのとは、関わる事無くなるから平気?」

「…そんなのわからない。でも、まともな会社だってあるはずでしょ」

「だね。わからないよそんなの」

「…」

「俺達はまだ学生で、社会に出てからの事なんて知らない。せいぜいネットの情報を、半信半疑で読むくらいしか出来ない」

「そういうの、大抵は嘘っぱちなんでしょ」

「それも、わからないよ」

「…だからどんな会社でだって、良川みたいなののせいで、苦労する事もあるかもしれないって訳?」

「さすが長谷部。本当話が早いね」

「それで今のうちに、あしらい方を身につけろと…。ふざけてる」

「だね」

「そんなの、ただ皆がまともになれば良いだけじゃない。なんでこっちに負担が掛かるの」

「同感だよ」

「それで平城君は、なんでそんな事がわかる訳? 調整委員に選ばれる訳ね」

「いやいや、偶然見たネットの記事の受け売りだから。勘弁して欲しいよ」

「それにしては、私の事を随分と真面目に説得しにきてた」

「そうかな? 世間話しながら、自習してただけでしょ」

「…平城君、思ってたより腹黒?」

「いやだなあ…。そんな事無いよ」

 そんなセリフを吐く剣士は、ここまでずっと微笑を絶やしていなかった。

「…はあ」

 長谷部のため息以降、話す事無く勉強を進めていく。

 長谷部は、剣士に言われたばかりの新しい視点、そして今後どうするか考えながら。

 剣士は、()()()()()()全てを忘れて。

(こんな糞みたいな委員会に、時間割いてられないからね。長谷部なら、これで多少は変化があるでしょ。後は様子見…。それに良川の方は、そうそう上手く行くとは思えないからね。しばらくは時間掛かるでしょ。つまり、俺は手が空く訳だ)

 自分が一番楽をする為、やる事をやり切った。自分は役目を果たしていると、LCに言えるだけの成果を確保した。剣士の行動はそういう事だった。決してやる気や意欲が出た訳ではなく、今もこの制度に納得がいかない人間の一人なのだ。

(何も考えず、馬鹿みたいにバディの課題やってる奴は、気苦労なさそうで羨ましいね…)

 環境が変わろうと、人との関わりは最小限に…。そんな剣士の行動指針は、特に変わらないままだった。

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