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雑踏の中を歩いていく。
「ここ洒落てるわね。見ていかない?」
「いいね。行こうか」
立ち並ぶ店を巡っていく。
「これ…おいしそうかも」
「結構いけるよ。俺にはちょっと甘いけど」
アクセサリにスイーツ…。他にはない取り扱いの店が、ここにはたくさんある。他にも、学生には少々敷居の高い老舗や、逆に真新しいチェーン店も混じっている。歩くだけでも飽きない、良い意味で統一感のない空間だった。
「うわ。商店街の中に神社まであるじゃない」
「確かに、改めて言われると珍しいかもね」
「ここ、何の神社なの?」
(いや、神社とか興味無いし)
「…さあ」
「さあ、って何それ。もうこの辺に一年以上住んでるんでしょ?」
「いやあ、気にした事なかったな。せっかくだから、見に行ってみようか」
「そうね」
剣士は、先を歩く花子の背中を追う。目に入る金髪の面積が増え、より他との違いが際立っていた。
(口調と言い、漫画のキャラみたいな奴…。変わってるよね)
「えー何…。家内安全、身体健康、商売繁盛、厄除け、学業成就…」
「結局何でも良いんじゃない?」
「もう! そんな馬鹿にするみたいな言い方…罰当たるわよ?」
「…そりゃ勘弁。大変失礼しました…と」
(まさかこいつに正論言われるとはね…。学園であれだけ非常識な事やってた癖に)
「なんだろうと、見下したりとか馬鹿にしたりとか、好きじゃないの」
「ごめんごめん。さすがにそこまでは思ってないって」
怒らせるのはまずいと、剣士は当初の警戒を取り戻すべく、気を引き締め直す。
そんな時だった。ゲラゲラと大声で笑い合いながら、一つの団体が剣士達の後ろを通っていく。そのまま去っていくかと思いきや、その団体はあろう事か本堂への階段で座り込み、飲食物を広げてだべり始めてしまった。
(おいおいおいおい)
剣士は一瞬で肝を冷やした。
つい先日、学園内の食堂での出来事を思い出す。他人からの迷惑そうな視線も無視し、すぐ近くでたむろしているのは、その時同様、不良と呼ばれる人種だった。学園内ならともかく、こんなところで同じように暴れられるのは困る。そうなれば、怪我をしない保障も無い。
「あー他の場所も回らない? ゲーセンとかもあるんだよそういうのはどう?」
剣士は気持ち早口でまくし立てるが、花子の視線は彼の方を向いては居なかった。
(だよね、そりゃ野村も………?)
剣士は、花子が今にも跳び出しそうなものだと思っていた。しかしその様子は、想像とはまるで違っている。
(…普通に、怖がってる?)
花子の反応は、その他の周りに居合わせた人達と、なんら変わりないものだった。おかしいとは思っても、直接注意をするのは躊躇われる。そんなよくある態度だった。
(いや、変なトラブルが起きないなら、それで良いんだけど…。一週間も経たないうちに、二度も暴れまわってた奴とは思えないな)
「………」
やがて剣士は、そこそこの間、お互い無言になっていた事に気づく。となれば、今はこうでも、いつ爆発するかわからない以上、ここに長居は無用だった。
「野村? 次行こう」
「ん…」
不満そうに返事をしながら、花子が最後にとばかりに、不良達をじっと見つめていると…彼女はとある事実に気づいた。
「…ん?」
「野村?」
「ねえあれって…」
その視線は、しっかりと不良達を捉えている。剣士はそれに釣られ、初めてきちんとそちらを確認した。先程までは、関わり合わないようにと、目端にしか入れていなかったのだ。
「うわぁ…」
「やっぱりそうよね?」
そこに居たのは他でもない、先日食堂で事を起こした時の、先進学園の生徒達だった。
(よりによって、あいつらだったのか)
他人に深く関わろうとしない剣士では、気づくのが遅れるのも無理はなかった。普段から、見ないようにしている人種だからだ。居合わせたのは偶然だったが、ここは近隣の学生が出掛ける定番スポット。運が悪かったとしか言えない。
相手がわかったところで、状況に変わりは無い。今度こそ、速やかにここを離れてしまおう。そう考え、剣士は再び花子を見た。
「あいつらは同じ学校。先手必勝。ぶっころ。先手必勝ぶっころ先手――」
(あっ…)
そこには、呪詛のようにブツブツと何かをつぶやく花子の姿があった。
「うお゛ら゛あああああああ――」
「―――」
剣士が何を言う暇も無く、花子は走り出していた。そこまで距離があるわけでもなく、そのまま不良達の下までたどり着き、暴れ始めてしまう。今のところは向こうも驚いているだけだが、どうなるかはわからなかった。
「お゛っら゛あああああ!」
(くっそ…。関わりに行くならせめて言葉で説得しろ。それじゃあ…)
不良達も落ち着きを取り戻し、花子に相対し始めている。
「なんなんだよてめえはよ!!」
「―っ。…お゛っ――!?」
再び叫びを上げようとした花子が、不意を突かれそれを止めた。
一触即発となりかけたところへ、剣士が走りこんで行き、花子の手をとったのだ。そしてそのまま、二人は一気にその場から逃げ出した。
幸いにも、ここは人で賑わう商店街。二人はそれに紛れ、追われる事もなくあの場から離脱していた。いつまで手を繋いでいるのか…などと言うテンプレをする事も無く、剣士はしれっと手を離している。
(顔見られて無いといいけど…。いや、馬鹿じゃなければばれるか)
「はぁ…」
「っ…。何よ急に」
「…え?」
「なんで連れ出したの。放っておけば良いじゃない」
剣士は再びため息をつき…少し考えた後、答えを返す。
「…俺はね、トラブルはご免なんだよ」
「…なら、なおさら放っておけば良かったじゃない」
「一応バディだからね。今日ここへは課題で来てる。そこに居るはずの俺が何もしなくて、トラブルになりました…じゃね」
「そんな理由…。そういえば、そんなふざけたもんの調整委員様だったわね」
「野村もだけどね」
「………」
剣士が答えた理由は、確かに嘘ではなかった。しかし、それは理由の一部。加えて言えば、その場を収める為の答えではなく、本当の理由を答えるのは、剣士にしては珍しい事だった。なぜそうしたのか、彼自身もよくわかっていない。それでも、止めた理由だけは明確なものがあった。
「あれじゃあ、トラブルにしかならないよ」
「はぁ?」
「野村の言いたい事は伝わらない」
「悪い事してるんだから、咎められればわかるでしょ」
「いや、わからないでしょ」
「…なんでよ」
(本当にわからないのか…? 簡単な事だ)
「悪いと思ってないからだよ」
「…そ、そんな訳ない! あれだけ周りから迷惑そうに見られてたんだよ?」
「気にしてないでしょ、ああいう連中は。むしろそういう…まじめ?な奴らを見下してるんじゃないかな」
「うそ…」
「まあ知ったこっちゃないけど。少なくとも、言葉で言わないと、何も伝わらないと思うよ。言ってたでしょ。なんなんだお前はーみたいな事」
「………」
「なんにせよ、あいつらも飯食べてただけだし、もう居なくなってるよ。もう忘れて、また適当にふらつかない?」
「………ん」
その短い返事を合図に、二人は再び商店街の賑わいの中へと消えていく。しかしその日、これ以降空気が和らぐ事は無かった。
剣士は別れた後、花子への認識について考えていた。
(変な奴なのは間違いない。教室とかも滅茶苦茶にして、明らかにおかしい奴だ)
そこが変わる事は無かった。しかし、思うところもある。
(でもなんか…、話は通じるんだよね。それに口調は強気な感じでも、言ってる事はそうでもない。夢見がちな思考してるし)
総じて、読めない奴。剣士の花子に対する評価は、ひとまずそんなところで落ち着いていた。
………。
…そんな二人の端末に、この日新たなメッセージが届いた。




