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先進学園は、施設に関しても、他の一般的な公立高校とは異なっている。
ここを一言で表すなら、大学に近い。校舎はいくつもの棟に分かれ、蔵書は図書室ではなく、専用の学内図書館と呼べる建物に納められている。他にも、室内プールに各競技施設。敷地内に、購買や学食なども完備していた。
どんな教育を行う事になっても、対応できるようにする為、と言う謳い文句はある。しかし実質的には、これも“特典”の一つだった。ここに通う生徒達は、代わりに自分自身を提供しているのだから…。
「いや、酷すぎじゃない? なにこのエレベーターとか。そりゃ税金の無駄とか言われるわよ」
「まあ余所には滅多に無いよね」
この学園内の案内とは言っても、学校は学校。花子はその豪華さに目を見張っているが、それぞれの施設が存在する役割としては、他の学校とほぼ変わらない。剣士は手早く、場所の情報を中心に伝えていく。
(大問題児って聞いてたけど、今のところは特に…。あの跳び蹴り以降、手を出したりもしてこないな)
「どこのレストランよこれ? 普通何個かあるメニューから選べる程度じゃないの?」
「普通はそうらしいね」
剣士は、ひたすら適当な同意を並べていた。それだけでも、特に問題なく進んでいる。
(デートとか言うアホな課題の約束、さっさと取り付けて解散しよう)
「野村――」
「ねえ、あれ何?」
「ん…ああ」
花子があれと指した先には、一つの集団があった。二人の居た学食に入ってきて、不必要に広く一画を占領している。放課後で人は少なめではあったが、机に腰掛けたりと、お世辞にもマナーが良いとは言えなかった。
「あまり大きな声では言えないけど、まあ不良だね。今時、あそこまでわかりやすいのも珍しいけど」
「ふぅん…」
(野村も目立つんだから、あんまりあからさまに向こう見ないで欲しいんだけどね)
「ねえ」
「うん?」
「あいつら、どのくらい強い?」
「うん…?」
(強い…? スクールカースト的な事かな)
「ああ、まあ上の方なんじゃないのかな。皆避けてるし、基本関わらないようにしてるしね」
「なるほどね…。なら、あいつら潰しておいて損は無いわね」
「…は――」
「お゛っら゛ああぁぁぁぁぁぁ―――」
剣士が反応した時には、すでに花子は走り出していた。つい先程聞いた覚えのある叫び声と共に、たむろする不良達へ向けて跳び――その中心にあったテーブルを吹き飛ばす。
「うお!?」
「んだてめえ――」
ダンッ――!!
不良達からの当然の講義を、花子は椅子に脚を下ろし、音を立てて黙らせた。しかも、それだけでは止まらない。立て続けで、不良達を追いやるように置かれている物を吹き飛ばしていく。
「すぅぅぅぅ…、お゛っら゛あああああああ!!」
息を吸い直し、花子は再び叫びと共に暴走を続ける。止まる事無く設備を滅茶苦茶にし続けるその姿に、不良達ですらも彼女の常識を疑い、引きつつあった。
そんな様子を見て剣士は…素早く物陰に身を潜めていた。
(うん、絶対知り合いだと思われたくないからね。…時間の問題だけど)
そして、進行形で問題行動を起こす花子が、自分のバディである事を嘆いていた。花子と関わるのが確定している以上、不良達との接点はすでに出来てしまっている。
退散していく彼らを見送り…見えなくなったところで、剣士は渋々自らのバディの元へ向かう。
「お゛っ…ら゛あ…」
「………」
そこには息を切らせた花子の姿と、見るも無残となった学食の惨状があった。
偶然なのか、怪我人は出ていない。元々暴れ始めたのが不良達の傍であった為、周りに他の生徒は居なかったのだ。
「一応聞くけど…なんで?」
その問いに、花子はぐりんと首をひねり、剣士を見据えて答えた。
「先手必勝! ぶっころ! ぅおらああああああああ!!」
「………」
剣士は遠い目になっていた。
やり切ったとばかりに目を閉じ天を仰ぐ花子と共に、双方固まりかけたところで…端末への着信が届く。
『今からもう一度指導室まで』
今度は、剣士が天を仰ぐ番だった。もちろん、花子のそれとは異なる理由で…。
(ああ…もう……先の事を考えたくない)
この後、指導室へと戻った二人は、LCから食堂の復旧を指示された。
剣士は、その指示自体を端末へ送れと、内心で文句を言わずには居られなかった。




