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いきなりバディ学園!  作者: らいず
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 その背丈に見合わぬ豊満な女性は、とびきりの笑顔で言った。

「そんなわ・け・でー。貴方達には、今日からバディと共に、お勉強に励んで貰いますぅ」

 それに対し、教室内の生徒達は、まるで納得がいっていなかった。

「ふっざけんな!」

「いやマジ何言ってんの?」

「しねえええええええええええええええ!!」

「意味分かんねえんだよ!」

(いやー意味は分かるでしょー…)

 そんな喧騒の中、一人の男子生徒が内心で吐き捨てるようにぼやく。しかしその顔には、教壇に立つ女性同様、笑顔が張り付いていた。

「えー? 仕方ないですねえ…。もう一度だけ簡単に言いますとー」

 罵詈雑言の混ざる叫びの中、それを全く意に介せず、女性は続ける。

「貴方達は、今日から新教育プランの実験た…実体験をして頂きますー」

「おい今なんつったこのクソ女!」

(口悪いなあ、皆…)

「こちらが指定したバディと共に、特定の評価基準をクリアしてください。それは他の教科同様、成績に影響しますので、頑張らないと駄目ですよー?」

「いきなり何なんだよ!」

「それ受験に関係あんの!?」

「しいいいいいいいいいいいいいねぇえい!」

(納得できないふざけんなーってのは、心底同意だけどね…)

「当然受験にも、就職にも影響しますよ? 言ったじゃないですかー。これはれっきとした、新教育なんですからぁ」

 癇に障る笑顔。目の前の女性が浮かべるものがそれである事に、生徒たちは気付きつつあった。何の意味も持たない、ただ笑っているだけの表情。

「なんで私達が…」

「なんでって…何を言ってるんですか? ここはそういう学園じゃないですか」

(そう。だーから俺はこんなところ、来たくなんて無かったんだよなあ)

「よりによってなんっで俺達なんだよぉ…」

「やっぱりおっぱいすげえな…」

「Siiiiiiiii…Neeeeeえええええええええええ!?」

(うるっせえな誰ださっきから裏声で死ね死ね言ってる奴は!? あとその前の奴!)

 教室内の空気が、徐々に反発から悲嘆へと変わっていく。それは納得では無く、諦めを現していた。この学園に通う生徒達は、女性が言う通りわかっているからだ。

「それではー、今日から心機一転、頑張りましょう。れっつこみゅにけーしょん♪」

「「………」」

 やがて先程までとは打って変わった静けさの中、それは始まった。思春期の生徒達にとって、非常に大きな意味を持つ変化を経て…。




 時は近未来。この国はとある問題を抱えていた。

「おあああああああああ!? 有能な人材が足りん! 足りんぞああああああああああ!」

 今日もどこかで、企業団体の長達が叫ぶ。これは、この国全体の叫びでもあった。

 進歩した技術、衰退した伝統…。そうしたずっと続いてきた変化の中、国民もまた変化していた。

「ほら、今の子達に合った働き方をね。うん、ね? ちゃんと考えようじゃありませんか」

 そんな声の広がりと共に、働き方も増え、浸透して行った。会社に出社せず、文字のやりとりでも働ける。技術的な管理のみで、肉体的な労働力の提供は不要。そうした新しい形の働き口は、技術の進歩と共に増加した。そしてそれは、必要に迫られての事でもあった。その理由は…。

「なんで今時そんな事しないといけないんですか?」

 普通の企業、普通の仕事。オフィスに出社し、物を揃え、人と関わり働く。そんなほとんどの人間が、当たり前に出来ていた仕事。それが…。

「嫌ですぅぅぅううう!」

「………ぁ…はぃ……す」

 まるで出来ない社会人が続出した。

 その年の新社会人は、新しい教育指導要領によって、学生時代を送って来た世代だった。考える頭と自主性を持った人材が欲しい。そんな社会からの声を元に、より自発的な行動力、生産性のある人格の育成を目標とした教育。従来の授業形式の教育を全て捨て、義務教育で学ぶ内容は、試験で結果のみを求めた。そうする事で、自ら結果の為に工夫し、達成するノウハウを身に付けさせようと言う狙いだった。当時この教育は、賛否あれど支持されていた。飛び級制度のある諸外国にも似た、自由度の高い、個々のペースに合った学習への第一歩。させられる勉強の一歩先へ…そんな期待まで寄せられていた。

「もう嫌だあ!」

 また一人、新人が会社から逃げ出していく。

 結果は、大失敗だった。その年の新社会人年内離職率は、過去最大を記録した。

「なぜだ…なぜ普通に会社に来て、言われた作業をするだけの事が出来んのだあ…」

 これも、どこかの社長の嘆き…。しかし出来ないのも当然だった。そんな事は、彼らの常識には無かったのだ。

 決まった時間に指定の場所に行き、決まった作業を完了させる。人と話す。自主性よりも先…、当たり前に必要な事を学ぶ機会を与えられなかった世代。彼らにとって、社会が求めるものはあまりに理不尽で、許容しがたいものだった。

 そして、彼らは引きこもった。後に、引きこもり世代と蔑称で呼ばれる原因がこれだ。

「何を夢ばかり見ているんだ…。そりゃあ優秀な奴は、自宅で自由に仕事してる。でもいくらそういう仕事が増えたからって、俺達みたいに身体張る人間は必要なんだよ…っ」

 そんな嘆きも、引きこもり世代の若者にとっては、知った事では無かった。やがて、どこかの誰かが、ネットでこう呟いた。

『何が引きこもり世代だ。俺達が悪いみたいに言いやがって。悪いのは引きこもり教育を採用したお国様でしょふぉーんwww』

 そんな一人の呟きが、言葉を変え見方を変え、大きな議論を生んだ。

『まじでその通りなんじゃないの?』

『何言ってんだ言い訳しやがって。これだから引きこもり世代は』

『そもそも教育を海外に近づけた?のに、社会はそのままなのが悪い』

『ちゃんと一部地域で試してから、全国的に取り入れたんじゃないん?』

『そりゃ一部ならよかったんじゃねえの。優秀な奴は優秀だし、今は家ん中の仕事多いし』

『全員がそういう職には就けんしな』

『自主性を持った人材育成(笑)』

『ヒッキー世代「自ら考え、期待通りの成果をお出ししましょう!(キリッ)」』

『その力が私達にはありますん!』

『会社「手足となって働いて下さい(考えずに手と足動かせ無能)」』

『そりゃ発狂するでほんま』

『この国マジで変わんねえよな』

『とりあえずこの無能養成教育止めろよ』

 これはほんの一部…。社会的な大問題となった、国の教育に関する議題。これを受け、国の教育指導方針は、ひとまず従来の形へと戻される事となった。しかし、それで社会の求める人材が育っていなかったのも事実。国の繁栄の為、何かしら変えていく必要性があった。

 そこで、一つの案が持ち上がった。良いと思われる指導方針を試し、その後の結果まで見守る…。その為の学園を作ってはどうか。適当な一部地域での実施では、せいぜいその後の就職率などを、数字で見るのが関の山。そうでは無く、社会人になった後も続く面接や、質疑応答、チェックシート、周りの評価…。そうしたデータを集める事で、その教育による成果を確認する。国の為になる人材を、育てる事が出来る教育方針を見つけ出す。そういう学園の発足だ。

 バッシングに対する、火消しの意味もあったのだろうか。この案は異例の速さで可決され、その為の施設が建てられた。人員も招集され、生徒を募集し…その学園は始動を始める。

 紆余曲折あり、それから約十年余り…。

 その学園では、数多ある他の学校と、特に何も変わらない…普通の教育が実施されていた。

 今日、この時までは………。

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