第二章
承第一章
読者のみなさん、初めまして。ジャックマンこと中山裕也さんの秘書、小野麗子です。第二章は、私の視点で物語が進んでいくのでよろしく(第一章までは誰の視点だったのかって?作者の視点よ)。
第一章を読んでくれた人なら、「ハジセカ」のマネージャー、小田貴司さんから話を聞いたことは知ってるよね。さっき私たちはハジセカ事務所を後にして、NHK渋谷ホールへ向かったの。何をしに行くのかは、よくわからないけど。
ジャックマンの後を追って、みんなでホール控え室の一つに入ると、びっくり!!有名な某ジャニーズグループのメンバーが勢ぞろいしている。
「この人たちは昨日、ハジセカの次の順番で紅白に出たんだ。」
ジャックマンがささやいた。ハジセカは紅組だから次の順番には白組のこのグループがあたるのよ。
彼らは紅白後の休憩をしているらしく、寝ころがったり、酒を飲んだりしている。
「おはようございます。疲れている中すみません、どなたか調査に協力してくださいませんか?」
すると、メンバーの視線がいっせいにこちらに向けられた。ジロリ 紅白のすぐ翌朝とあって疲れているのだろうか、皆、表情が暗く、目つきが悪い。うう……
ひるんで二、三歩後ずさりした私を横目に、ジャックマンは前へ進み、真ん中にいるリーダー格の男と握手して質問した。さすが私たちの事務所が誇る、日本トップクラスの探偵ね。
「あなたたちは、ハジセカの一つ後で紅白に出たんですよね。」
リーダーは少しばかり無言になった。酒が回っていて、記憶がとんでいるのかな。ややあって、
「……はい、そうですが。」
「昨日、ハジセカの光さんが出かけたのを見かけましたか?」
うーん、やっぱりそういう質問ね。
「あ、見ましたよ。ハジセカのマネージャーさんが光くんを買い物に誘ってた」
これって、さっきマネージャーの小田さんが言ったのと同じじゃない。せっかくの訪問も時間の無駄になるかもよ。
と、ジャックマンが次の質問に移った。
「その誘った時間は?」
「確か午後十時頃です」
「なるほど」
さっき小田さんが言った時間とあまり変わらない。
「あっ、そういえば行き先も言ってたぞ」
「なんと。どこですか!?」
「えーとえーーーと
思い出しました!!確か二子玉川へ行くって言ってましたよ」
「何、二子玉川?」
十数分後…私たちは電車の中にいた。さっきまでいたNHKホールがある渋谷から二子玉川までは、東急田園都市線一本でいける。
「しかし、急行に乗れるとはついてましたね。」
と、龍一くんが言った。
「そうだな。これで予定よりも早く着くだろう」
とジャックマン。
「今さっき二子玉川周辺をグーグルマップで調べましたが」
真樹美緒ちゃんがパソコンをのぞきながら言った。
「多摩川が近くを流れています」
「そうか。多摩川といえば、死体が打ち上がった川じゃないか。とすると、やはり二子玉川にはなにか手懸かりがありそうだな。」
やがて急行電車は二子玉川駅に滑り込んだ。思ったより、二子玉川って東京に近いのね。
「ここ二子玉川駅は、東急田園都市線と大井町線の連絡駅なんだ。」
鉄道に詳しいジャックマンがひけらかしている雑学は、みんな聞いていない。
ところで二子玉川といえばショッピングをしたいところだけど、残念ながらそんなことをして楽しんでいるひまはなかった。私たちはすぐに改札を出て駅ビルを後にすると、地図に導かれて多摩川の河川敷へ向かった。ここは、死体が打ち上がった場所の下流みたい。
「あ、あそこに釣り船屋がありますよ。」
寺原さんが言った。そういえば、彼は子どもの頃釣り好きだったと言ってた。
「人、居るのかな」
とりあえず聞き込み調査をするらしく、ジャックマンがノックをすると、中から「どうぞ」としわがれた声がした。
「失礼します。中山探偵事務所の者です。調査に協力してくださいますか?」
「なかやまたんていじむしょ…」
小屋の中にいた、あごひげの長いおじさんは少しの間考えこんだ。そして、
「あー、小平にある……わかった、協力するよ」
「ありがとうございます!」
私たちの事務所が有名でよかった、これで手がかりが増えるかもしれない。
「あなたは、昨日の夜、十時から十二時の時間帯どこにいましたか?」
「十時ねえ。まてよ、俺は確かこの小屋にいたぞ」
「何をしてたんです」
「いや、つけ払いのやつがえさ代を全部払うって言ったんだ。で、八時ぐらいから待ってて…」
「来たんですか?」
寺原さんが口を挟んだ。
「いや、結局来なくてね、今朝電話したら風邪で寝込んでるとかで」
「それは絶対でっち上げですって。次来たときに差し押さえたほうがいいですよ」
「うーん、信用できるやつだと思ってたんだけどなー」
マズイ、だんだん話題がずれて来てる!ジャックマンも気付いたらしく、
「なるほど、ありがとうございます。で、あなたが外に出た時何か不審なものを見たりとかしてませんか?」
話を修正した。
「うーん。あっ、俺が煙草をすいに外へ出た時、車が外に停まったんだ。」
「何ですって!それで、その運転手は?!」
「すぐに車から降りてきて、トランクから何か船みたいなものを出したんだ。」
「ふむ」
「その船、どこかでみたことあると思ったら、ハジセカの『リボン乙女』のMVで使われていたものとそっくりだったんだ。」
あたりまえだけど、一月の中でお正月らしいのは三が日までなのよね。それ自体は子どもの頃から薄々知ってたけど、社会人になると改めて身にしみて感じる。
今日は一月四日。三日までは、藤原光さんの件以来事件はなかったけど、今朝から昼まですでに二、三回の相談があった。で、今は昼休み。半数のメンバーは調査のため出払っていて、事務所の中は普段より静かなの。
そんな中、ジャックマンはコーヒーの入ったマグカップを手に、サンドイッチ(たぶん親が作ったのだろう)を食べていた。そして、その視線の先にはテレビが…
「ジャックマンさん、何観てるんですか?」
「ん、あー『リボン乙女』のMVさ」
あ、こないだひげのおじさんが言ってたやつね。
あのとき、おじさんはこう続けた。
「で、車からボートを出したら、その男は何か物を船に乗せて、そのまま上流に流したんだ。」
この証言が正しいとすれば、ほぼまちがいなく、おじさんの言う「男」が犯人だ。でも、いったい「男」の正体は誰なんだろう。
すると、MVの画面が、湖のシーンに変わった。あっ!!これは。
「これが、例のボートですね!」
「そうだ。」
画面では、メンバーが楽しそうに船をこいでいる。
「このボートの仕組みは、船に人が乗った状態でボタンを押すと、壊れて…」
画面のボートの底が割れはじめた。
「そして、次のシーンへ移るのさ。」
「そーなんですか。私、ずっとCGだと思ってました。」
「そう思うだろ?俺も最初そう思ってハジセカに電話したら、教えてくれて…」
「なるほど。……どうしたんですか?」
いきなりジャックマンは目をつぶって考え込んでしまった。
昼休みは一時までだというのに、ジャックマンはまだ考え込んでいる。
と、突然、
「あーーっ犯人がわかったぞ!!」
「えー本当ですか!?」
第三章に続く




