シュナ、新たな町に立つ
「行った?」
「行ったみたい。もう大丈夫……だと思う」
「ごめんね、シュナちゃん。私の書いた嘘がバレちゃったせいで」
「いやぁ。アイシャちゃんのせいではないと思う……あれは……」
そもそもあの人が私を男だと勘違いしていたのが全ての原因なのだ。
ほんっと失礼な人だ。まったく。
だから私はぜんっぜん悪くないし、伝説の剣アルマレヴナを折ってしまったのも不幸な偶然が重なった結果だし、怒られるようなことは何もしていない! はず。
私たちはとっさにブロンズソードの〈領域作成〉という能力で作った何もない空間に飛び込んで、ヴァレンシアさんの追跡を逃れていた。
便利な能力なんだけど、強い魔力を持つ素材を“門”として使うし、門が壊されたら強制排出されてしまうのが難点。
今回はたまたま、さっき倒したオーガもどきの組織の中に“霊珠”なんて呼ばれるオーガの魔石があったから、それを門にした。
結構な魔力が籠っていたらしく、宿の一室ぐらいの空間が出来た。
「ねぇ、シュナちゃん。これからどうする?」
「う~ん。クロンの宿駅方面にはもう行けないね。いったん戻って、駅馬車で別の目的地に向かうか……。って、あれ? ちょっと待って」
その時、私はミラの警告に気づいた。
今回のそれは、私たちにとって天啓のようなものだった。
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「ほい、着いたよ。ロロナッドの町だ」
「ありがとう、おじさん。急にお願いしたのに、乗せてくれて」
「いいってことよ。嬢ちゃんたちが茂みの中から現れた時は、盗賊かと思って肝を冷やしたがね。なんたって、クリシュナちゃんなんか全身血だらけなんだもの」
あの時、ミラが〈探査〉で見つけた人物は、スコンプの町から乗せてくれた乗合馬車のおっちゃんだった。
だいぶ驚かせたみたいだけど、おっちゃんは快く乗せてくれた。
「ちょっとした大捕り物をやったからね。全員自首させたったけど」
「そうみたいだね。いや、私もそのチュートガチ盗賊団に会っているんだよ。宿を出る時たまたま見かけてね。宿駅の見回りの兵士に自首していたみたいだよ」
「良かった。ちゃんと自首するか不安だったんだ」
「ねぇ、おじさま? おじさまはここにずっといるの?」
「いや。わしはここも経由地だね。もっと先の、ランガドゥまで行くつもりだ。そこまで行くつもりなら乗せていってあげてもいいよ」
アイシャちゃんと私は目を見合わせた。
「んーん。大丈夫。私たちはここで降りるわ。ありがとう、おじさま」
「そうかい? では、達者でね」
ランガドゥなんて大きな都市じゃ、アイシャちゃんを連れて入ることさえ難しい。
ロロナッドはいい具合に小さいので、規律も緩いだろうし、しばらく身を潜めるのにはもってこいの町だ。
町の占有ダンジョンもあるにはあるらしいが、大きなものではなく、屑の魔石粒が採れるといった程度らしい。
ここでしばらく冒険者として暮らして、ほとぼりが冷めるのを待とう。
「おい、お前。身分を証明するものは何かあるか」
それほど高くはない塀に囲まれたのどかな町だ。
門のところで、衛兵さんのチェックを受ける。
「はい、これ。冒険者組合が発行した証明書。あと、この子は私の連れ」
「リリっていうの。孤児院の出だから苗字はないよ」
アイシャちゃん、打ち合わせてもいないのにナチュラルに偽名を名乗る。
眼鏡もいつの間にか外しているし。
肝が据わった子だ。
「んむ。特に不審な点はないな。冒険者としてのランクはDか。最低のEではないようだが、あまり役には立ちそうにないな。……組合支部は町の一番大きな広場の東側にある。くれぐれも、問題を起こすんじゃないぞ」
「は~い」
二人の声がそろった。
やっぱり。
読み通り、チェックもゆるゆるだったようだ。
「いい町だね」
「そうだね、アイシャ……えっと、リリちゃん」
「誰もいないところなら、元の名前でもいいよ」
「分かった。アイシャちゃん。これから、冒険者組合に顔を出して仕事がないか探してから、今日の宿を探そっか」
「……私も、シュナちゃんと一緒に冒険したいな。役に立ちたい」
「う~ん。依頼には危険がつきものだからねぇ。でも、そっか。私のいた村でも十歳ぐらいの子はすでに狩りの訓練を始めていたっけ。何か一緒に出来そうな依頼があったら、受けてみよっか」
「ほんと!? ……ありがと、シュナちゃん! だいすき!」
「えへへ」
あまり素直に「大好き」なんて言われると、ちょっと照れてしまう。
ちょうど、冒険者組合の建物が見えてきた。
教会ぐらいの大きさだから、そんなに大きくはない。
この町じゃ、これで十分なんだろう。
「ここだね。……すみませ~ん。他の町から来たんですがぁ~。って、あれ?」
受付に人がいない。
まさか、依頼が少なすぎてサボってるのかな。
でも、冒険者らしき人はそこそこいるようなんだけど。
「なによ、あんた。他の町から来たなんて。この町が小さいなんて思って、バカにしてるんでしょ」
受付のほうから声が聞こえる。
だけど、姿が見えない。
「いや。バカになんてことは……ええと、どこにいるんですか?」
「ここよ、ここ」
「ここって言われても……」
「あんたの目の前にいるでしょうよ。まったく。ちょっと待ちなよ。……っほい!」
と、受付の机の上に、突然小さな女の子が現れた。
あんまり小さくて、机の下に隠れて見えなかったんだ。
「えと……まさか、ドワーフ!?」
私が驚くと、受付の子は怒ったようにそっぽを向く。
「ふん! あんたも受付がドワーフだなんてバカにするんでしょ。でもね、一体受付嬢がエルフだなんて誰が決めたのよ!? そりゃ、大きな町の受付嬢はみんなエルフだけどさ。エルフなんて冒険者が持ち込んだ素材の鑑定も出来ないし、受付には不向きじゃない」
「いや、確かにおっしゃる通りですが……」
本当にそうだ。
なんで、受付嬢はエルフって思いこんでいたんだろう?
スコンプの町は……あぁ、受付と鑑定所が別に分かれていたっけ。
確か鑑定所の奥でドワーフのお爺さんが鑑定していたんだった。
ってことは、スコンプの組合にいたエルフのお姉さんは見た目と事務処理能力を買われての採用だったってことか。
だけど、「大きな町じゃ、鑑定にはまた別の人を雇うんですよ」なんて言ったらまた怒られそうだから、それは黙っておく。
「失礼ですけど、おいくつですか?」
「は? あんたも私が小さいってバカにするのね。あのね、ドワーフは人間よりも寿命が長いから、小さく見えても全然年上だったりするのよ?」
「おいくつなんです?」
「うっさいわね! 十六よ!」
「タメじゃん!」
なんでも、ドワーフは成長も早いから、十歳でもう成人なんだとか。
十歳でもう成人して、人間よりも長く若い期間があるらしい。
何だよ、夢の種族じゃん。
「ガラダ」
「え?」
「私の名前よ。……それで? 依頼を受けに来たんでしょ?」
ガラダさんは机の上でふんぞり返り、私たちを挑発的に見下ろした。
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