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シュナ、美女を怒らせる

 盗賊団の面々を帰し焚き火があったところに戻ると、見慣れない女の人がいた。

 まっすぐで美しい髪を片側だけ垂らしている。

 ボリューミーなまつ毛も、伏しがちのせいか楚々とした雰囲気を与えている。

 要はヤバイぐらいの美人。


「誰っ?」


「あいや、すまない。私だ。魔炎将軍ヴァレンシアだ」


 おののき後ずさっていたら、美人がおかしなことを言った。


「はぁ? ヴァレンシアさんは、オラァッ! とか叫んで、オーガもどき相手にハルバードぶん回すヤバい人じゃん。そんなわけ……」


「少年、私をそんなふうに思っていたのか……ほら。これが私がヴァレンシアである証拠となろう。見よ」


「げっ! ヴァレンシアさんの生首!」


「かぶと!」


 美女が手に持ったフルフェイスのヘルムなら見覚えがある。

 ヴァレンシアさんだ。

 っていうかまぁ、声で分かってたけど。


「少年には色々聞きたいことがあるのだが……まずは礼を言おう。私ですら手をこまねく相手をよくぞ。倒すばかりか、救い、改心までさせてしまうなど」


「いやいや。ヴァレンシアさんも。何かいきなり助けに飛んで来てくれて、ありがとうございました」


 それにしても、〈探査〉の圏内に入ってから到着まで、かなりの距離があったはずなのに……。

 ミラの警告からほとんどノータイムで到着したよね?

 どんだけ目や耳がいいんだって話でもあるし、どんだけ足が速いんだって話でもある。


「私の主武装……この剣が使えていたらな。あの程度のやつに遅れを取ることもなかったのだが。この剣には、夜の間は一つの傷も与えることが出来ぬという呪いがかかっているのでな」


「えっ。まさか、それって」


「おぉ。知っているのか? これぞ我が剣、“黎明剣アルマレヴナ”だ」


 そういって見せてくれたのは総身が輝くすさまじく美しい一振りの剣だった。

 寝物語に聞いた剣に、こんな形でお目にかかれるなんて。


 世に伝説となった剣はいくつもあるが、神の賜物と呼ばれる剣は“十三聖剣”と呼ばれる十三本しかない。

 そのうちの一つが、このアルマレヴナだ。

 兄妹剣とされる“黄昏(こうこん)剣ノエルレヴナ”とは対となる剣だというが、そちらのほうの行方はようとして知れないらしい。

 所属のはっきりしている数少ない“十三聖剣”だが、確かにこのアルマレヴナはこの国の守護者たる魔戦将軍の一人が持っていると噂に聞いていた。


「うわぁ、すっごぉ! 私、銘入りの魔剣初めて見たかも。私の剣なんて普通の能力しか籠ってない汎用品だもの」


『違います。私、“クリシュナの剣”はあなたと契約した際に、この世に一振りしかない銘入りのユニークに変わりました。訂正を求めます』


 ミラが何か言っている。

 魔剣にもランクがあって、アルマレヴナのような剣は〈鋭利化〉や〈魔法発動〉などの一般的な能力とは違う、特殊な魔力が込められているため、単純にプラスいくつと呼ぶことは出来ない。

 強さを測る際もプラスいくつ“相当”といった言い方をする必要がある。

 そういった剣は、銘入りと呼ばれ珍重されているのだ。


 かっこいいなぁ~。

 私の剣は、どんだけ強くても、結局はプラスいくつの汎用品だもんなぁ。


『違います。訂正を求めます』


 まだ何か言ってる。

 無視無視。


「それで、アルマレヴナの代わりにハルバードを振り回す、ヤバイ級の美人のヴァレンシアさんはこんなところで何をしていたんですか?」


「実はな、スコンプの孤児院から連れ去られた女児がいたようでな。どうも、親戚と偽って、女児の身元を引き受けたいという手紙を送って来た者がいたそうなのだが、不審に思ったシスターが問い合わせたところ、そんな親戚はいないということが分かってな」


「へぇ……それは物騒ですね」


 その時、焚き火をしていた場所近くの茂みがガサゴソと揺れた。


「あ、アイシャちゃん大丈夫だった?」


 アイシャちゃんはオーガもどきが現れたあたりから、茂みの中に身を潜めて隠れていたらしい。

 のそのそと四つん這いで出てきたのだが、枝に引っかけたせいか可愛いおけつがぷりんと出てしまっている。


「わわっ。はしたない」


「でな。実は、その女児は黒髪ロングで、眼鏡をかけているそうなのだが」


「へぇ。どっかで聞いたことありますね」


 私はさっき拾っておいたドロワーズを〈次元収納〉から取り出した。


「年のころは十歳前後と聞く」


「へぇ。アイシャちゃんもそのくらいだよね」


 オーガもどきがいなくなって安心したのか眠そうなアイシャちゃんに下着を穿かせようとするのだが、もうこっくりこっくりしていて全然はかどらない。


「名前は……アイシャ……と言ったのだが」


「へぇ。奇遇奇遇。同じ名前なんだぁ……って、え?」


 振り返ると、ヴァレンシアさんは美しい顔を歪めに歪めて私を見下ろしていた。


「少年……何をしている?」


「いや、アイシャちゃんの下着を……」


「下着を……脱がそうと?!」


 は?!

 何言ってんの?!

 そんなことするわけ……


 だけど、ヴァレンシアさんはどんどん妄想を膨らませていく。


「まさかお前が、女児誘拐事件の犯人だとは……! しかも、こんないたいけな子供に、いたずらを……!?」


「い、いや。ちが……違う違う。違います!」


 そもそも私、女だし!


「問答無用! 今時珍しい、心ある少年だと感心していたというのに……貴様というやつはぁっ!」


「ええーっ、いやいやいや。だから、勘違いですって!」


 ダメだ!

 聞く耳を持ってくれない!


「そこに直れ! 我が剣アルマレヴナの錆にしてくれる!」


 朝の光を受けて輝くアルマレヴナは魂でも抜かれそうな美しさである。

 ヴァレンシアさんはビシィッっと、私に向けて剣を突き出した。


「ちょまっ……聞いて下さい!」


 私も、とっさに距離を取ろうとブロンズソードを振り上げた。

 そうしたら……



 パキィィィ…………ン…………



 やけに長い余韻を響かせて、アルマレヴナが真っ二つになってしまった。


「な、な……!」


 驚きのあまり声も出ない様子のヴァレンシアさんに、私もなんといってお詫びをすればいいか分からない。

 あんな綺麗な剣だったのに……。

 あの、その……


「ええと……なんかゴメン」


「キ、キ、キ、キ・サ・マぁーーーーーっ!!!」



   *   *   *   *   *



(回想終わり)


 というわけだ。

 今もヴァレンシアさんはぶわんぶわんハルバードを振り回して追ってきている。

 でも、私は悪くないよね?


 あれは不幸な――そう、偶然の結果だもん。

 悲しい行き違いってやつ。


「待てぇ~~~!!!」


 あぁ、もう。

 どうしてこうなった。

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