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シュナ、舌鼓を打つ

◇月末が〆切の公募用の原稿にかかりきりで、更新が遅れてしまいました。

「おほほ~! もっと持ってきて! もっともっと!」


 町一番の宿の食堂で、私たちはカーロッサ料理に舌鼓を打っていた。


 カーロッサは南にそびえる断崖のおかげで日が当たらず、一年中涼しい。

 おかげで林檎や葡萄が甘い甘い。

 キャベツやレタスなんかの葉物野菜も肉厚でジューシー。


「葉物野菜がこんなにおいしいなんて思わなかったなぁ。林檎のドレッシングもいい感じ」


 何より、


「この食感がたまらんね」


 サラダに混じった、コリコリした触感の黒い物体は、ハネイグアナの翼膜なんだとか。


「おっ! シュナどの! スープが来たぞ」


 さらにハネイグアナちゃんはお肉としても優秀なのだった。

 ハネイグアナのスープは白く濁ったダシが出る。

 肉厚の甘~いキャベツに味がしみ込んでくたっとしていて、これがまたタマラン。


 アイシャちゃんがスープを掬って私に見せてくる。


「お肉に混ざってるキラキラした粒ね。これ、エサの、クッシーナ草の成分が固まったものなんだって」


「へぇ。調べてくれたの?」


「うん。シュナちゃん、昨日気になっていたみたいだから」


「どおりで、噛むと爽やかな風味がするわけだ。かすかに発光しているようにも見えるもんね」


 この粒、こってりしたスープにふわっと清涼な香りをもたらして、これがまた絶妙に旨いのだ。


「やー、でも、スープにも入ってるけど、やっぱり翼膜がおいしい。お肉と一緒に食べるといい感じ。ハネイグアナさん、今日も命をありがとう」


「黒パンにつけてもまた格別じゃなぁ」


 ルヴルフはさっきからスープにパンを浸す手が止まらないみたい。


「そうだ、翼膜もお肉もみんな一緒に刻んで捏ねて、肉団子にしたらどうだろう。絶対に旨いに違いないんだが。ハネイグアナを丸一匹、野菜や果物と一緒に煮詰めたドミグラスも絶品だったし。きっと合うと思う」


 なんて独り言を漏らしていると、アイシャちゃんが口を開いた。


「あのね。シュナちゃんが採ってくるクッシーナ草のおかげで、領主軍の負傷者が激減したらしいよ。無用な戦闘を避けられるようになったって。……ただ、ギルドの人には怪しまれてるみたい」


「え、そうなの?」


 うーむ。

 ロロナッドでもそうだったけど、荒稼ぎすると絶対に秘密を探ろうとしてくる人は現れるよねぇ。

 今回はダンジョンの奥じゃなく、みんなが使えるはしごを使っているから、慎重にやらないとバレちゃうかも。

 モグ竜が言う。


「じゃが、それとなく尾行してきおったギルド職員はわれらがガードしてやったから心配するでないぞっ」


「あんまり稼ぎすぎるのも良くないねぇ」


「……多分、ギルドの人は、私かモグちゃんのユニークスキルを使ってると勘違いしてるんじゃないかな?」


 と、アイシャちゃん。

 って、あれ?

 今なんか、聞き馴染みのない言葉があったぞ。


「ユニークスキルって?」


 するとアイシャちゃんがため息をついた。


「シュナちゃんだって、ブロンズソードの能力とは別に、〈鑑定〉を持っているでしょ」


 確かに、持っている。

 スケルトンからドロップするブロンズソードに、魔力が籠る瞬間を〈鑑定〉で観察するのが趣味みたいなものだった。


「たまにいるんだよ。一般的に知られている能力ではなく、世界でその人しか持っていないスキルを持っている人が。銘入りの魔剣が、〈鋭利化〉みたいな汎用能力とは違った、特殊な能力を持っているのと同じで」


「へぇ。私の〈鑑定〉は割とレアスキルって聞いたけど、それより珍しいスキルもあるんだね」


「そうそう」


「アイシャちゃんはスキルはもう鑑別してもらったの?」


 スキルの鑑別と解放は教会が行う。

 田舎じゃ、成人の日にいらっしゃる高位の司祭様にスキルを解放してもらうのが普通だけど、貴族は成人前にスキルを解放してもらったりすることもあるみたい。


「うん。……えと、どんなスキルか、知りたい?」


「んにゃ。アイシャちゃんが言いたくないなら、いいよ」


「ぶぅ」


 あはは。

 アイシャちゃん、ほっぺを膨らませて、何その顔。


「どんなスキル?」


「んーとね、……内緒」


「何よぉ。聞かれたがってたから聞いたのにぃ」


「ごめん。やっぱ、黙っておいた方がいいと思って」


 んま、アイシャちゃんがそう言うならいいけどさ。


「人族は一人がひとつずつ、違ったスキルを持っているというのは本当だったんじゃのう。他の魔獣などは、種族によってみな同じスキルだったりするものじゃが」


「ルヴルフもなんか持ってるの?」


「当然じゃっ。われは誇り高き竜じゃぞっ! 種族としてのスキルを二十ほど、それに加えて個別のスキルを十ほど持っておるぞっ。中にはユニークスキルもある」


「へぇ~!」


 それって結構すごいんじゃない?

 人間が一人ひとつずつなのに対して、一人で三十もスキルを持っているなんて。

 さすが竜というべきなのだろうか。


 なんて考えていたら、背後から声をかけられた。


「おや……そこにいるのは」


「げっ! あ、あなたは」


 そこにいたのは楚々とした雰囲気をたたえる、長身の女性。

 片側だけ垂らした髪に、伏しがちだがボリューミーなまつ毛……。

 魔炎将軍ヴァレンシアその人だった。


「ヴァ、ヴァレンシアさん!?」


「確か……シュナ殿と言ったか。よくリボンがお似合いだ」


「えあ、あ、ありがとうございます……」


 り、リボンしていて良かった……!

 勝手にリボンを外していたのを、さっきアイシャちゃんに怒られたばっかりだったんだ。


「こんなところにどうして……」


「いやなに、任務でな」


「にっ、任務!? って、温泉で言っていたやつですか」


「おっと。詳細は言えぬが、まぁ、その通りだ。この町に“いる”という噂を耳にしてな」


「そ、そうですか」


 どどどどどうしよう。

 私がいるって、噂になってる?

 そりゃ、クッシーナ草刈りで目立ちはしたけど、まだギルドに疑惑を持たれてるだけの段階だし、そんなに悪名は広まってないと思うんだけど。


「それともう一つ、実はガラダさんを探していてな。温泉では気づかなかったのだが、実は彼女のお爺様が、高名な鍛冶師だというのだ。もしや、折れてしまった我が剣を、打ち直してもらえはせぬものかとな。この町で、見かけてはおらぬか?」


「あ、あれ? ロロナッドにはいないんですか?」


「あぁ。ロロナッドの家を引き払って、どこかへ引っ越したようなのだ。温泉で会ったのはその引っ越しの途中だったらしい」


「そうなんですね。……この町じゃ、見てないですが」


「そうか。……あいや、すまない。有益な情報に感謝する。私はしばしこの町に滞在するゆえ、またまみえることもあろう」


「そ、そうですか。は、ははは……」


     :

     :

     :


「ま・ず・い! まずいまずいまずい!」


「大丈夫だよ。あの人、まったくシュナちゃんに気づいてなかったし」


「そ、そうは言うけどさぁ。……それより、アイシャちゃん、とっさに眼鏡外してたのね。さすが」


「ちょっと不便だけどね」


「どうする? もう町を出たほうがいいかな」


「……会ってすぐに? そっちのほうが怪しまれるよ」


「そ、それもそうか」


 う~ん。

 この町にいるとヴァレンシアさんと接触する機会が増える。

 バレる確率も上がりそうな気がするけど……。


 ただ、ヴァレンシアさんは私のことまったく疑ってないっぽいんだよな。

 だとするなら、下手に怪しい動きをするよりも、いつも通りにしていた方がいいのかも知れない。


「よしっ!」


 私はハネイグアナのスープをぐびりと飲んで、勢いよく立ち上がった。


「どうするか決めたの?」


「うん。……新しい剣を買おう!」


「はぁ?」


 アイシャちゃんが不可解そうに眉をひそめた。

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