シュナ、真理より帰還す
ぱい!
「はっ」
「お、目が覚めたようじゃぞ!」
目が覚めると、辺りはすっかり明るくなっており、私はルヴルフとアイシャちゃんに心配そうに見つめられていた。
「え……もしや、私……」
「うむ、急に鼻血を出してぶっ倒れよってな」
「だいじょうぶ?」
「じゃ、じゃあ、まさか……私……」
な、な、な、なんてことなの~っ!
まさか、乳の圧に負けて倒れるだなんて!
一介の女子として、それはちょっとどうなのよ!?
確かにすごかったけども。
やばかったけども!
と思ってたら、そのヤバイ級のブツをお持ちの方も私を覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
「ひゃっ!」
「む。まだ、どこか悪いのか?」
「い、いえ。違くて。……ええと、私、どのくらい寝てました?」
「なに、大したことはない。さっきまでは暗かったのが、明るくなっていてビックリしただろうが。単に、朝陽が昇り始めただけのこと」
そう言って美人のお姉さんが指さす方を見ると、確かに、ちょうど朝陽が昇る頃だった。
「ご迷惑をおかけしました」
「よい。無事で何よりだ。……それより、少し体が冷えてしまった。そろそろ出る予定だったが、もう少し浸かっていくとしよう」
「あの、ごめんなさい。私、クリシュナって言います。パディナ村から来たクリシュナ。冒険者をやっています」
「ルヴルフじゃ」
「アイシャ……です……」
三人ともお辞儀をして挨拶した。
すると、キツめの顔が嘘のように、美人は朗らかに笑った。
そのお顔がまた……私が男だったら、心臓が止まってしまうぐらいで。
「私は……フェンレッタと申す」
こんな笑顔に会えるなら、モグ竜にひと晩歩かされたのも吹っ飛んじゃうね。
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至福。
至福だ。
朝っぱらから露天温泉に浸かれるなんて、これ以上の贅沢があろうか。
竜にとっても同じみたいで、ルヴルフがため息を漏らしている。
「はぁ~。極楽じゃのう」
「あれっ、ルヴルフ。こんなところにおっぱいがもう一つあるよ?」
メインのほうは、手のひらに収まるサイズ。
だが、同じようなのがさらに脇の下にもう一組ある。
ちっちゃーいけど、ぷくっと膨らんでいる。
「ほぁ? そりゃあ、あるじゃろう。そなたはないのか?」
ないよ、んなもん。
私はお湯をバシャバシャやりながら、ルヴルフの脇の下に手を入れる。
「やめいっ、こらぁ」
「人間ではあまり見ないなぁ。ある人もいるのかも知れないけど。ん、あれ? ルヴルフってどうやって産まれたの?」
「ふゎっ? そ、そりゃ当然、卵からに決まっておろう。さ、触るのをやめよ」
「え~。不思議。じゃ、やっぱり、地竜って卵生なんだよね? なのに、おっぱいがあるの? あ、それとも、人間の姿をもらったときについてきただけで、お乳は出ないのかな」
「っひ、う! そこは……。んんっ、っち、乳は出る。われらはみな、母の乳で育つからのぅ。ひゃっ、ひゃめっ」
やっぱり不思議だ。
卵生なのに、母乳で育つなんて。
その辺り、竜だからか、他の生き物とはまた違うのかなぁ。
どうにも気になって、ルヴルフの乳首を撫でまわしていたら、ルヴルフの声の調子が段々おかしくなってきた。
「んっ……。んっ、んっ、んあっ、んふぁっ」
「人の姿だからかも知れないけど、ここからお乳が出るようには、やっぱり思えないんだよなぁ。乳首も小っちゃくて、小麦の粒みたいだし」
「はぅっ、あっ、あっ、あっ、やめっ、あっ」
「う~ん」
とか言いつつ、こりこり。
なんてやってたら――、
ぽんっ!
と音でも鳴りそうな勢いで、モグ竜の鼻が飛び出した。
「……ぅ、う、ぷゎははははは!」
こらえきれず、笑っちゃった。
「んあっ……ふゎ?」
「ルヴルフ、鼻! 出てる、鼻! あはははは」
「ぁ……あっ……」
ルヴルフの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「ぉ、おのれ……! おのれ! シュナ殿とて許せぬ! このぉ~!」
「あはははは。ごめん、ごめんって!」
涙目のルヴルフがポカポカ殴ってきた。
今のは私が悪い!
ごめん! ごめんよ、ルヴルフ!
「あ、あの……フェンレッタ……さん?」
「どうしたのかな? お嬢さん」
私とルヴルフがじゃれていると、アイシャちゃんがフェンレッタさんのほうに近づいて行った。
フェンレッタさんのブツはお湯の波間に浮かぶ島みたいだ。
アイシャちゃん、くっ、と唇を引き締める。
何か重要なことを、聞こうと……。
「あの……、その」
もじもじしながら、一歩踏み出した。そして……
「いいよ。ゆっくりでいいから、言ってみなさい」
「そのっ! どうしたら、そんなに大きくなれますか?!」
……ああ~~っ!?
ああ~っ?
あああ~~~っ!!!
なんだそれ、なんだそれ!
私、そんなこと聞かれたことないんだけど!?
「ふむ、小さいのを、気に病んでいるのか?」
く、悔しい~っ!
私だってロロナッドにいた間はいつも、一緒にお風呂に入ってたのに!
そりゃ、戦力差は歴然だよ?!
でも、私だって多少は……
そういうのは、まず私に聞くべきじゃないかなぁ!?
なんか、女として負けた気分だ。
「人それぞれ、器というものがある。私と同じようにして、同じように育つとは言えないが……よく食べ、よく遊び、よく学び、よく寝なさい。冒険者とは不安定な職業だとは思うが、ご飯は、ちゃんと食べさせてもらっているかね」
「うん。シュナちゃん優秀なのよ」
「それは重畳」
人にはそれぞれ器がある、かぁ……。
私の器は、ここまで、ってことなのかなぁ。
いやでも、私だってまだ十六歳だし!
まだ膨らむ可能性も。
がんばれ、膨らんでくれ、私のパン種……!
「彼女の役に立ちたいのか?」
「うん。早く大きくなって、一緒に冒険に行きたいの」
「なら、風呂から上がったら、少し剣を見てやろう。むろん、剣ではなく魔法で戦うという選択肢もあるが、剣を覚えておいて損はあるまい。魔法が尽きたときに身を護る術となる」
「ありがとうございますわ。シュナちゃんったら、全然教えてくれないのよ」
「保護者殿はあなたを危険な目に遭わせたくないのであろう」
って、あれ、もしかして。
大きくなりたいって、身長的なあれのこと?
確かに、フェンレッタさんは身長も高いもんな。
あ、なんか、バカな勘違いしちゃって、ちょっと恥ずかしい。
へへ。
私もフェンレッタさんのもとへ、つつつと泳いでいく。
「あの、私からも質問してもいいですか?」
「構わないが」
「肩、凝りませんか?」
「は?」
フェンレッタさんはちょっと面食らったような顔をした。
「こんなに大きいと、色々不便じゃないですか?」
「あ、あぁ。……いや、クリシュナ殿は冒険者であったな。私も、実は戦闘を生業とする職業なのだが、確かに邪魔なことは多い。いっそ、切り取って捨ててしまいたいと思うことさえある」
「え!」
それを捨てるなんて、とんでもない!
「だから、この温泉は私にとって至福の時だ。日頃の重荷から解放される」
確かに。
その重荷とやらは今ぷかぷか気ままに浮かんでいらっしゃる。
「ちょっと持ってみていいですか?」
「はっ?! ……あ、あぁ、構わないが」
「ふぅおおぉおぉ……! このずしっとくる重み。確かに、これをつけたまま戦うなんて大変そう。指が……指がどこまでも沈んでいく……!」
「や、た、確かに。戦う際はサラシで充分に潰し、その上で鎧を着こんでいる」
「うへぇ。それは窮屈そう」
と話しつつも、ふよふよ。
いつまでも触っていられるな、これ。
「あっ、んぅ。もう少し、優しく……」
「鎧ってことは、もしかしてフェンレッタさん、騎士様なんですか?」
鎧なんて着るのは、基本は騎士様だけだ。
あんな高いもん、冒険者で着ているやつなんて、そんなに見かけない。
「んっ! あ……あぁ。王都にて、魔戦将軍を拝命している。……実は今日、私と同じ悩みを持つ同僚を、鼓舞する意味も込め、ここに呼んであるのだが。まだ着かぬようだ」
へぇ~。魔戦将軍かぁ。
って、エリート中のエリートじゃん!
っていうか、最近、どっかで聞いた気がするんだけど……。
と、その時、風呂場の入り口に新たに小柄な影が見えた。
そのサイズ感、つい最近までよく見ていたような。
「え、が、ガラダさん?」
ぽよぽよっとしたシルエットの持ち主は、ドワーフの受付嬢ガラダさんだった。
あれ、なんで?
ロロナッドの町にいるはずなのに。
「あれ~っ、あんたたちも来てたんだ? いいわよね、ここの温泉」
ガラダさん、子供みたいに見えるけど、十六歳。
私とタメだ。
ちなみに、ちょっとふくよかなお子様みたいな体つき。
あるんだか、ないんだか……ないんだか……ってぐらいかな。
これは……私の勝ちと見ていいでしょう。
「あ、そういえばね。さっきそこで、すごい人に会ってね。私、たまたま王都でお見掛けしたことがあって、声かけちゃったのよね~」
ガラダさんが嬉しそうな声を出す。
その後ろから、長身の女性が風呂場に入って来た。
その人は……もちろん、私も見たことがある。
私が剣を折っちゃったあの……
「お、おぉ。着いたか」
フェンレッタさんが新たな人影――ヴァレンシアさんに声をかける。
私はアイシャちゃんを掴まえて、岩の陰に飛び込んだ!
◇今回はなんかめっちゃ筆が乗ってしまい、長くなってしまいました!




