シュナ、後悔する
『クリシュナ。また今のようなことがあっては困ります』
「ごめんなさい、反省してます」
私はミラに説教されていた。
さっき、密閉された空間であんなに大きな炎を出してしまったせいだ。
ミラがとっさに、アイシャちゃんとドワーフのお爺さんをマジックシールドで守ってくれたから良かったようなものの……。
あれじゃ、アイシャちゃんまで黒焦げにしちゃっていたかも知れない。
「のうのう、あいつ何を独り言を言っとるんじゃ?」
ちなみに、ルヴルフは一人で勝手に耐えたっぽい。
その辺はさすがは竜である。
「ぐ、ぐぎ……ぎ……」
私がしょんぼりしていたら、ホールの中央で黒焦げの物体がうめいた。
まだ倒しきれていなかったのか。
七災王の……なんだっけ?
なんとかの、地のランドールだけはあったってことだ。
ルヴルフが近づいていくと、ランドールだったものはもぞもぞ動き、焦げを振り落としていく。
中から小柄になったランドールが現れた。
ルヴルフが死を宣告する。
「すまんな。そなたを倒したのは、われの力ではないが……そなたを倒して、我は魔王になる」
「ま、待て!」
ランドール・ミニが悲鳴を上げた。
「わ、私を倒したところで、魔王になどなれませんよ!?」
「なんじゃと……?」
「そ、そもそも、魔王を倒して力を奪えるのは、同じ魔王だけです! 何を勘違いしたのかは知りませんが、魔王のことをよく知らないように見えたから、少々懲らしめてやろうとしたまでです!」
「な、なぬぅ?」
「っていうか、あなた! そもそも、竜でしょう?! 本来の区分で言えば、魔物ですらないじゃないですか! 竜は人族や魔族がこの世界に生まれる前からいたと聞いていますよ?! どうして魔王になれると思ったんです!?」
え、そ、そうなの?
竜って、魔物とはまた別枠なわけ?
「私はそうなんじゃないかな、って思ってた」
アイシャちゃんが得意げにふふんってした。
さすが、本の虫。
っていうか、竜って、そんなに前からいたんだね。
「これで……姉上から逃れられると思ったのに……!」
ルヴルフが肩を落として落ち込んでいた。
すると、ランドール・ミニが私を見上げて言った。
「そ、そちらの冒険者の方!」
「私?」
「い、命を狙ったこと、平にお詫びいたします。どうか、命だけは助けていただけないでしょうか。あなたがあのような実力者とは知らず……! どうか!」
ん? んー、どうしよっかな。
私としてはモグ竜の手伝いに来ただけだし。
命を狙われたことは腹立たしいけど、反省してるなら別にいっか、とも思う。
「あのさ。魔王が死ぬと、ダンジョンはどうなるの?」
「ほ、他の魔王に殺された場合ですと、新たな魔王に力が移ります。ですが、冒険者に殺されたり、寿命を迎えたりしますと、ダンジョンの機能もまた死にます。再びこのダンジョンに魔王が産まれ、ダンジョンが蘇るまで、短くて十数年、長ければもっとかかるかと」
「じゃあさ、イワカゲスライムから魔石も採れなくなる?」
「い、イワカゲスライムにお気づきでしたか。ええ。彼らも力を失い、徐々に数を減らしていくことでしょう」
「う~ん。冒険者組合にイワカゲスライムの狩り方について教えるって約束しちゃったんだよなぁ」
「あんまり狩られると、力が溜まらず、元に戻れぬのですが……あ、いえ、命には代えられませんけどもっ!」
この魔王も、別に町の人に迷惑をかけていたわけでもないしね。
密かにここで七災王を倒す力を研いでいただけみたいだし、まぁ、見逃してやってもいいかなぁ。
記憶だけは操作させてもらうけど……。
「お前さん、すごい冒険者だったんじゃのう……あの炎、わし、びっくらこいて腰を抜かしちまったわい。ルヴルフがとっさに立ちふさがって守ってくれたから、良かったようなもんの」
ありゃ。
ミラが守ったことは気づいてないんだな。
でもどっちみち、このお爺さんの記憶も、消さないと。
と、思って、はたと気づく。
「みっ、ミラ!」
「さっきから誰じゃい、そのミラっちゅうんは」
『なんです、クリシュナ?』
私はお爺さんと少し離れ、ひそひそ声でミラに聞いた。
「あのお爺さんさっき、ランドールとの戦いの中で、何か閃ていたよね?」
『そのようですね』
「じゃあさ、じゃあさ。もし、ランドールとの戦いの記憶を消したら、その閃きも消えてしまう?」
『解。おそらく、そうなるでしょう。彼がランドールの言動のどこにヒントを得たのか、それがどのような順序を辿って閃きへと結実したのか……複雑に絡み合っているため、一部だけを例外扱いするのは難しいかと』
「はああぁ~! じゃ、じゃあ、お爺さんの記憶、消せないじゃん!」
たった一人で王立研究院の重要機密に手が届くまでの研究成果を出したんだよ。
そんなの奪ったりなんてしたら、申し訳なさすぎる!
「あ、あの……お爺さん?」
「なんじゃい?」
「私がここで、大ぶりの魔石をいくつも採って来れた秘密、お教えします」
「おぉ、なんじゃい。ありゃ、お前さんだったのか。ガラダがよぉ仕入れてきてくれるもんじゃから、有能な冒険者が町に来たもんじゃとは思っとったが」
「その……代わりと言っては何ですが、ここで見たことは黙っていてはもらえないでしょうか。この力を狙った悪漢に、襲われてしまう恐れがあるので」
「おお、ええよええよ。そんぐらいは。別に、魔石の採り方を聞かんでも、黙っといてやるわい。じゃが、本当にええんか? ……せっかく有名になれるチャンスじゃっちゅうんに」
む、何やら危険な香りがする。
「いやぁ、はは……。ちなみにお爺さん、お酒は?」
「見たらわかるじゃろ。ドワーフじゃぞ、わし。飲むに決まっとろうが」
あ、ダメだ。
この手のタイプは、酔うと口を滑らすタイプと見た。
はぁ、せっかくいい町だったけど、ここともおさらばかなぁ。
「だから言ったでしょ?」
アイシャちゃんが私に肩ポンして、薄い胸をそらした。
全部お見通しだったらしい。
ってか、いつからそこにいたのよ、あなた。
「い、いや。私は平穏無事な暮らしを守ってみせるよ。……ただ、この町とはお別れかもね」
「いいところだったのになぁ。ロホロ鳥おいしいし」
そう言うなって。
「あの……それで結局、私はどうなるんでしょう?」
ランドール・ミニが揉み手しながら聞いてきた。
仕方ない。
「あんたは不問。こっちから押しかけたわけだし。イワカゲスライム狩りは解禁させてもらうけど」
「あ、ありがとうございます……!」
「モグ竜。あんたも残念だったね。まぁ、勘違いして迷惑かけたってことで、こっちに来て握手しな」
「むぅ。仕方ないのぅっ」
私はランドールとルヴルフの手を強引に繋がせ……ぴかっ。
二人とも一気に記憶を改ざんした。
これで、ランドールはモグ竜にやられたと思うし、モグ竜も勘違いに気づいて平和的に解決したと思うはずだ。
「さーって。次の町、どうすっかなー?」
私は伸びをしながら、誰にともなく呟いた。
◇引き続き、ご相談中です。現在、今作の書籍化に向けて企画進行中です。
私自身あまり詳しくないものでお願いなのですが、感想や割烹などで、お好きなイラストレーターさんを教えてもらえると嬉しいです!
編集者さんにも提案してみますので!(通るかどうかは分からない)
クイズの時みたいに回答者ゼロだと今日のまくらが涙で濡れます。




