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シュナ、と魔王ルヴルフ

「あんたが……魔王ルヴルフ?!」


 私は目を見張った。

 だって、そこにいたのはどう見ても……


「モグラ?」


「ちゃうわい、ボケ~!」


 でっかいモグラから鋭いツッコミが入る。

 ずんぐりした体型、長くとがった鼻、耳はどこにも見当たらない……と思ったら耳の位置に穴が開いているのが見えた。

 頭に申し訳程度に角が二本生えている。


「なんてことじゃ、ここは魔王ルヴルフの巣穴じゃったのか!」


 ドワーフのお爺さんが驚愕におののいている。

 でも……


「ねぇ、モグラだよ?」


「ちゃうわい、こらぁ!」


 きんきん高い声で喚くモグラ。

 その両手に生える爪は鋭利で、確かにあの巨大さなら竜でも倒せそう。


「良いか。われをモグラなどという低俗な獣と一緒にするでないぞっ。これでもわれは竜の血に連なる存在なのじゃっ」


「え、竜って。……あはははは! 鱗とか生えてないじゃん。分かる分かる、憧れなんだよね、竜。かっこいいもんね」


「ちーーがーーうっ! 鱗じゃなくて毛が生えてるタイプの竜もいるのじゃ! われは竜なの! 地竜っ! ここから西の地ではベヘモットなどとも呼ばれ、恐れられておるのじゃぞ!?」


 偉そうにふんぞり返るが、見た目がモグラだけに笑える絵面にしかならない。

 思わず笑いをこらえていたら、お爺さんがゴクリと唾を飲んだ。


「なんと……魔王ルヴルフは竜じゃったのか。よもやそんな恐ろしい化け物がロロナッドの近くに潜んでいようとは……!」


 一人だけシリアスしてる。

 真面目だなぁ。


 せっかくなので、私はこの間から思っていたことを聞いた。


「ねぇ、何で魔王って名乗ってるの? 魔王なんて魔物の親玉のことでしょ。でもあなた、失礼だけど、部下とかいないみたいじゃない」


「かーっ。そなた何も分かっておらんな。魔王とは、ダンジョンの支配者のことを言うのじゃ。すべての魔王はダンジョンを持っておる。国一つ、大陸一つを所有するような七災王なんて化け物もおるがな。あれらもみぃ~んなダンジョンじゃ」


「えっ! そ、そうだったの?」


 衝撃である。

 魔王というのはどこかの城に偉そうにふんぞり返って、人間の国を攻め滅ぼす算段を部下としているような存在だと思っていた。


「もしかして、常識だった?」


「わしも初めて聞いたわい」


 お爺さんもぼやく。

 なんだよ、私だけじゃないんじゃん。


「私は知ってた」


 アイシャちゃんが得意げにふふんとした。


「ダンジョンの精髄を食えば、強大な力と共にダンジョンの利権が手に入る! それゆえ、われはロロナッドのダンジョンをずっと狙っておったのじゃ! いずれは魔王になるのじゃから、最初から名乗っていても悪くはなかろう?」


「へぇ~。そういうことか。じゃ、このダンジョンにも魔王はいるの?」


「おるじゃろうな。もっともこの程度のシケたダンジョンの魔王ならば、われでも容易く倒せるほどじゃろうが。ダンジョンとは、魔物に対して絶対不可侵の結界でもあるのじゃ。ダンジョンの中で生まれた魔物しか、出入りが出来ん。われもここまで穴を掘ってきたはいいが、最後の壁一枚がどうしても崩せずに困っておったのじゃがのぅ~……そちらから壊してくれて、助かったぞ!」


「なにっ」


 ルヴルフの話に、お爺さんが反応した。


「ならば、お前は町の南からここまで穴を掘ってきたっちゅうんか!? 何てことしやがる! 町の地盤がゆるゆるになっちまうじゃろうが!」


「安心せい! そうならぬよう、見ろ! この自慢のホールを。こうやって空間を柱とレンガで補強しながら掘り進めてきたゆえ、町が陥没するなどという恐れはあるまいぞ! おかげでここまで掘り進めるのに十年もかかってしまったがな!」


 わはははは、とモグラはきんきん声で高笑いする。

 ダンジョンに空いた穴から奥を覗いたら、どこの大聖堂かというぐらい美しい装飾が施された大ホールになっていた。

 律儀なモグラだ……。


「こりゃあ、見事なもんじゃ……」


「やるじゃん、モグ竜!」


「ふふん……。モグは余計じゃ、モグは」


 とか言いつつ、ちょっと嬉しそうに鼻をひくひくさせているモグ竜。

 なんか、可愛く見えてきた。


「ね、じゃ、モグ竜はこれからこのダンジョンの魔王を倒しに向かうの?」


「そうなるのぅ……。苦節十年、ついにわれの苦労が報われる時が来たのじゃっ」


「そんなにすごいの? ダンジョンの精髄って」


「ふふん。貴様は何も知らないやつじゃのう。魔王を倒してダンジョンの精髄を奪えれば、このダンジョンが今度は我が身を守る盾となるのじゃっ! 無敵の結界に守られておれば……たとえ、姉上に見つかっても、怖くはないのじゃっ」


「……お姉さん、怖いの?」


 ルヴルフはしばらくもじもじしていたが、やがて「すごい怖い……」と呟いた。

 私に兄弟はいなかったけど、田舎じゃ、兄弟げんかはしょっちゅうだったしな。

 モグラ……じゃなかった、地竜の世界でも、色々あるんだろう。


「お母さんは、けんかを止めてくれたりしないの?」


「なっ! はははは母上か!? 母上がいかがした!? ままままさか、近くまで来ておるというのか!? どこじゃ、母上は!? こ、こうしちゃおれん。一刻も早く穴を掘って逃げなければ……」


「あ、ごめんごめん。お母さんが来たっていうんじゃなくて。お姉ちゃんとの仲を取り持ったりはしてくれないの? ってこと」


「なんじゃ……驚かすでないっ」


 怖いんだな、モグ竜のお母さん……。

 なんだか、憎めないやつ。

 アイシャちゃんは町の人を困らせているルヴルフを倒して名を上げよう、なんて言ってたけど、こんなやつ倒せないよね。


「ねぇ、魔王を倒すの、ついて行ってもいい? なんなら、手伝ってあげるし」


 そんな提案をしたのは、単純な興味からだ。

 ダンジョンの支配者たる魔王や、ダンジョンの精髄など、実際にこの目で見てみたい。

 すると、モグ竜が怪訝そうな顔をした。

 いや、モグラの表情なんて分かんないけど、そんな雰囲気がした。


「な、なんじゃっ? 何が狙いじゃ?」


「別に何も狙いなんてないよ。……しいて言うなら、この町の人ね、今ルヴルフが縄張りにしているあたりまで、町を広げたいらしいんだ。もし、このダンジョンが手に入ったら、ルヴルフはあの平野はもう用はないんでしょ?」


「うむ……それは、そうじゃが」


「あのあたり、きっとルヴルフが耕してくれているせいだと思うんだけど、農地として最適らしいのよ。だから、さ。モグ竜は魔王を倒してダンジョンを手に入れられるし、私たちは町を広げられるし、利害の一致ってわけ」


「ふむ……われ一人でも倒せると思うが……」


 モグ竜はしばらく考えていた。

 そして、


「まぁ、よかろうっ!」


 こうして、私たちは変なモグラと一緒に魔王を倒しに向かうことになった。

◇ということで、クイズの答えは『モグラ』でした。

まぁ、回答者は一人もいなかったんですけどね……。悲しい。

ドイツ語でモグラを意味するMaulwurfマオルヴルフから来ています。

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