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シュナ、アイシャを愛でる

(※再び、クリシュナ視点です)


 私は笑いが止まらなかった。


「うっほほほほ! 大漁大漁。ミラ、次はどこっ!?」


『あなたの頭上。右手をそのまま真上にあげた位置です』


「ここかっ! あはははは! 出た出た。お~っ、一匹から六個も!? 最高記録じゃん!」


 いやぁ、こんなに儲かっていいんだろうか。

 もう、一年は豪遊できるだけの蓄えは出来たんだけど。


「……ふ~んだ」


 視界の隅で、アイシャちゃんが剣を振るっているのが見えたけど、何をやってるんだろう?

 もしかして、バウンドエイプを狩ってるのかな。


 あんな、狩っても狩っても魔石屑にしかならない小物……

 あぁ、そっか。バウンドエイプを倒せば、その死骸を食いにイワカゲスライムが出てくるのか?

 何もない状態から探すには、その手があるね。


 もっとも、私にはミラがいるから関係ないんだけど。

 なんて思ってたら、アイシャちゃんが大きな声を出した。


「みっ、見て! シュナちゃん! 私一人でもバウンドエイプを狩れたよ!」


「……えっ?」


「えっ、って、え?」


 え?

 あれ?

 ん?

 アイシャちゃんがわなわな震えながら私を指さした。


「あ~! あ~! もしかしてシュナちゃん、わ、忘れてたでしょぉ~!?」


「い、いや、それは」


「んもう! ここには私の狩りの練習も兼ねて、来ていたんでしょ! もしかして全然見てくれてなかったの!?」


 ぷく~っと、アイシャちゃんのほっぺ膨らんでいく。

 し、しまった。

 金に目がくらんで、つい。


「み、見てなかったわけじゃないよ。何か剣振ってるな~とは思ってたし」


「それは! 見てなかったって! 言うの!」


 アイシャちゃんの言葉はもっともなのであった。

 まずったなぁ。

 すっかり怒ってしまった。


「ごめんよぉ。今日はずっと、アイシャちゃんの訓練付き合うからさ」


「ふ~ん」


「アイシャちゃんってばぁ」


 ほっぺつんつん。


「知らないもん。シュナちゃんなんか」


 ほっぺすりすり。


「私、怒ってるんだからね?! シュナちゃんなんか、嫌いだもん」


 ほっぺすりすり&髪の毛いじりいじり。


「も~っ! 真面目に聞いて!」


「あはははは! ごめんごめん。でも、アイシャちゃんの髪ってほんとに綺麗だよねぇ。しっとり艶があって。くんくん。いー匂い!」


「ほ、褒めたって許してあげないんだから!」


「おでこも、こう……つるん、ってしてて触り心地なめらか~。目なんて大っきくて紅茶みたいに透き通ってて。鼻筋も通ってるから、大きくなったらもっと鼻も高く綺麗になるよ!」


「やめてぇ。は、恥じゅかしい……」


 アイシャちゃん、耳まで赤くなってしまった。

 ペールピンクに染まったほっぺなんて、赤ちゃんみたい。

 また触りたくなってしまう……。


「ちゅちゅかないでぇ」


 怒ってぽかぽか殴ってきた。

 なんなんだろうね、この可愛い生き物は。あはは。


     :

     :

     :


 その夜、宿でアイシャちゃんが「話がある」と言ってきた。

 昼間のことでまた怒られるのかな、と思ってたら、


「私ね、思ったんだけど」


「なになに?」


「シュナちゃんって、欲がないよね?」


 ん?

 分かってないな、お子様。


 欲なんて、あるぞ。

 アイシャちゃんを抱きまくらにしたいという欲が!

 たまに明け方に目を覚ますと毛布に潜ってくるけど、私としては毎日でもいいぐらいだ!


「いや、あるか」


 アイシャちゃんがジト目で私を見る。

 な、バレた?!

 私の欲が。


「あるにはあるけどさ。今日だってイワカゲスライム狩りに、目の色変えて……」


「あ、あぁ~。その欲ね。反省してますです。はい」


「その欲? 何か他に欲があるの?」


「い、いや。ないですないです! なんも!」


 良かった。

“抱きまくら欲”は見透かされてないみたい。

 危ないところだった……。


「う~ん。反省はしなくてもいいんだけどさ。……私思うんだけど、せっかくブロンズソード+999があるんだったら、もっと他に稼ぐ方法だっていっぱいあると思うんだよね」


「ほゎ?」


「イワカゲスライムだってさ。〈魔法発動〉で一気に広範囲を殲滅しちゃえば、後は魔石を拾うだけじゃない」


「えっ」


 そ、それは……確かにその通りだけれども。

 でも、それって、そんなのって……


「なんかズルくない?」


「そんなこと言ったら、剣自体ズルの塊みたいなものだよ? イワカゲスライムだって、なんで今まで狩られずに残っていたかって言ったら、〈不定形特攻〉がついた剣じゃないとダメージを与えられないからでしょ? そんな使い道が限定された効果、よっぽど他の効果が当たりじゃなきゃ売っちゃうもん。みんなはシュナちゃんの〈次元収納〉みたいに、いくらでも装備を持ち運べるわけじゃないし」


「おっしゃる通りです……」


 一度、〈次元収納〉の限界容量を試してみたことがある。

 ただ、湖の水をすっかり吸いつくしてもまだ容量がある的なことをミラが言っていたので、バカバカしくなってそれ以上は試してない。

 ちなみに、水はちゃんと戻しておきました。


「シュナちゃんはさ、もっと上を目指してもいいと思うんだよね!」


 アイシャちゃんが力説を始めた。


「上って、どゆこと?」


「英雄だよ!」


「はぁ?」


 多分、今の私の顔はすっごい間抜け面に違いない。

 顔じゅうの筋肉が緩み切って、変な声が出た。


「シュナちゃんはね、きっと英雄になるよ。お父様にいただいた本に出てくる、女騎士様みたいに」


「えぇ~~~?」


 なんじゃそれは。


「なんじゃそれは」


 思ったことが声に出てしまった。

 英雄だなんて、はは。

 ガラじゃないし。


「シュナちゃん、たった十日かそこらの間に結構すごいことしてるんだよ? ヒンメルズ・リッターを倒したのもそうだし、“オーガの血”から盗賊を救ったことだって……その昔、“オーガの血”を飲んだ兵士が三人送り込まれただけで、一つの都市が一夜にして壊滅したこともあるんだよ。『アタラクトの焔』って知ってる?」


 そういえば田舎にいた頃、昔そんな事件があったっていう話を、近所の婆ちゃんが言ってたような、言ってなかったような。

 でもなぁ。


「いやいやいや。ないよ、ないない。英雄なんてガラじゃないもん」


「ん~、そうかなぁ? 英雄の資質、充分にあると思うんだけどなぁ」


「それにさ。まだ、アイシャちゃんのお父様の仇が、アイシャちゃんを狙っているでしょ? 私も魔戦将軍さんに狙われているし。目立つのは良くないよ」


「逆に利用するんだよ。向こうから手出しできないぐらい有名になってしまえばいいんだって。色んな町の人を助けてさ、みんなから感謝されれば、そのぐらいの問題はどうにでもなっちゃうって」


「そんなうまくいくわけ……」


「だからね! この町では手始めにさ。魔王ルヴルフっていうのを、倒してみようよ。きっと感謝されるし、名前も売れるよ」


 あまりに熱心に話すせいで、つい気圧されてしまった。

 だけど……


「やっぱ、無理無理。目立ちたくないもん。私はこのままでいいんだって。ちょっと楽に魔石が狩れて、たまに美味しいロホロ鳥の料理が食べられれば、それでさ」


 ひらひら手を振って笑い飛ばす。


「でもね?」


 すると、アイシャちゃんが意味深に笑った。


「シュナちゃんにそのつもりがなくても、勝手にそうなっていくと思うよ?」


「はぁ」


 言ってる意味が分からず、またしても間抜け面をさらしてしまった。

 だが……、

 この時の私にはまだ知る由もないことだったが、アイシャちゃんの予言は図らずも的中することになってしまうのである。


◇前回のノリと今回のノリが違いすぎて、高低差で頭キーンなりました。


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