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第8話 神動く。


 ミネルヴァさんの話によると、今日の正午にはサーシャさんの刑が執行されるらしい。


 そして、俺にその事を伝えると同時に、


「私はすぐに教会に抗議をしてきます!」


 と行ってしまった。


 正午って、あと5時間ほどしか時間がないじゃないか!


 どうする?


 どうすればいい!?


 考えろ。

 ―考えろ!

 ――考えろ!!


 ……そうだ!まずテレポートが使えるかどうかだ!


 そう思い【神の座へテレポート発動】と呟く。


 神の座とは、ゲームの時一番多くの時間を過ごした場所であり、ログアウトや土地の整備、種族召喚や、世界の観測などほとんどの機能が集約した場所であった。


 しかし、何も起こらない。


「……テレポートは使えないのか?いや……」


 そう思いなおし、部屋の壁側に立ちもう一つの可能性を試す。


 【テレポート発動】と呟く。


 視界が瞬きをしたように一瞬消え、今まで見ていた映像と違うものに変わった。


「っ!?」


 少しイメージが曖昧だったからなのか、床から20センチ程の高さにテレポートしてしまったらしい。そのままバランスを崩して床に手をつく。


 よし!テレポートが成功した!


 これで一つの仮説が立った。

 テレポートを行うには、一度この体で行った事がある、または、それに準ずるイメージがあるかどうか?なのではないだろうか。


 これも要検証だが、例えば、基本人間は空中に行く事は出来ない。

 でも外で、空を見上げながら空中にテレポートができた場合、イメージによってテレポートの座標が決まっているという事であろう。


 テレポートが使えるなら、サーシャさん救出の可能性が出た。


 そして、もう一つの権能であるアイテムボックスはどうだ!?


 机の上に載っていた本を持ちながら【収納】と念じてみる。

 手に持っていた本が消えた。

 そして頭の中に、ゲーム的なアイテムストレージが浮かび上がってきた。


 うわ~……。なんか変な感じ。


 そのアイテムストレージ内にある本をイメージしながら【排出】と念じてみる。

 するとポンという擬音が聞こえそうな感じで、先程の本が手の中に現れた。


「よし、神の権能三種全部いける!」


 これなら、サーシャさんを助けられる可能性が出てきた!

 とりあえずここ(孤児院)に居ても状況がわからないな……。


 部屋にあった、サーシャさんに渡されたローブを羽織り、自分が召喚された際に入れられていた牢屋をイメージする。


【テレポート発動】




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 先程から、神殿内を探ろうと思っていたんだけど、黒いローブの奴らが牢屋に入る扉の前の廊下をうろうろしていて、牢屋を出た先になかなか行けない。


 ってことで、黒いローブの奴に神の目を使ってみる。


====================

名前  モブオ

種族  人族

役割  なし

職種  異端審問官

位階  55

筋力  379

体力  323

精神  603

知力  204

魔力  270

器用  609

運   24


特技 拷問術6 暗殺5 毒術5 短剣4 闇系魔法4 


モブパパとモブママの間に生まれた長男。今はもうない北の貧しい村出身。

5歳のころまでは貧しいながらも普通に暮らしていた。

しかし、狂った邪神教徒により村が魔獣に襲われる。

自身は奇跡的に助かったが、両親とほとんどの村人は助からなかった。

その後王都のスラム街で、窃盗、強姦、殺人など行いながら20歳まで過ごす。

23歳の時冒険者として暮らしていたが、ルストに拾われ、ウラヌス教会の異端審問官の暗部、ベオマーダの一員になる。

今年30歳で性格は冷酷残忍、戦闘技術も一流である。

現在は、ベオマーダ隊長のルストの命令から、聖女の護衛という名の監禁を行っているうちの一人である。

====================



 ……おい。


 名前の割にはめちゃくちゃ優秀じゃねーか!


 よし分かった!とりあえず俺じゃ相手にならないことだけは理解したよ。

 何せ俺のステータスオール100だからな!

 

 それにしても危なかった。

 俺がここに居るのバレていたら、簡単に殺されていたんじゃね?


 慎重に動いていて良かった!


 とはいえ、フレーバーテキストが見れるのは強みだな。

 過去の事が知れるとかなかなかチートだし、現在の状況までわかるのはグッジョブだ!


 とりあえずベオマーダとかあいつには絶対に近づいてはだめだな。


 牢屋の窓から外を見て、とりあえず外から情報収集するか。

 


 

 ――正午まで後4時間。




 3階ぐらいの高さにある牢屋の窓から、すぐ近くの林を確認し、テレポートを使い林の中にテレポートする。そこから木の陰に隠れ神殿の正門らしきところを窺うと、人だかりができていて揉めているようだった。


 神の目を使い一人一人調べていくが、門番はベオマーダの一員が二人。


 相変わらず不吉な事しか書いてない。

 他の人は、サーシャさんが神の審判の刑に処されることへの、直談判をしに来た人たちだった。


 その中にミネルヴァさんも居たが、埒があかないのか違うところに向かうようだった。


 俺はその後を追い。


「ミネルヴァさん」


 と、後ろから声をかけた。

 するとビクッ!としながらこちらに顔を向け「え?神崎さん?」と少し呆けている。


「ええ、少し話があるのでいいですか?」


「話……ですか?すみませんが時間がないので後にしていただきませんか?」

 

 と強い語調で言われてしまった。


 しかしこちらも、はいわかりました。で済ませるわけにはいかない。


 神の目を発動しながら、あたりを見渡し、人がいないことを確認すると、彼女の二の腕あたりを強引に掴み、牢屋にテレポートをする。

 

「ちょっと!・・っえ?」


 ミネルヴァさんは、自身に何が起きたのかわからず目を白黒させている。


 ふむ、予想どうりで良かった。

 触れていれば他の人も一緒にテレポートは可能か。


「ここは、僕が召喚されたときに入れられていた牢屋ですよ。多少騒いでも問題はないと思いますが、できれば静かにお願いします」


「はい?……どういう事ですか?」


 とりあえず自分はサーシャさんを助けに来たこと、テレポートができる事、多分……この世界で言うところのいわゆる神的な何かであることを伝える。


それにしても神の目便利だなー。敵か味方か疑心暗鬼になる必要がないし、何を思って行動しているかすぐにわかる。 


「そんなわけで、すみませんが僕の方を手伝ってもらいたいんです。ミネルヴァさんにいい案があればお伺いしますが、ないのであればこちらの作戦をまず聞いていただけませんか?」

 

「確かに……今から私に出来ることは、大司教に直談判する事だけでした。まあ異端審問官が出張っている以上、会うこともままならないでしょう」


 そして、ミネルヴァさんは「わかりました」と頷くのであった。


「あれ?僕の言ってること信じてくれました?」


「神のくだりに関しては、正直あまり……ただ、ここに一瞬で移動できたことは間違いないので、私より、サーシャを助けれる可能性が高いのは間違いないと思ったので。」


「確かにそうですね。……時間が無いので手短に説明しますが僕の作戦はこうです」




 ――正午まであと3時間。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 俺は今、火口の中が窺える岩と岩の隙間に隠れている。


 先程サーシャさんを連れた一行が、すぐ近くの礼拝堂に到着した。

 サーシャさんと思われる人は、白いローブを羽織り顔が見えないようにフードですっぽりと隠されていた。


 

 大丈夫だ何度か練習したし、問題はないはずだ。


 さっきから心臓がバクバクいっている。

 手先も震え、足元もおぼつかない。

 呼吸も上がっているのが分かる。


 くそっ!


 落ち着け、落ち着け、落ち着け!


 そう思えば思うほど、テンパってくる。

 

 ちくしょう!

 


 すると、礼拝堂から人がぞろぞろと出てきた。

 先程とは違い、フードを外したサーシャさんがそこには居た。



 サーシャさんは泣き叫ぶでもなく、凛とした姿で空を見つめていた。


 

 俺は、その姿にただただ見惚れてしまった。



 もちろん顔色は悪いし、前に会った時より痩せている感じがする。


 でも、気が付いたら自分の手足の震えは収まっていた。


 失敗は出来ないし、場合によっては火口に自分が落ちる可能性もある。

 

 もちろん緊張はしている。


 でも、さっきまでのテンパっているのとは違い、この緊張は悪くない!

 中二病みたいな全能感ではないけど、成功のイメージしか思い浮かばない!

 アドレナリンが脳内を駆け回っている感じだ!


 するとゴージャス大司教が何かを言っている、何かの儀式であるのだろう。

 まあここからでは聞き取れないのだけど。


 それが終わったのか、サーシャさんが火口の真ん中に伸びる橋を、手すりをつかみながら歩き始める。一歩一歩、確かな足取りで進む、途中から目を瞑るが足取りは変わらずに進む。


 最悪、ミネルヴァさんが失敗しても逃げきる自信はある。


 後はやるだけだ!!


 後一歩っというところで、サーシャさんの口が動いた気がする、そしてそのまま一歩を踏み出す。


 ――ツッ!


 空中に投げ出された彼女は、悲鳴も上げず落ちていく!!


 

 その時、パッンッッッ!!と大きな音が鳴る!


 今だ!!


 音が鳴ることを知っていた俺以外、ここに居る全員が音が鳴った事に反応する。

 反射的に鳴った方を見る者。

 もしくはびっくりして目を瞑る者。


 俺はそんな中、ただ夢中にテレポートを行い、彼女の下に行く!


 彼女を下から左手で抱きしめ、右手で予め準備していた身代わり人形をアイテムボックスから排出し、すぐさまテレポートを行い孤児院に逃げる!




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 あれから、結構な時間がたった。

 外はもう暗く、8時間位経ったのかな?


 サーシャさんは、ベッドの上で安らかな寝息を立てている。

 多分、昨日寝れてなかったのだろう。


 すると、バタバタと足音が聞こえる。

 一応すぐに逃げれるよう、サーシャさんの肩に手を置き構えておく。


 ドアがバンッ!と開き、そこにはハァハァと肩で息をするミネルヴァさんがいた。


「サーシャは、大丈夫ですか!?」


「問題ないと思います。でも一応診てもらっていいですか?」


 神の目を使って見たが、特に問題はないと思う。

 ただこの力が完璧かどうかわからないので、彼女にも診てもらった方がいいだろう。


 ミネルヴァさんはスキャンと言いながらサーシャさんを観ている。

 ふむ、そんな魔法もあるのか。


「……大丈夫そうですね。はあ良かった」


 今までずっと気を張っていたのか、やっとミネルヴァさんの顔に笑みがこぼれる。


「で、教会の奴らはサーシャさんが生きていることはバレてないですか?」


「……そうですね。いきなりの大きな音があったので、少しピリピリしていましたが、アーティファクトによる聖女の反応がなかったので、聖女サーシャは死んだと明日にでも発表されるそうですよ」


 ふぅ。


 それは良かった。ならこちらも一安心だ。


 俺は、ここにテレポートで戻って来てすぐに、神の目を発動しながらサーシャさんに与えられた役割”聖女”を解除した。


 簡単に解除できたからよかったよ、出来なかったら一生テレポート逃亡生活に陥っていただろう。


 そんなことを話していると、


「う……ん?」


 もぞもぞと、サーシャさんが起き上がる。

 少しよだれが垂れてる、うむ。これはギャップ萌えだな。


「お、サーシャさん具合はどう?」


「サーシャ!あなた大丈夫?」


 そう言いながらミネルヴァさんは、サーシャさんに抱き着き、ついに我慢できなくなったのか、ヒックヒックと泣きながら名前を呼んでいた。


 サーシャさんは目を白黒させながら彼女の背中をさすっていたが、だんだん頭がすっきりしたのか、自分の最後の記憶を思い出したのか、びっくりしながら、


「あれ?私、死んだんじゃないんですか!?」

 

 と言った。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 そして私こと神崎徹は、今サーシャさんが立っている前で、正座をしながら両手を床につき、頭を床に擦り付けている最中でございます。


 はい、いわゆる土下座さんでございます。


 いや、何度も言うけど俺の所為かどうか問われると違うと思うんだけど、実際彼女に聖女を任命した事を考えると、俺の責任もなくはないかなと思いまして……。


 先程、何があったのかを説明して、多分自分がこの世界の神らしきものであることもお話しました。


 そして、その話が終わると同時に、ジャンピング土下座に移行した次第です。


「えっと……、それはなんですか?」


「こ、こちらはですね、土下座と言いまして、私がいたところの最上級の謝罪の形でございます。」


 ミネルヴァさんは、俺とサーシャさんのやり取りを見ながら、えっと、あのってアワアワしている。


「……神崎さんは、何か悪いことをしたんですか?」


「いえ、僕自身は何かしたつもりはないのですが、僕の行いの結果がアレれでして。その罪悪感が半端なくてですね……」


「よく、わかりませんが……。そうですか。では、その罪悪感がなくなるように罰を与えます」


「はい!そうしていただけると助かります」


「気にしなくていいですよ。では、これでおあいこです」


 そう言いながらサーシャさんは、目の前で靴を脱いだ。

 ん?どうすんのその足で……?と思いながらそのおみ足を目で追いかけていくと。


 そのまま足をあげ、ふにっと俺の頭部を踏んだ。


 もう一度言おう、俺の頭部を踏んだ!


 えええええ!?


 俺この世界で神じゃないの!?

 こんなバカなことある!?


 ……いやいや確かに、罰をくれと言ったけどさ、一応命の恩人でもあるんだよ!


 みんなよく考えてみろよ!!


 すごい美人の元聖女である、日本で言うところの17歳だから女子高生?……女子高生か。その子が黒いハイソックスで、土下座しているおっさんの頭を踏んでるんだぞ!


 


 ――――間違いないな……ご褒美だ。

 いや!待て!俺にそんな性癖はない!


 おいバカ野郎!足で俺の頭をさするなやっ!


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