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第7話 死の恐怖


 私の名はサーシャ・ウラヌスと申します。


 もともと私は、ウラヌス教の総本山がある都市、ロムルスの孤児院に、生後半年ほどで預けられた孤児でした。


 孤児院に母親らしき人物がが預けた……いえ、置いていったという方が正しいのでしょう。


 何故なら、夜中にシスターミネルヴァが見回りをしていたところ、正門の扉近くに、バスケットに入れられた私を見つけたそうです。その中にはペンダントと手紙が一緒に入っていたそうです。


 手紙には、

 この子の名前はサーシャです。

 故合って、これから私は、遠い所に行かなければなりません。

 その為、この子を育てる事が困難なためここに置いて行く事をお許しください。

 私は、たぶんここに戻って来れる事もないでしょう。

 この子をよろしくお願いします。


 と書かれていました。


 その手紙も5歳の時にシスターミネルヴァから貰いました。

 すごく急いでいたみたいで、走り書きの様なものでした。


 

 そして12歳……私にとって運命の日がやってきます。



 その日は、弟分や妹分を連れて、近くの農家に行き、作物の収穫の手伝いに行ってました。

 私たちがいた孤児院では、食べていくので精一杯で、子どもたちは何らかの仕事や手伝いをしていました。

 収穫が一段落終え、みんなが先に帰ったころ、私は一人頼まれていた道具の整備をしていました。


 道具の整備が終わり、帰路につこうとした時、目の前に見たことのないような綺麗なローブを羽織った人が居ました。

 その人は、目が隠れるくらいまでローブを被り、顔はよく分かりませんでした。

 しかし、私の方を見ているようでした。


 その人がいつから居たのか、いつ近くまで来たのかわかりませんでした。

 ですが、怖いとか不気味といった感情はなく、何となく目を奪われていました。


 その人は「お前が聖女になるのだ。異論はあるか?」と聞いてきました。


 私はその心地よい声を聴きながら(あるわけがない!)と思いました。


 するとその人は「そうか」と呟きました。


 と同時に、周りの景色が止まったような感覚になり、きらきらとした小さな粒みたいなものが、体の中に入ってきました。


 すると体の中から力が溢れてくる気がしたのです。

 すごい!と思っていると風が吹き、咄嗟に目を瞑ってしまいました。

 気が付くと、そこにいた不思議な人はもう居なかったのです。


 少しの間呆けていた私ですが、夢でも見たのかな?と思いながら孤児院に帰りました。


 そして皆で晩御飯を食べている時、来客があり、シスターミネルヴァが席を立ちました。


 そして戻って着た時には、すごいゴージャスなローブを羽織った男の人と、数人の兵士っぽい人と神官さんを連れていました。


 そしてゴージャスなローブを着た人が、私の前まで来て膝をつき一言。


 「お迎えに参りました。聖女様」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 


 あれから私は、ただのサーシャではなく、サーシャ・ウラヌスになりました。


 教会が言うには、聖女は主神ウラヌスの所有物でなければならない。

 家族や伴侶を持つことは神の意に背くことである。


 ただし、この世界でただ一人ウラヌスの名を使うことが許される者でもある……と。


 


 それから1年程は、ウラヌス教会の教義や神聖魔術の勉強に費やされました。


 神に与えられた聖女の役割は凄まじく、聖女になるだけで、神聖魔術の潜在能力が最高まで上がり、いくつもの神聖魔術をその時点で使えるようになりました。

 また他にも風系魔法や水系魔法の適正も増え、潜在能力的にも一級品になるそうです。


 また聖女は、ウラヌス教会での地位もすごく高く、一番上が聖教皇、次に司教聖枢機卿、そして大司教と続いていきますが、聖女の地位的には司教聖枢機卿と並ぶ位置にいます。


 しかし、聖女は神の所有物であるから、そういった俗物的な権力に染まってはならず、基本権力から遠ざけられています。


 ただ、私は聖女の役割をこなすにあたり、いくつかの条件を出しました。


 一つ、私がいた孤児院から聖女が任命されたことを、できる限り広める事。

 一つ、私の恩人であるシスターミネルヴァの階級をできるだけ上げる事。

 一つ、私の神聖魔術の力を行使する要件に、お金や権力を入れない事。


 最初の二つは、孤児院のみんながお腹いっぱいにご飯が食べられるように。

 また少しでも将来のためになるような、勉強であったり、仕事のことであったりを学べるようにするためでした。


 何故なら、スラムに近い孤児院は、一般人にとって警戒の対象であり、簡単には手を差し伸べたりしてくれません。


 ですので、聖女が育った孤児院として箔を付けることにより、少しでも周りの人から警戒心を取り除きたかったのです。


 おかげさまで、ウラヌス教会の信徒から、今まででは考えられないほどの額の、寄付金やお布施が届くようになりました。


 そしてシスターミネルヴァの階級が上がったことで、周りに対する信頼度も増し、孤児院の環境改善が上手くいったそうです。


 最後の条件は、聖女の神聖魔術、回復能力は桁違いに高く、重症な怪我でも病気でも癒すことができます。

 その為、お布施をもらわないとケガや病気を治さないというような事をしたくなかったのです。


 スラムの住人であろうと、孤児院の者であろうと、貧しい村の人であろうと、貴族であろうと、王族であろうと、私は平等に行うと言いました。


 すると、意外にもこの要望もすんなり通りました。


 ただ大司教様の一人にお金儲けのためにはしないが、うちの教会で働いているシスターや神官、教会関係者は霞を食べて生活できるわけではない。色々なところからの寄付や、聖女に来てもらう時のお布施などで、教会は成り立っている。だから、極端な金儲けはしないが、ある程度の事は容認してくれ」と言われました。


 ああ私は、まだ子どもなんだなと思いました。


 

 それから3年程は、色々な国に出向き、スラムや孤児院、貴族や王族の集まる所や、辺境都市などまわりながら、聖女の力をいかんなく発揮できたと思います。



 そして半年ほど前、教会総本山に私は呼ばれたのです。


 

 神をこの世に呼ぶための、召喚の儀式を行うために……。


 

 ついにこの時が来ました。



 想定していたより早かったですが、詮無きことでしょう。


 とはいえ、すぐに如何こうすると言う訳ではないそうです。

 これから召喚術の最終確認と、私の魔力を魔方陣に馴染ませたりなど、まだまだやることは多いそうです。


 私は、聖女になってから最初の1年、教会での勉強のさなか、先々代の聖女の事を調べていました。

 何故なら、この方はシスターミネルヴァの友達だったらしく、話を聞いていたからです。


 教会にとって聖女がどういったものなのか、召喚の儀の事の顛末など知っていた私は、教会の書庫に良く出入りし、シスターミネルヴァからの情報をさらに補完していったのです。


 召喚の儀が行われた場合、成功の確率は非常に低く、失敗した時は聖女の所為にされる事。

 召喚した人も同時に刑に処される事。


 

 ……だから最低限、召喚した人だけでも助かるように準備しないと。


 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 

 召喚の儀が終わってから、軟禁状態ですが、不自由することなく過ごせています。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 

 それから数日が過ぎました。


 

 ……最低限、1年程の期間があるはずでした。


 ……明日の正午、神の審判が行われるそうです……。


 ……この日が来ることを覚悟していたはずなのに、一人、部屋のベッドに居ると、恐怖から手先は震え涙が止まりません。



 ――私が何をしたの?


 ――私が何か悪いことをした!?


 ――なぜ?


 ――なんで?


 ――まだ死にたくない……。


 ――死にたくないよ……。



 その日は、外が明るくなるまで寝れませんでした。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 



 数時間の睡眠をとり、いつもの朝食をとります。


 しかし、いつも顔を見せる食堂のおばさんや、神殿を警備している方、同期のシスターなどが、どこにもおらず、代わりに居るのは、異端審問官の黒いローブを着た不吉な人たちでした。


(あーやっぱり、これは現実なんだ……。)


 朝食をほとんど残し、身支度を整えます。


 先程から、異端審問官が数人、私を監視しているようです。


 一応、私はまだ聖女なんですけどね……。

 男の人に着替を見られるとは……。




 クリュチェフスカヤ山の中腹にある神殿から、徒歩で山頂へ向かいます。


 といっても、ウラヌス教徒であれば聖地巡礼として、登った事がある人は多いでしょう。

 私も何度も登りました。


 全員で20人ぐらいの集団でしょうか。

 私は黒いローブを羽織った異端審問官の暗部部隊、ベオマーダに付き従いながら、両手首にはめられた鉄の輪を見つつ足を動かします。

 

 そのまま山頂にコレといった出来事もなく着きました。

 正午まで後一時間ほどでしょうか。


 ……昨日の夜に比べて、落ち着きを取り戻しました。


 ただ、諦めたともいいますが。


 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 

 

 私は貴方様に恩返しは出来ましたか?


 私は聖女に任命されていなかったら、きっと私はスラム近くの歓楽街で、体を売る仕事についていたことでしょう。


 孤児院の出身者としては別段珍しいことではなく、男は傭兵や冒険者、女は歓楽街と相場が決まっていました。


 私は貴方様に、聖女と任命されたことにより、この年まで無事に生きてこられました。


 スラムに落ちて生きていく可能性や、体を売る仕事に就くこともなく、私の力を必要とする方々の役にたちながら輝いていた人生を送れたと思います。


 孤児院のみんなもお腹いっぱい食べられ、未来が明るくなったと思います。


 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 

 クリュチェフスカヤ山の山頂の火口付近は、有毒なガスが立ち込めていますが、神聖魔術による結界によって、毒ガスが結界内の中に入ることはありません。


 そんな火口には、一つの橋が火口真ん中まで伸びています。


 

 私は、その橋を歩きながら姿の見えない主神に問います。



 私が生きた意味はありましたか?



 私の存在は、貴方様のお役に、少しでも、ほんの少しでも立ちましたか?



 私の聖女としての行いは、間違っていませんでしたか?

 

 

 ……私は今から、貴方様の元に向かいます。



 ですので、その時にそれだけでもお聞かせ願えますか?



『神の御心のままに』そう、心の中で呟きながら、一歩踏み出す。



 踏み出した先はに橋はもうなく、そのまま火口に私は落ちていく。


 落ちていく中、ふと、私の縁で呼んでしまった人を思い出す。


 ああそういえば、あの方は、無事でしょうか?多分大丈夫なはずですが……。


 

 私の代わりに幸せに生きてくださいね。


 そんなことを思いながら、意識が遠のくのであった。




次話は今日中に仕上げて投稿します。

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