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第5話 遊んでいたゲームの名前は!


 壁には絵画が掛けられ棚の上には高そうな壺が置いてある。

 テーブルや椅子などの調度品も、見る人が見れば一級品であることがわかる。


 その部屋は、教会の中でも限られた人間しか入室できず、また知る人も少ないそんな部屋であった。


「で、聖女はあの男を逃がしたのか?」


 召喚の儀式を行うことを決めた張本人であり、また神崎を牢屋にぶち込んだ、通称ゴージャス大司教その人である。

 

「はい。予定通りに」


 それに答えるのは、黒のローブを身にまとい、ニヤけた表情をした、神崎を牢屋に連れて行った片方の男であるルストであった。


 昼間とは違い、目だけはギラギラとした冷酷そうな顔だった。


「ふむ。今回の儀式で私の悲願は達成されなかったが、まあそれはいいだろう。他にも方法はある」


 ソファに腰掛け、ワインらしきものを飲みながらそんなことを言った。


「ただ問題は、儀式が失敗したことにより、他の派閥の馬鹿共が騒ぐことだ。……まあ普通なら儀式の失敗の責任を取らなければならんが、聖女の所為にすればなんとかなるだう。しかしそれでも、ある程度は大人しくしていなければならんか……」


 まあ大事の前の小事だ、とククッと喉を鳴らしながら、グラスを傾ける。


「聖女を拘束する必要は?」


 ニタニタ笑みを浮かべながら、黒いローブを着た男が聞く。


「構わん、アレは自分の立場と状況が分かっている。逃げればお前たち異端審問官が追って来ることも、逃げきれないことも悟っている。洗脳はできなかったが、まあ聡いやつだよ」


 必要ない。と手を振り応える。


「で、逃げた男の居場所も予定通りか?」


「ええ、一応部下に何かあれば知らせるよう数人、例の孤児院に置いています」


「そうか。まあ、聖女が逃げるとは思わんが……、一応保険として監視の手は緩めるなよ」


「了解です。にしても聖女を殺して教会的にはいいんですかい?」


 フッ、と鼻で笑いながら。


「所詮聖女など道具に過ぎん、死ねば新しい聖女が任命されるだけだ。聖女を神の審判の刑に処しても、神は教会に何も言ってこないから問題ない。まあ神にとって我々人間などどうでもいいんだろう」


 自嘲気味に笑いながらそんなことを言った。


 そして「もう下がってよい」と言われたルストは、はっ、と言いながら部屋を出ていく。


 大司教は窓の外を眺めながら、


「神よ。そこで胡坐をかいているのも終わりだ。この私が、お前に成り代わって、この世界を清浄してやろう」


 大司教の目は憤怒に彩られ、その目は淡い緑色の球体を映しだしていた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 あれから数日ベッドの上でゴロゴロしながら考えていた。


 といっても働からざるもの食うべからずの精神で、子どもたちの食事の手伝いや、ミネルヴァさんの小間使いなど、それなりに動いてはいたが。


 ミネルヴァさん曰く、サーシャさんの刑が執行されるのは、今日明日というわけではなく、ある程度期間があるらしい。


 この世界の人間の中で広まっている宗教の中で、ウラヌス教は最大らしく、少なくない国で国教にもなってるらしい。


 そりゃあ、神に任命された聖女を囲っているから当たり前っちゃ当たり前だが……。


 そのため、聖女を簡単に処刑するわけにもいかず、仮にも世界に一人しかいない聖女を刑に処すわけだから、各国に説明しなければならないし、教会関係者にも通達しなければならない。


 また国によっては聖女を守るよう動くと明言しているところもあるらしい。

 そういった事情から一定の手続きをしないと、暴動が起きる可能性もあるとのこと。

 そんなに面倒なら刑に処さなければいいのに……と思うんだが。


 というわけでミネルヴァさんは、各国に働きかけ、なんとか刑の執行を止めると言っていた。


 安心した。


 一日……もとい、数時間ぐらいしか一緒に居なかったし、元々の知り合いではないにしろ、知っている人が殺されることは辛い。逃がしてくれた命の恩人が助かるなら助かってもらいたい。


 まあとりあえず、サーシャさんがそう簡単に処刑されないとわかったので、自分のこれからの事を考えようと思う。


 これからどうするかのか?それを考えるにしても、圧倒的に情報が足りない。

 とりあえず、寝ても覚めても日本の自分の家には帰れないらしい。


 そんなわけで今、ロムルスの街を歩いている。


 孤児院のある場所から北に向かうと、図書館があるらしく、教会関係者だと無料で中に入って読むことが可能らしい。


 ミネルヴァさんからローブを渡され、ある意味教会関係者だから大丈夫ですよ。

 と地図を渡され一人で向かっているところだ。


 まあ、今ミネルヴァさんは忙しいからしょうがないんだけどね。


 町中を歩いていて思うのは、それほど治安が悪い感じがしないことだろう。


 ただ聞いた話によると、この世界、魔物は居るは、魔王は居るは、ドラゴンは居るは、エルフ・ドワーフ・獣人ももれなくついてくるし、神は居るし、レベル的なものもあるし、魔法もあるというトリプル役満のファンタジーな世界らしい。


 ただ不思議なのが、言葉が日本語なんだよね……。

 本も見させてもらったんだけど、漢字、ひらがな、カタカナで書かれてた……。


 いや、俺も結構経ってから気づいたんだけど、しゃべってても全然違和感ないし、気づくのが遅れたよね。


 普通、異世界に跳ばされたなら、言葉が分からない、又は、神様がチート能力で何とかなる。とかそういったのがある訳じゃん?

 そうじゃなくて、普通に日本語って……やっぱりリアルすぎる仮想現実なのかなー。


 そんなことを考えながら歩いていると、ロムルス第二図書館って書いてある建物が見えた。

 そのまま中に入り、受付らしきところで説明を受ける。

 貸し出しには教会関係者でもお金がかかるらしいけど、中で読むだけならタダとのこと。

 

 さて調べますかー!




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 冷汗が止まらない……。


 いろんな本を適当に斜め読みしまくっていた。

 すると、一つの神話が目に入り既視感を覚え、少し集中して読んでみた……。

 


『昔々、この世界は神と邪神しかいなかった。その二つの神は何度も争い、その果てに神は邪神を地下深くに封じることができた。そして神は、荒れ果てた地上を豊かにし、数々の生物をこの世界に生み出し、理想郷を造る事を目指した。その理想郷の名をアルカディアという』


 そんな馬鹿な!

 と、その後も歴史書を読みふけった。


 数々の神話にも登場する、神に最初に生み出された竜メフィルナーガ。その後、神に竜王と任命された。


 その後もこの世界では、吸血鬼やゴブリン、オーガ、ベヒモス、ドラゴン、ワーム等多種多様な魔獣や魔物が神によって生み出されていった。

 のちに鬼族の姫、桜ノ刃鬼が人族の天敵として神に魔王と任命された。

 その後もエルフと獣人とドワーフが神により生み出され、最後に人が生み出されたらしい。


 いろいろな歴史書、神話に共通して書かれている事を総合すると、大体こんなことが書かれていた。


 

 ……うん、そういえばメフィルナーガに土下座したことあるな……。


 「邪神が封印破っちゃったから、あいつ何とかしてちょ」って言ったら、怒らしちゃって大変だったな……。


 

 仮想現実のゲーム内だったけど。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 


 仮想現実完全没入型のゲームと言ってもいろんな種類がある。

 

 まあ人気なのはVRMMORPGというジャンルなんだけれど、あれは、それなりに時間が取れる人じゃないとキツイから、俺はやっていなかった。


 そのかわりにハマったのが『アルカディア』である。


 昔のゲームで言うところのマイ〇クラフトとシム〇ティを足してRPGと異世界を足して割ったようなゲームである。


 基本はボッチ仕様で、異世界であるアルカディアを自分の理想郷にするのが目的のゲームだ。


 面白いのが完全没入型のくせに、基本、神の座という部屋で独り寂しく、異世界の動向を見守りながら、山作ったり海作ったり町作ったり竜作ったりエルフ作ったり魔王作ったりするゲームである。


 端折りすぎだな。


 まず、ゲームを始めるとダイナミックな映像とともにコレが流れる。

『昔々、この世界は神と邪神しかいなかった。その二つの神は何度も争い、その果てに神は邪神を地下深くに封じることができた。そして神は、荒れ果てた地上を豊かにし、数々の生物をこの世界に生み出し、理想郷を造る事を目指した。その理想郷の名をアルカディアという。』


 なっ!見たことあるだろ?


 んで、竜王を召喚し名前を付ける。俺はメフィルナーガと名付けた。


 そのまま各所の使い方や、このゲームの目的などを教えられ、チュートリアルが始まって操作を覚えていく。

 チュートリアルが終わるころには、第2世代の魔物や魔獣が召喚可能になり、ポコポコ召喚した記憶がある。


 このゲームは簡単に言うと、いろんな種族を生み出し、共存させ、異世界に住んでいる者たちの満足度を上げていくというか、維持していくというか……。まあ、長く繁栄させることを目的としたゲームである。

 

 その満足度が一定以下になると、種族間の戦争が起きたり、土地の穢れ度が上がって、邪神の一族じゃないと住めないような土地になったり、邪神一族が、邪神の封印が解いて異世界が滅ぶエンドに直行したりする。


 最初の方は、竜王と魔物や魔獣を争わせないように、土地の穢れに気を付けていれば、ゲーム内時間1000年ほど経過で、第3世代であるエルフ、獣人、ドワーフが召喚可能になる。


 第3世代を呼ぶ前までに、山作ったり、森林作ったり、湖や海の整備をちゃんとしていれば、第3世代を召喚してもそれほど問題はない。


 ただ第3世代からは種族データが結構大切で、例えば、エルフとドワーフは仲が悪く、近くに住ませるとすぐに種族間戦争に勃発する。


 他にもドワーフを森林の中で暮らさせると、満足度がガンガン下がって、鉱山付近の種族に戦争を吹っ掛ける等。


 まあこんな感じで、それぞれの特性を生かした、土地を用意し町を用意してから召喚すれば問題ない。


 ちなみに俺は、エルフ用に深い森林地帯をつくり世界樹を植え、エルフの7人に世界樹の守り手なる役職を作り任命した。


 ドワーフなんかも、でっかい火山、鉱山地帯を準備して、神の武器職人という役職作った。

 任命されたドワーフは、生涯にただ一つ武器や防具を神に奉納する。

 この奉納された品は神専用武器・防具として使うことが可能である。


 獣人たちは、群れで生きる種族だから獣王を任命した覚えがある。

 個々の強さ至上主義だったはずだ。


 とまあこんな感じに、異世界にちょいちょい手を入れながら、満足度を上げ運営していくゲームである。


 そしてもう一つの側面が、その作り上げた異世界を自由に旅することができるのだ!

 自分が任命して思い入れがあるキャラと話すこともできるし、自分の仲間として一緒に旅することもできる!


 俺は獣人をモフモフした!

 

 ただ、寿命が短い種族に思い入れが強いと悲しいことになるのだが……。

 と言っても、時間の流れは早くも遅くもできるから現実時間10年ぐらいは、一緒に入れるかな?

 その後、キャラロス症候群にかかるだろうけど……。



 いきなりだけど、たとえば、邪神の封印が解かれたとして、邪神を何とかする方法がいくつかある。


 一番簡単なのが、竜王にお願いすることであろう。

 チュートリアルで召喚する竜王だが、こいつの役割は異世界の守護者なので、お願いすればやってくれる。

 

 え?おまえは怒られてなかったっけって?


 ……そう。実は隠しステータスとして親密度があったらしい。当時はそれに気付かなくて、ずっと放置してた竜王に頼んだらブレス吐かれたよ……。


 今どきの人工知能はスペックが高いから、完全モブキャラでも、何回か話しかけるとプレイヤーのお気に入りと思うらしく、どんどんフレーバーテキストが充実して、それ通りにイベントまで作ってくれるんだよね。


 話がズレてしまったが、竜王以外にも、自分が邪神を倒すことも可能である。

 と言ってもそれほど自分のアバターには能力がないので、戦闘用の役割を仲間に任命したり、神専用武器を装備したりして、RPGの要素として遊ぶことができたのである。



 

 ちなみに、ネットの攻略サイトでは第3世代のここまでがノーマルモードであると言われている。


 

 何故なら、第4世代の人族がやべぇからである。

 

 ここまでは、ルールさえわかれば難なくクリアして第4世代召喚までこぎつける。

 そして、第4世代の人族を召喚して一気にハードルが上がり鬼畜ゲームに早変わりする。


 人族は個々の能力では基本最弱で、召喚された当初は他種族に戦争を仕掛けられてはボコボコにやられている雑魚種族である。

 

 しかし、人数が増え武器を手にし、食料を自分たちで作れるようになったあたりから、戦争でも勝ち始め、気が付くと他の種族を圧倒し、他種族を奴隷化したりする困ったちゃんである。


 こいつら、どこでも生きていけるし繁殖率やべぇしで、せっかく他種族のために造った土地をぶっ壊していきやがる。


 挙句に、人間同士で戦争して勝手に満足度下げて、邪神の封印解いて人族の国5つぐらい滅んだこともあったな……。もちろん、すぐに邪神を何とかしたのだが。


 特に人族の繁殖率が高いのがやっかいで、獣人以外、数で勝負できなくなる。獣人は獣人で、一対一で戦うことが好きだから人族と相性がめちゃくちゃ悪いし。


 結局、その世界の管理で必要なのは、人族を野放しにしないで、数の管理を行い他種族へとヘイトを向けさせない事が非常に大切なのである。


 いやーほんとに、何もしないでいると人族以外が絶滅するエンドに直行する。


 ネットの皆からは、人族は何をするかわからないゴキブリとして愛されていたのである。


 そのため人族を召喚した後、俺は人族の数が増えすぎないように、鬼族の姫”桜ノ刃鬼”を魔王に任命し、一定以上の数に人族が増えたら、人族領の都市を魔王に襲いに行かせて、人族の数を減らすようにしていた。


 しかしそのままだと、人族の満足度がどんどん下がり、それはそれで混沌化するから、満足度が下がらないように人族にも”聖女”という役職を作って人族の心の支えとしたのである。


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