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へぼ弁護士Xの選択  作者: 潮見のネコ
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裁判長はネコ

初めて小説を書きました。拙いものだとは思いますが、読んでいただければ幸いです。

内容については自身の経験を生かし、法律家を題材にした小説になっています。

今回の小説は、とりあえずは読み切りという形式で考えています。もし仮にたくさんの方に読んでいただけて、おもしろいといっていただけるのであれば、続きを書こうと思っております。

<はじまり>

今日も、笑顔を絶やさない。絶やしてはいけない。貼り付けたような笑顔で日々を過ごす。「大変でしたね」「あなたの言い分はごもっともです」心にもない言葉が口をついてただただ漏れる。


週末には同期との飲み会か・・・

同期は、活きた笑顔を絶やさない。

「おれはすごいだろう。」「馬鹿なクライアントは勘弁だよなぁ。」「まぁおれは1000万稼いでるからな。」「こっちが先生なわけよ。」口からは自慢話と空虚な将来の話。こいつロースクール時代から、口ばっかりで、どうしようもなかったけど・・・まだこんな感じかよ。


休息にもならない休息を過ごし、家に帰ってやっと落ち着く。漫画と法律書がごちゃ混ぜになった部屋。この本の臭いでおれの心は癒やされる。「はぁ、もう疲れた。死のう・・・。」

そうつぶやきながら、眠ってまた明日が始まる。


 ある日、唯一の心の支えだったYと喧嘩になった。Yが浮気した。おれは、情けなくも激怒し、汚い言葉を吐いた。それに激高したYと口論に。それ以来1週間、連絡はとっていない。こんな時でも思うのは、自分の至らなさだ。Yが浮気したのは、おれが忙しさにかまけて彼氏らしいことなんて何もしてやれなかったからだ・・・。Yは悪くない。浮気したって当たり前だ・・・。おれは最低だ・・・。

そうやって自分を責め続けた。「死のう」今日もまたつぶやいた。でも、今日の「死のう」は、いつもとは違った。本当に死んでやったのだ。



「X、おまえはなぜ死んだニャ」

気づけば、目の前には、色々な生き物。こんな時にも職業病か・・・一番真ん中の席に目がいく。どう見ても猫がそこにいた。尻尾が三つ叉の猫だ。あまりのベタさに笑ってしまった。きっとここは死後の世界なのだろう。


「早く答えろニャ」その猫は、不機嫌そうにいった。

「私は、自分の至らなさが嫌になって死にました」率直に答えた。

「そうかニャ、もういいニャ、こいつは命を粗末にするやつだから、転生送りでいいかニャ」

猫は、大あくびをしながら、周りの動物にそう聞くと、周りの動物は、コクコクとうなずいた。


「転生だけはやめてくださいませんか、もう、嫌なんです、生きるのは・・・」もう、おれは限界だった。

「うるっさいニャ、もう人間にはこりごりニャ」聞き耳はもたないつもりらしい。

「猫さん、人間は極めて愚かな生き物です。傲慢で、怠惰で・・・だけど、だからこそ、人間は人間を高めるために生きているんです。私はだめでした。理想の人間にはなれなかった。愚かで愚かしすぎる人間のまま死を選ぶしかありませんでした。だから、私を生き返らせても、また愚かしい生き方をして死ぬだけです。素晴らしい生を全うできる人間だけが生きるようにすればいい。愚かしい人間は全て消して、存在を抹消して、滅して、塵にしてしまえばいい。だから私を消してください。転生なんて地獄はお願いですから・・・勘弁してください・・・」


「素晴らしい生を全うできる人間だけの生きる世界・・・ニャねー。お前、いいこというニャ。じゃ手伝うニャ」

「えっ」

「お前、今、下界で死にかけてるんニャけど、それ生き返らしてニャ。協力しろっていってるニャ。お前なんか知らニャいけど、頭良いらしいんニャからそれぐらい理解するニャ。死なれると困るし、生き返ったら幸せにしてやるから、協力するんニャよ」

「いや、だから消して欲しいっていったんですけど・・・」


「もううっさいニャ、生き返らすのは決定ニャ、何を望むニャ、一個だけ願いを聞いてやるニャ」

「えっと・・・ではYとの幸せな人生を・・・」

「Y・・・・・・うんうん、わかったニャ、おって連絡するからニャ」


猫がそういうと目の前が真っ暗になった。「神様・・・どういうお考えですかモー」「うるさいニャ・・・」。牛と猫の話し声がとぎれとぎれ聞こえていた。次の瞬間には、おれは、自分の部屋にいた。


そうだ。風呂場で手首切って死のうとしてたはずだ・・・。手首を見たが、傷はない。しかし、浴室に転がっていたカミソリには血がついていた。夢ではなさそうだ。しかし、なぜか気分がすごく良くなっていた。今日はぐっすり眠れそうだ。その後すぐ、夢も見ずに眠った。


 次の日から、毎日がバラ色のように変わった。突然、京飛大学の有名教授から、共同研究の誘いがきたり、無罪判決を勝ち取れたり、法制審議会のメンバーに選ばれたり、今まで自分がやりたくて仕方なかった仕事が次々と舞い込んできた。同期との飲み会も楽しくなった。「X、ほんとにすごいよな。」「おれはもっとクライアントさんを大切にするよ」


みんなずいぶん謙虚になった。弁護士は謙虚でないと。おごってはだめだ。弁護士は特別な職業かもしれないが、人々に幸せのために従事するための職業なのだ、決して世の中で見せびらかすためのステータスではない。みんなやっと分かってくれた。それがこの上なく嬉しかった。


「でもさ、X、あとはプライベートだよな。ちゃんといい人探して捕まえろよ」

こいつらはほんと一言多い。でも本当だ。おれだって幸せになっていいよな。前に付き合っていたのは、数年前の話だし。


<お願い>

ある日、事務所の机の引き出しをあけると、便箋が入っていた。その便箋は蝋で封がされており、いかにも中世を思い起こさせる仕様である。なんだこれ。

封を開けると当たり前ながらに手紙が入っている。

『これから、あなたに1ヶ月に1度仕事をしてもらう。従わなければ、今の幸せは全て失われる。心して仕事に励むように。では、本題だが、明日の午前0時、淀家橋駅を出てすぐの役所の近くに黒いネコがいる。そのネコに話しかけろ。』

手紙にはそう書いていた。

「幸せ」という言葉に、思いがけなく危機感を感じたおれは、仕事帰りにその場所に行ってみた。確かにネコがいる。ただのネコだ。おれが、「おまえか」と声をかけるとすぐにいなくなってしまった。


翌日、事務所に行きいつも通りの出社だ。事務員さんが「おはようございます」と声をかけてくれる。おれの机は事務所の奥、そこまでの通路の両側には、兄弁姉弁の事務机が並んでいる。重い荷物をやっとおいて、おれ担当の事務員さんに声をかける「今日僕、Z(姉弁)さんと大坂地裁だよね」。事務員さんは怪訝そうに答える「X先生なにいっているんですか、Zさんは今産休中でいないじゃないですか。もう、朝顔洗いましたか。今日はX先生一人で大坂地裁です。」

そういわれて、おれはとっさに「ネタですよ。もう、厳しいっすね」とごまかした。でも、おかしいのだ。Zさんは、彼氏すらいない独身だったはずだ・・・。

というか、今日の弁準の準備どうなってる。だってZさんが書面作ったはずだ。

でっかいファイルをぺらぺらめくる。なんでおれが作ったことになってるんだ・・・こんな書面作った覚えがない。しかし、実務家らしからぬ、学説てんこ盛りのくせのある文章、これはおれが作ったみたいだ。こんなの他の人が書くわけない。おかしい。絶対におかしい。

とはいえ、深く考える暇もなく、法廷に向かう。相手方の代理人も裁判官もこの事件の担当はおれだとおもっている。なぜだ。ただ時間は進む。


Zさんに連絡をとってみた。幸せそうに、「子ども産んだらバリバリ働くから、それまで、私の手当のために働いてな。」なんていってくる。理解はできないが、Zさんが産休中なのは間違いない。

全部読んでいただいて本当にありがとうございました。

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