陸 OPEEN THE 七つ目の不思議(1)
美術部の部室のおとなりに、非常にまぎらわしい“別モノ”がありました……。
「――ランラランララ~ン♪ ランラランララ~ン♪」
坂道を登って行くその少女は、今朝も大変上機嫌だった。
彼女と肩を並べて歩くもう一方の少女は、そんな彼女をいかにも不審そうに眺めている。
「……ねえ、昨日、何かとってもイイことあったんでしょう?」
朋絵は疑念の眼差しで、真奈のニヤけた顔を下から覗き込んで尋ねた。
「ええっ⁉ な、なんでわかったの? もしかして朋絵、エスパーだったの?」
「……そりゃ、どう見たってわかるでしょう。そのおもいっきりニヤけた顔を見ればさ」
「えっ…?」
真奈は自分の顔に手をやると、その状況を確認してみる。確かに、触感でもわかるくらいのニヤけっぷりだ。
「さあ、白状なさい! いったい何があったの? あ、さては狩野先輩絡みだなあ~」
朋絵はまるで、ご近所の噂好きな奥さんのような顔つきで真奈に詰め寄る。
「エヘ…聞きたい~? ぢつはねえ…」
わかりやすすぎにも当たっている朋絵の推理に、真奈はよりいっそう思い出しニヤけ笑いを浮かべながら、もったいぶった言い回しで自慢するように答えた。
「昨日も部活の後に美術室へ行ったんだけどね。狩野先輩にジュース差し入れしたら、そのお礼にって、帰りにムシュドでドーナツ奢ってもらっちゃったんだぁ」
「ほお~…それはまるでデートですなあ。まーなさん、奥手なように見えて、ぢつはなかなかやり手…」
「キャ~っ! そんなデートだなんて! ただ一緒にドーナツ食べただけだしぃ…まあ、その後のムフフな展開もちょっとは期待してたんだけどぉ、別に夜の公園でのチューとか、そのままご両親の留守な彼のお家にお呼ばれ~とか、そいうのは別になかったんだからね~! もう! ヤダぁ朋絵ったらっ!」
照れる親友をからかって遊ぼうとした朋絵だったが、妄想に突っ走る真奈は訊いてもいない彼女の内なる願望までベラベラ勝手にしゃべり出し、バシバシと朋絵の背中を平手で連打し続ける。
「痛たたた……べ、別にわたしはそこまでは言ってないって…」
「え? 結婚の約束? そんな気が早いよ~…あ、でもぉ、もし先輩にプロポーズされたらどうしよ~? え、この指輪をあたしにですか? そんな先輩、あたし達、まだ高校生だしぃ~」
一昨日の昼、初めて狩野の話をした時の初々しさはどこへやら、妄想モード・フルスロットルな真奈は完全に制御棒が抜け落ち、現実と空想の境が…否、自己と他者との境すらなくなって、形而上的脳内一人芝居に精神世界の果てで勤しんでいる。きっと今、彼女の中で個々に分かれた人間の意識は一個の集合的意識へと昇華し、嘘も欺瞞もない幸せな理想世界が創造されていることであろう。
「恋する乙女って、怖い……」
そんな、遠い目をして軽く自我を超越している親友の姿に、あんな質問するんじゃなかったと、今さらながらに朋絵は後悔するのだった――。
それより、長い一日の授業を終えての放課後……。
「――ええ~そんな殺生なぁ~! 一緒に行ってよ~朋絵ぇ~!」
立ち去ろうとする朋絵の足にしがみ付き、真奈は文字通り泣きついていた。
「だから、なんで、わたしがそんなのに付き合わなきゃいけないのよ?」
しかし、それでも朋絵は親友を振り解き、断固、教室を出て行こうとする。
「だってぇ~…職員室に、しかもあんな質問一人でしに行きづらいんだもおん……」
「フン! 今朝からずっと浮れっ放しなんだから、それくらいしてシャキッとした方がいいってもんだよ」
今日は金曜日。真奈達新入生の高校生活も初の週末である。
入学して早一週間が経とうというこの日の放課後、真奈は新たな問題に直面していた。
「それにわたしも部活あるし。ってことで、それじゃね、まーな。ごきげんよう」
「あああ~! 待ってよ~朋絵えぇぇ~! マイ・ディアーフレンド、カム・バァァァ~クっ! ……ああ、友よ。七不思議の話なんて、どう切り出せばいいというの?」
無慈悲にも親友を打ち捨てて教室を後にする朋絵の背中に、真奈はまるで舞台女優のように床へ倒れ伏して手を伸ばすと、悲劇のヒロイン気取りで大袈裟に嘆く。
彼女はこれから独りきりで、孤軍、職員室に赴かねばならない……昨日、梨莉花から下された指令に従い、神奈備高校のOBでもある担任の渋沢に、彼が在学していた頃の七不思議について話を聞くためである。
だが、いざ行くとなると、やはり職員室というのは行きづらい場所だ。しかも用件は「七不思議について知ってることを教えろ」などという、とても教師に対してするものとは思えない、ひどくふざけた内容である。
もう、今となっては今さらであるが、今日一日、話を振るチャンスは他にもいろいろとあったのだ。特に先程のホームルームの直後に尋ねてさえいれば、事はもっと簡単にすんだはずである。しかし、やはり訊きづらいからとチキンハートにも躊躇していると、あれよあれよという間に渋沢は教室を出て行ってしまい、結局、職員室までわざわざ出向かなければならないという、余計、厄介な状況に陥ってしまったのである。
その上、道連れにしようとしていた頼みの親友にもあっさりと逃げられ、真奈はやっぱり訊きに行くのはよそうかとも考える。
「……でも、そんなことしたら、梨莉花さんに呪い殺されるな」
その誤った選択の末路を予想し、真奈は頭の中で梨莉花の姿を妄想する――。
「――フフフ…これはよい呪いの薬ができそうだ……」
ハロウィンでもないのに魔女のトンガリ帽子〝ウィッチハット〟を頭にかぶり、黒いローブに身を包んだ典型的魔女コスプレの梨莉花は、不気味な笑みを浮かべながら火にかけた大鍋を樫の木の杖でグルグルと掻き回し、何か得体の知れない色をした正体不明の汁をグツグツと沸騰させて煮込んでいる。
「さあ、まーな、この薬をおとなしくお飲みぃ~すぐに楽になるからさあ~ケケケケ――」
――ブルブル…。
最近思い描くその〝魔女梨莉花〟のイメージに、彼女は思わず身震いした。
「……ハァ…しょうがない。行くか……失礼しまーす!」
と、そうこうしている内に、いつの間にやら職員室の前まで来てしまった真奈は、やっぱり命あってのものだねと、覚悟を決めて職員室の戸を開いた。
ガラガラと引き戸の開く音に、教師達の目が一斉に真奈のもとへ注がれる……その熱い視線の中、きょろきょろと辺りを見回して担任の渋沢を見つけると、真奈は早足で彼のもとへと近寄る。
「あ、あの渋沢先生……」
「ああ、宮本か。なんか用か?」
渋沢も見知った自分の生徒に気付き、丸渕のメガネをかけた細面を真奈の方へと向ける。特に真奈の守備範囲というわけではないが、相変わらずBL好きの女子にはモテそうな顔つきである……ネタ的に。
「あの……ちょっと、お訊きしたいことがあるんですけど……」
「ん? なんだ?」
……ああ、やっぱり訊きづらいなあ。絶対、おちょくってると思われるよなあ……。
真奈はどう話を切り出していいものかと、とても迷った……しかし、あれこれ考えてみても結局はストレートに訊くしかないということに思い至る。
……ええい、もう、なるようになれだ!
「あ、あの…その…あたし達、今、部で神奈備高校の七不思議について調べてるんですけどぉ……せ、先生がここの生徒だった頃の七不思議のお話を聞かせてください!」
真奈は勢いに任せて尋ねながら、怒られるか、唖然とされるか、どちらにしろよい返事は返ってこないものだろうと思っていた。
「へぇ~。おまえ、そんなこと調べてるのかあ」
ところが、予想に反して意外にも、渋沢は真奈の質問に興味を示したのである。
「え…?」
その想定外の反応に、逆に真奈の方が唖然としてしまう。
「ああ、そうか。宮本は確か呪術部だったな。しっかし、おまえもまた、おもしろいとこへ入部したもんだなあ」
「いえ、そこに至るには非常に深く複雑な事情が……」
塞ぎかかった古傷をえぐり開くようなその言葉に、思わず本題を忘れて真奈は暗くうち沈むが、渋沢は構わず暢気な笑顔で話を続ける。
「ああ、そうそう。それより七不思議のことだったな。いや、ぢつはな。先生もここの生徒だった頃はけっこう七不思議の話に興味があってな。友達とよく見に行ったりもしたもんだ」
……へえ~。渋沢先生も七不思議に興味があったんだ。それですんなり話が通ったんだな。ぢつはけっこう幽霊とかオカルトとか、そういう類の話が好きな人なのかもしんない……うーん…じゃあ、やっぱゴシック系のBLでいくべきかな……いや、むしろホラー系のハーレムで……。
古傷の痛みからなんとか立ち直った真奈は、まったく余計な妄想を片手間に抱きつつ、それでも渋沢の語る話に耳を傾ける。
「そうか、まだそんな話が伝わってるんだなあ。いやあ懐かしいな。えっと、確かあれだろ? まず一つ目が踊る二宮金次郎、次が目が光るベートーベン、それから……鬼の映る鏡、一段増える階段、不開の体育倉庫……あと、手の出るトイレだったかな? それで七つ目は誰も知らなくて、それを知ると死ぬって云われてるんだよな」
渋沢の話からすると、七不思議の順番も内容も現在のものとほとんど同じである。ただ一つ、渋沢は六つ目の不思議についてだけは記憶違いをしている。
「先生、六つ目を間違えてますよ? 六つ目はそんなんじゃなくて歩く人体模型です」
若輩ながら、真奈はそのことを親切にも指摘した。
「え? そうだっけ? ……あれ? でも、確か六つ目は手の出る南校舎のトイレだったような……」
渋沢は小首を傾げると、自分の記憶を改めて手繰り直す。だが、それでも真奈の言う六つ目と自分の中の認識とには大きな齟齬を感じているようだ。
「……ああ、そうだ! そうそう。そうだった。そうだった」
そして、しばらく考え込むと、突然、手を打って大きく頷く。何かを思い出したらしい。
「そうそう! 六つ目の不思議は一つに決まってなかったんだよ!」
「えっ? ……どういうことですか?」
渋沢は、何か妙なことを言い出した。
「うん。先生の頃にはな。他の一~五と七つ目はしっかり決まっていたけど、六つ目だけは人によって七不思議に加える話が違ってたんだ。今言った手の出るトイレもそうだし、その人体模型もその一つだ。他に水死した生徒の霊が出るプールってのもあったな……」
なんだって⁉
その思わぬ新事実に真奈は心の中で声を上げる。
……昔は、六つ目がちゃんと決まってなかった?
「そうかあ。今は歩く人体模型に定着してるのかあ……ま、一番いかにも学校の怪談って感じの話だしな。自然とそれに絞られてったんだろう。トイレも水洗式になって、手が出るってのも今の子にはピンとこないだろうしな」
これは思わずおもしろい情報を摑んでしまった……この話、ぢつはけっこう重要かもしんない。後でちゃんとみんなに伝えなくっちゃ……ってか、これで梨莉花さんに殺されないような報告ができる……。
なんとか命が繋がったことに、真奈は人知れずホッと胸を撫で下ろした。
「あ、どうも。ありがとうごさいました」
そして、用件がすむと早々に、こんな所に長居は無用と真奈は頭を下げて渋沢のもとを後にする。
「お、もういいのか? 何かわかったら先生にも教えてくれよお~!」
そんな去り行く真奈の背中に、やっぱりこういう話大好きだったらしい渋沢が、まだ話し足りないという様子で遠くから声をかけた――。
「――お疲れさまで~す! …おや?」
職員室を出た真奈は、そのままの足で学生棟に向かい、部室のドアを勢いよく開けた。
だが、開いたドアの向こうには、飯綱と相浄の二人しかい。他の者がいないのもさることながら、大概いつもは部室にいるはずの梨莉花の姿まで見えないとは珍しい。
「おお、お疲れさん」
「おーす」
入って来た真奈に気付いて、飯綱と相浄が顔も向けぬまま挨拶を返す。
奥の机に座る彼らは、分厚い本を机の上に積んで何やら調べ物をしていた。本の背表紙には『仏尊別真言大辞典』だとか、『初級サンスクリット語入門』などという書名が見て取れる。
あ、そうか。みんな調べ物に行ってるんだ……。
そういえば、今後は各自分担して七不思議の調査をするようなことを昨日の会議で言っていた。かくいう真奈自身もそれで先程、渋沢の所へわざわざ話を聞きに行ったわけである。梨莉花、梅香、清彦の三人も、きっと自分の調べ物のためにどこかへ出かけているのであろう。
「ああ、他の三人なら自分達の調べ物に行っているよ」
真奈の思っていることを察してか、飯綱が本から顔を上げて、彼女に予想通りのことを告げた。
「それから部長だが、外に出るんで少し遅くなるかもしれないが、戻るまで待っててくれとのことだ」
ふーん…梨莉花さん、学校の外に出てるんだあ……でも、遅くなるっていったいどこまで行ったんだろ? さっき渋沢先生に聞いてきたこと伝えようと思ったんだけど……先に飯綱先輩達に言っといた方がいいのかな? ……ま、みんな帰ってきてからでもいいか。
「ああぁぁ~っ! わがんねーっ!」
真奈がそんなことを考えていると、突然、相浄が持っていた本を机の上に投げ出し、天を仰いで大きな叫び声を上げる。どうやら調べ物に行き詰って嫌になってしまったらしい。
「だいぶ頭も煮詰まってきたことだし、ここらでちょっと気分転換でもするか」
頭からプシュ~と湯気を出す相浄を見かねて、飯綱がそう提案をする。
「そうっすね……でも、気分転換って?」
「ほら、部長が俺達にも一応、七不思議の現場を見ておくように言ってただろ? まだ部長達が来るまでには時間がありそうだし、ちょっくら見学にでも行ってみようではないか。ちょうど部長達と一緒に廻った宮本君も来たことだしな。宮本君も一緒にいいかい?」
「あ、はい。あたしは特にすることないんで」
そういえば、そんなことも昨日言っていたような……。
「フゥ…じゃ、そうしますか。ずっと細かい字ばっか見てて目も疲れたっすからね」
相浄もそう答えると、一息吐いて椅子から勢いよく跳ね起きる。
「それじゃ、神奈備高校七不思議巡りツアー出発だ。山登りん時はいつも俺だが、今日の先達――つまりガイドは宮本君だ」
「え? あたし、ガイドですか?」
ついに、そんなオカルトなツアーのガイドまでするところまで来ちまったかあ……。
こうして、真奈は己が身の堕落を心の中で嘆きつつも、飯綱、相浄の新顔二人とともに、再び七不思議のフルコースを巡ることとなった――。
「――梨莉花さん達、まだ戻って来ないんですかねえ?」
「ああ、遅くなると言っていたからなあ」
真奈達三人が七不思議巡りから帰って来ても、梨莉花達の姿はまだ部室になかった。
「もうこんな時間かあ……」
コピーの裏紙と割り箸で作った「神奈備高校七不思議巡りツアー」の三角旗を弄びながら、壁にかかる年代物の振り子時計に真奈が目をやると、時刻はもうすでに五時半を回っている。
七不思議巡り自体はこれといって目新しい発見があるわけでもなかったが、それでも初めて回る二人になんやかやと説明しながらだったので、全部回るのにはゆうに一時間以上はかかってしまった(特に理科準備室へ入ろうとした際、化学部員がものすごい抵抗を示したためにそこでかなりの時間を取られた…)。
しかし、それほどまでに時間潰しをしてみても、まだ梨莉花達は戻って来ていなかったのである。
「やっぱり、人体模型の所に梵字はなかったなあ」
「そうっすねえ。なぜっすかね?」
ガタン…。
他の者もいないため、飯綱と相浄がそんな論議を二人だけで始めようとしていたその矢先、入口のドアが俄かに開く。
「お疲れさまです」
入ってきたのは清彦だった。その手にはいろいろと資料を綴った分厚いファイルを抱えている。
「ああ、お疲れさん」
「あれ、梨莉花さん達はまだ来てないんですね」
清彦は室内を見回すと、梨莉花と梅香がいないことを確認する。
「おう、どっか出てっちまったみてえだ。そういうおまえもけっこう遅かったじゃねえか。どこ行ってたんだよ?」
清彦に答えると、今度は相浄の方が尋ねる。
「ああ、僕はずっと図書館に籠ってたんだよ。昨日の話でちょっと思い当たることがあったんでね。それを調べてたんだ」
「んで、どうだった? 何かわかったか?」
「おそらく僕の読み通りだよ……あの梵字を仕掛けた犯人はね」
「なにっ⁉ あの梵字を書いたやつがわかったのか? 誰だそりゃ?」
その衝撃発言を聞くや、相浄と飯綱は跳ね上がるようにして上体を起こす。
「ま、それは後で全員集まってから話すよ。その前に資料も整理したいしね」
「ちぇっ。お預けかよ」
勿体付つける清彦に、相浄は口をタコのように尖がらせ、おまえは駄々っ子か⁉ とツッコみたくなるような素振りでふて腐れる。
「お楽しみは最後までとっておいた方がいいってね」
ちょっと小生意気な笑顔でそう答えた清彦は、それ以上何も語ることなく、エメラルド色のタブレットを取り出して早々に自分の仕事を始めた。
ガタッ…。
と、そこへ再び入口のドアが開き、また誰かが入って来る。
「フィ~、疲れたヨ~」
今度の来訪者はなんだか一仕事終えた後のキャリアウーマンの如く、疲労感と爽快感のない交ぜになった顔をした梅香である。
「イヤ~大変った。大変だった」
その華奢な肩にはよく設計士の人とかが持ち歩いているような、細長い円筒形の筒が提げられている。
「アレ、梨莉花さん、いないのカ?」
梅香も部屋の中に梨莉花の姿がないのを確認すると、意外そうに呟いた。
「外に出てくるって言ってたんでな。けっこう遅くなるようだ」
その疑問には、飯縄が山男らしい野太い声で山小屋のオヤジのように答える。
「ヘエ、梨莉花さんもカ。ぢつはワタシも外行ってたんだヨ」
「なんだ、梅香君もか。外っていうと、どこへ行ってたのだね?」
「昨日、梨莉花さんからアル古い地図のコピー取って来るよう言われてネ、それで学校の図書館見たケドなかったから、わざわざ中央図書館マデ行って、ソレ取ってきたんだヨ」
「なるほどな。それで今までかかったわけだ。で、それはいったいなんの地図なんだね?」
「ヨクワカンナイ。ここら辺の古い地図てコトはわかるケド」
飯縄のその問いに、梅香は不可解そうに肩を竦めると、カワイらしく小首を傾げる。
「うーむ……すべては部長が帰って来てからってことだな」
飯綱は考え深げに筋骨逞しい腕を組み、低く唸りながらそう呟いた。
そして、部室内にはしばしの間、ただ梨莉花を待つだけの退屈な時が訪れた――。
目が疲れたら、ちょい小休止してからまた読もうぜ? by 金剛寺相浄




