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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日から学校と仕事、始まります。①莞

当たり屋、辞めるわ(物理的に狂気的に)

作者: 孤独

俺は当たり屋である。


当たり屋とは、人や車に”ワザ”とぶつかって、金を巻き上げる奴の事だ。

始めたのはガキの頃、交通事故に会った時だ。足を骨折して、相手から多額の賠償金をもらえたからだ。その金で欲しかった自転車を買った時は、たまんなかった。


確かに痛い事をするが、その期間中はキッチリと金は流れてくるわ、壊れた物は新品になって戻ってくるわ。至れ尽くせりだろう。病院で看病してくれたナースは可愛かったしな。


最近の当たり屋トレンドは物損だな。始めから自転車を壊しておいて、車とぶつかった時に大破できるようにする。自転車の補償を訴え、精神的な苦痛と共に相手から多額の資金を巻き上げる。交通事故を起こした運転手ってのは気が動転しているし、壊れた自転車を見れば警察だって相手の責任を見るもんさ。

早々、いくら当たり屋だからって、相手の後ろからぶつかるような奴は当たり屋じゃねぇ。ただのバカだ。後ろからの追突は車と自転車でも、自転車の方が責任を問われるから注意しな。走っている車にぶつからねぇでどうする?信号のない交差点で飛び出して、上手い事ドカンってぶつかって、無傷で受け身をとる。



しかし、自分にとって18件目。俺が当たり屋を辞めるきっかけと出会った。なんなんだ、あの女。

サイコパスとか、情緒不安定とかじゃねぇ。口だけの薄い悪じゃねぇ、よりどす黒い闇を感じ取れた。


◇     ◇


ブロロロロロ


「酉さん。運転免許を持っていたんだな」

「私だって車くらい運転できるわよ、三矢くん。営業もする私が車を使えなかったら、不便じゃない」


昼間の出来事であった。

酉と三矢が乗る車はとても普通な車であり、営業の関係でこの道を通っていたに過ぎなかった。当たり屋は入念に、どの車とぶつかるかチェックしており、気の弱そうな運転手を狙って当たりに行く。ぶつかる相手を選んで、交渉を有利にするのは一般的な手段。振り込め詐欺だって行き当たりばったりでやらないだろう?それと同じさ。


ただ、この車はまったく予想外で来ており、標的ではなかった。ナンバープレートを確認してなかった愚かさだったな。



ドカーーーンッ


「いてぇな、この野郎!!」


見通しの悪い信号のない交差点の陰から、自転車が急に飛び出せばいくら徐行をしていても避けれない。しかも、この車は30キロくらいの速度で通過しようとしていた。これは上手い事故だ。けがは鼻血くらいで済んでる。無残に自転車が大破してるし……。



「うわぁっ!?交通事故!」

「あらあら。急に飛び出して来るから、轢いちゃった」


ぶつかる直前に運転手の酉もブレーキを踏んだが、間に合わなかった。

酉も三矢も、車から降りて倒れる相手に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「俺、警察と救急車を呼ぶっす」

「いてぇじゃねぇか!どこ見て走ってやがる!あー、いてぇ!責任とれ、女!」


デカい声を挙げて、周囲の人々にも気付くほど騒ぐことでどっちが悪いか明白にさせるのさ。

しかし、この時。俺の様子を見に来た女の顔に、心配や不安といった表情は一切なかった。それに気付けたのはもう少し先。


「警察を呼べぇぇっ!訴えてやる!!」

「やべぇぞ、酉さん」

「ふーん」


助手席に乗っていた三矢はさすがにヤバイと表情をこわばらせていたが、酉はまったく違っていた。当たり屋だと察したわけではなかったが、とった行動は異質なもの。

酉はバラバラになった自転車の部品の一つ、サイドスタンドを拾ってあろうことか。



ブジュウゥッ


「その口で訴えられるかしらねぇぇ?」

「ごぶぉっ」


口の中に突っ込んで、喉を突いて正確に潰しに行った。なにこいつ、日本語と状況が分かってねぇのか!?


「ちょっ!?酉さん!何やってんの!?」

「三矢くん、霊柩車も呼んであげてよ」

「番号しらねぇよ!」

「だらしないわね」

「ばばいびあどぅどぅべぇ(いてぇ!口から出させろ、この金属棒!)」


色んな人達が見ている状況の中で起こったのは、交通事故よりも悪質な制裁であろう。


「う~ん。交通事故なのに、傷が少ないわね。私はもうちょっと悲惨な事故が好きなの」


そういって、自ら犯した交通事故に更なる悪行を積み重ねようと、傷つく相手の頭を踏みつけていく。こんな美人にされるのならご褒美と思えるが、その心意気は一切ない裂傷させる目的の踏みつけ。


「ぐおっ」

「私って軽いから、目とか耳とか、鼻とかを強く踏まないと怪我をさせられないわ」


喉を抑えられ、目や耳を集中的にいたぶり始める。


「ちょっ!止めろって酉さん!あとは警察に任せろって!」

「私の仕事よ、三矢くん。手出しは要らないわ。というか、邪魔してくれたわね。警察と救急車を呼ぶなんて……」

「いやいや、俺の方が正しい判断だから!」


その通りだ。三矢の判断が正しい。しかし、この酉麗子の判断は気が狂っている。


「まぁいいわ。警察と救急車が到着する前に、私がこの男や周囲にしっかりと『交通事故や事件は何もありませんでした』と、証明してもらえれば良いだけじゃない。そうすれば、私達には何もない」


いや、もう事件なんですけど。そりゃ、口裏合わせますが。マジですか。なんなんだこの女。


「ぐおぉっ」


急所を攻撃しても、望み通りの怪我が作れない自分に落胆。


「やっぱりダメね。私って、非力な女だわ」

「あんたがキチガイには変わりねぇだろ」

「ひっど~い。三矢くんって、私の事そんな酷い女だと思ってたのー?私、ぷんぷんしちゃうぅ~」

「キャラ崩壊を演じたって、バレバレだろ!」


可愛く被ってみても、そのキチガイぶりはまったく拭えない酉であった。交通事故を起こしたと思われるべき傷が、自分の肉体では作れない。しかし、それすら範疇内で。もっともらしくするに



バタンッ


「え」

「!」


扉を開けて、中に入り、扉を閉める。エンジンを掛ける音。その全てが周囲に不吉を与え、予想通りにして予想外の行動をとる酉。


「交通事故らしい傷をつけるなら、もう一回。いや、もう二回。轢けばできるわよね?」


被害者が満足に動けない傷を与えたのも、全てはこのためだろう。速度は10キロとはいえ、鉄の塊でギアを”1”に入れる鬼畜ぶり。ローギアは、スピードは出ないがパワーがある。


「や、止めろーー!」

「ううん。だ~め。死んでみなさい」


ぐっしゃりと確実に、逃げれぬ防げぬ相手を踏みつける。それは確かに交通事故に相応しい傷を作りだした。それを1回だけでなく、2回、3回。被害者が気を失い、ボロクソになるまで続ける酉であった。




◇     ◇



病院。


その白い天井を見て、生きている事を知った俺だった。

なんという悪い現実だ。一体あれから何があっただろうか?ともあれ、生きている実感が妙に嬉しく思えたのだ。


「良かった、目覚めたのですね」

「!ナースさん」


偶然にも、ここのナースがこの部屋にいて、天使の微笑みを向けていた。


「あの……俺は……?」

「記憶が混同してらっしゃるのですね」

「いや、車に轢かれた記憶が」


思い出したくないほど、鬼畜な目に合わされていたような。そーやって、思い出そうとする時。


「でしたら、これで思い出せると思います」


ナースさんはべっしゃりした袋を渡しつつ、俺の耳元で囁いた。


「記憶喪失のフリをしてないと殺す」

「!!」


天使の微笑みから底なし悪の無表情で語り、べっちょりとしている袋の中は人間の一部に近い感触。赤い色に染まっているのが、嫌というほど創造力を湧きあがらせる。


「あ、あ、あんた」


名札を見ると、『酉麗子』という文字が刻まれていた。よく見れば、あの時の運転手にソックリな顔と髪、体型。ナースは俺がそこまで理解してくれたことに笑みを出し、


「それじゃあ、お大事に」


この病室から出ていくのであった。

俺はもう当たり屋どころか、何もできない気がした。






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