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STAGE.8 盗撮は犯罪です、でもやります

盗撮は犯罪です。ダメ、絶対。




帰りがけに「またな」と宣言していった恭一郎は、その後たびたび藤堂家に顔を出した。

彼が進んでついてくるのか、もしくは親サイドが見合いの延長戦のつもりで連れて来るのかまではあえて瑠架も聞かなかったが、互いの情報交換をするという点で都合がいいため親の思惑はひとまず放置しておいた。

まだ瑠架は5歳、恭一郎も7歳という幼い年齢だ、婚約云々の話が出るにしてもまだ先だろうと考えたからだ。



「児童会に入ったんだって?」

「早耳だな」

「瑠璃ねぇが言ってたの。まだ1年なのにすごいね、って」

「あんなの、子供のお遊びレベルだ。……とはいえ、将来的に使えそうな人材を見つけたり、経営のロープレをするにはいい場所だが」


初等科には、中等科以降『生徒会』と呼ばれる生徒による自治運営の組織がある。

権限はそれほど大きくないものの、実際にイベントを企画したり生徒の苦情などを受け付けたりと、確かに彼の言う通り会社経営のミニチュア版と言ってもいいほど仕事は多彩だ。


「そっちは?なにか変わったことは?」

「んー、瑠璃ねぇとハル君は相変わらずくすぐったいお付き合いしてるし……あ、そうだ。私よりいっこ下の攻略対象なんだけど、病弱であんまり幼稚園には来てないみたい。この前年中クラスの発表会があったんだけど、その時もいなかったから」


瑠架がまだ逢っていない攻略対象は2人。

そのどちらも四条家に近しい人物とあって、瑠架もそれを聞かされた恭一郎も警戒を強めている。

そのうちの1人、四条拓人は現在11歳。

恭一郎も所属する児童会にも定期的に出入りするクラス役員を務めているとのことだ。


そしてもう1人、瑠架より1歳年下という最年少の攻略対象が獅堂蓮司しどうれんじという実に勇ましい名前を持つ少年だ。

彼もまた、四条家に近しい血筋の持ち主であることから、今後絡んでくる可能性は充分に考えられる。


(ゲーム上では病弱設定なんてなかったし……これから克服してくってことかな)



「思ったんだが」


と、何かを考え込んでいた恭一郎がふと視線を戻した。


「攻略対象を警戒するのはまぁいい。だが本当に警戒すべきはヒロイン、四条ゆりあの動向じゃないのか?」

「それはそうだけど、この時期ヒロインちゃんはまだ『母子家庭で育った庶民』だよ?警戒するしないよりも、調べようがないと思うんだけど」

「それはそうだが、方法がないわけじゃない。確か、一宮の当主はその存在を知ってたんだよな?」

「あ、そういえば」


『まぁ認知はしてると聞いているから、これを機に社交の世界に引っ張り出したかったんじゃないか?』


瑠璃が四条の当主に泣かされたあの日、伯父である一宮家当主はそう語っていた。

ということは恐らく、ある程度上流の家の間では公然の秘密とされているのかもしれない。


(ゲームでヒロインが四条の娘として出てくるのは、お母さんが亡くなったから……だっけ)


母を亡くし、父に引き取られて四条と名を変えた彼女は社交界に引っ張りあげられる。

逆を言えば、彼女の母が生きているうちは表舞台に出てこないと考えてもいいはずなのだが。

それにしては様子がおかしい、と恭一郎は語る。


「認知をしてるとはいえ、当主にとっては庶子だ。跡継ぎもまだ幼い今、何故ゆりあを引っ張り出そうとしている?」

「んー、そうだよね。それで家庭に波風立っちゃったら足元すくわれかねないし」

「一宮がいかにに魅力的だとしても、同じランクの名家である四条がどうしても一宮を手に入れたがる理由がわからない。しかも、何故今なんだ?」


『何故今なんだ?』


問われてみて初めて、瑠架もこれを疑問に感じた。

四条の家が例えば没落寸前であり、一宮の持っている大きな権力とコネを欲しているのならまだわかる。

だがCMのスポンサーにつくなど、その経営に陰りが見えるわけでもない。


一昔前なら、愛人はステータスだ、庶子はいて当然と開き直れたかもしれない。

が、妻を持つことが社会での格付けに影響する昨今、愛人までは許容できても庶子を公に連れ出すとなると、家族を大事にしていないとみなされ、社会的な信用を失ってしまいかねないのではないか。

それとも、ゆりあを引っ張り出したがっているというのは穿った見方であり、四条の当主にその気はないということか……とも考えたが、公の場で露骨に『他の子』を勧めたこと、そして何より庶子の存在がほぼ公然の秘密状態になっていることを考えると、四条家にとってのゆりあは何が何でも隠したい存在ではなく、むしろその逆だと考えた方がしっくりくる。



(誰かが四条ゆりあを表舞台に引っ張り出したがってる?でもそれって誰?)


ぞくり、と嫌な予感が瑠架の背筋を這い上がってくる。

そして、意図しないままに言葉がぽろりと口から零れだした。


「もしかして……もしかすると、だけど」

「なんだ?」

「うん……こういった場合のテンプレって、大概ヒロインも転生者だったりしない?前世ゲームやりこんだクチの、逆ハー狙いの子とか」

「………………」


恭一郎は、反論しなかった。

かわりにじっと何かを考え込んでいる。


瑠架も思いつきで咄嗟に口に出してみたのだが、よく考え直してみるとその可能性は充分にありえるのだという結論に達してしまう。

瑠架も恭一郎も転生者だったのだ、ここであと何人かが同じ転生者だと言われたところで不思議はない。

それに、もしそうだと仮定するなら四条家がこんなに早く一宮家と接触を持ちたがったり、やたらと藤堂家を目の敵にすることにも説明がつく。


もし、ゆりあが転生者だったとしたら。

前世の記憶を取り戻した彼女が、ゲーム設定上は母親以外の家族愛を得られない自分の境遇改善に取り組んだのだとしたら。

彼女を愛するあまり、父である四条の当主が早々に娘を引き取ろうと考えないとは言い切れない。

名家の体面上離婚はできないが、せめていい家に嫁がせてやりたいと一宮との縁談を本気で検討しているとも考えられる。


(ここでヒロインが割り込んで来ちゃったら、シナリオ自体が成り立たない……)


シナリオが崩れるのは瑠架も賛成だ。

とはいえせっかく上手く行き始めている姉と遥斗の関係性が一緒に崩れるとなると、そこは姉のヤンデレ化防止のためにもどうにかして関係維持につとめたいところだ。

独占欲から執着心、そして目の前で自殺することによるトラウマ植え付け、とバッドエンド方向に行くに従って藤堂瑠璃は病んでいく。

最終的には『デレ』部分があるのかどうかも怪しいほどの妄執ぶりとなるため、家族思いの瑠架としてはそのルートはなんとしても阻止、が基本だ。



「その『もしかしたら』に則って考えるなら、だが。ここがもし、お前の危惧するような隠しシナリオの世界だとしよう。それなら、ゲーム本編でなかった展開もアリなんじゃないか?」

「本編でなかった展開?」

「さっき言っただろ?『逆ハー狙いの子』って」

「あ!隠しシナリオとして、逆ハー展開があるかもしれない?」


そういうこと、と恭一郎は苦々しげな……到底7歳の子供には似つかわしくない表情で頷く。


もし、ヒロインである四条ゆりあが記憶持ちの転生者だったと仮定して。

ゲームをやりこんだ記憶があるなら、ゲーム本編に逆ハールートがないことは知っているはず。

だがゲームとは違い幼少期からスタートするこの『シナリオ』なら。

ゆりあの周囲の悪環境を少しでも改善し、上げられるだけパラメータを上げ、早いうちから攻略対象達に接触することで余裕を持って好感度を上げられるようにする。

そのくらいのことは、考えていてもおかしくない。


「逆ハーなんて絶対にないから、って安心はできないってことだね」

「ああ、まぁ全てが机上の空論だからそこまで心配しなくてもいいだろうが。それに、現段階で考えるなら全員攻略するのは難しいんじゃないか?少なくとも一宮遥斗はお前の姉貴に夢中だ、それに俺だって転生者だしな」

「だといいんだけど」

「なんにしても、まずはその四条家の庶子の存在を暴くことからだな。公然の秘密状態なら探るのもそう難しくはないはずだ。少し探りを入れさせてみる」


そう言って、安心させるように恭一郎は笑った。




その半年後

さしたる進展もないままに、瑠架と瑠維は幼稚園の年長クラス2年目に入った。

その年から一宮遥斗は初等科1年に、四条拓人は初等科6年に、そして姉の瑠璃と瀧河恭一郎は2年になる。


「ヒロインの家を見張らせていた者から連絡が入った。どうやら月城学園を受ける受けないで揉めたらしいな」

「え?でも学区内の普通の公立に行ったんだよね?」

「ああ。ヒロイン……ゆりあが受けたいと言い出したんだそうだが、母親が諌めたらしい。四条からは相応に援助はされてても、さすがに私立には通わせられない、まだ早い、ってな」


(ヒロインが転生者って説、益々濃厚になってきた感じ……確証が持てればいいんだけど)


「ねぇ、その見張りの人って動画とか撮れない?」

「できないことはないだろうが、欲しいのか?」

「うん、できれば。バレたら犯罪行為になるから無理にとは言わないけど。その人が気づけなかったことでも、私達が見たら気づけることとかあるかもしれないでしょ?」

「なるほどな。わかった、聞いてみる」


言うが早いかどこかへ電話をかけ始めた恭一郎をぼんやりと見やって、瑠架はこれからどうしたものかと考えた。



攻略対象者との接触を最低限にする、というのはさすがにもう無理がある。

少なくとも弟である瑠維、従弟である遥斗、そして貴重な協力者である恭一郎と距離を取るのは難しい。

それ以外の四条拓人、獅堂蓮司、ヴィオル・アルビオレ、この3人との接触を極力避けるくらいしかできないだろう。


それに加え、現在進行形で恭一郎に頼んでいるのが四条……まだ『四条』の名を継ぐ前、『大野』姓を持つヒロインゆりあの素行調査。

彼女が果たして記憶もちの転生者であるのかどうか、彼女に対する四条の扱いはどうなるのか。

どこからどこまで、どうシナリオに絡んでくるのか。

それを知って予測するためにも、情報は必要不可欠ではある、が。


(私自身が今できることってなんだろう?)


瑠璃のヤンデレ化を阻止することか。

瑠維を純粋培養のまま見守り続けることか。

それも確かに大事だが、一朝一夕に答えがでない以上は長いスタンスでやって行く必要がある。

それよりも、今の彼女にできること。それは。


「連絡がついたぞ。今度から動画を撮って送ってもらえるように話をつけてある」

「ん、ありがと」


(なにができるのか、考えなきゃ。じっと待ってなんていられないよ)




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