EXTRA-STAGE.3 あたしのため、世界はあるの
予告していたヒロイン日記です。
日記なので、この回だけ一人称で進みます。
10月15日 雨
ママが死んだ。
病気だった……胃がん。気づいた時にはもうあちこち転移してて、無理だったみたい。
最後にはもう言葉も話せなくなってて、あたしは堪えられなくなって病室を出てた。
死に目に会えなくて残念だったね、なんて看護師さん達が声をかけてくれてるけど、別にそんなのどうでもいい。
だって。
ママが死んだってことは、あたしがパパに引き取られるのが決まったってことなんだもん。
この日を待ってた。ずっと、ずっと。
ママが死ねばいいなんて酷いこと思ってたわけじゃないの、でもね……いい加減ウザいなぁって思ってた気持ちならあったかな?
ママは、この世界の中心であるあたしを生んでくれた人。だから大事。
でもここで死ぬのは運命だったの。ずっと前から、あたしが生まれた時から決まってたんだから。
だから、安心してねママ?あたし、絶対に幸せになってやるんだから!
12月10日 みぞれ
拓人さんがあたしを迎えにきてくれた!ゲームじゃパパが来るはずだったのに!
やっぱり早めにコンタクト取っといて良かったぁ……最初はパパの本当の娘だって聞いてすっごく嫌な顔してたけど、今じゃデレッデレに甘やかしてくれるんだもん。
ツンな顔がデフォルトの拓人さんだけど、その分デレるとめちゃくちゃ甘いのよねー。
「つらかったな、ゆりあ。今日からは一緒に本家の方で暮らそう」
「拓人さん……でも、あたし……皆さんのお邪魔になりませんか?」
おっと、危ない危ない。ここで素直に喜んじゃ好感度ダウンしちゃうもんね。
ツンデレ担当拓人さんの好みは、人を気遣える賢い子。
だからあたしにしては頑張ってそういう自己啓発系の本とかいっぱい読んだし、そういうケナゲ系な子が出てるドラマとか見たり漫画読んだりもしたんだから。
拓人さんが最近ちょこちょこ一緒に連れてくるもう一人の攻略対象、ヴィオルさんも一生懸命頑張る子が好みだったはずだしね。キャラ変えなくていいって楽だわー。
「ゆりあはいい子だな。だけど心配はいらない。唯一反対していた母は体調を崩して海外で療養しているし、他の兄弟達は今か今かと楽しみにしているのだから」
「そうですか、お母様が…………大変なんですね」
「言ってはなんだが、母は奔放な人でね。今頃海外で羽を伸ばしているだろうさ。だから気にする必要はない。さ、行こう」
思ったとおり、好感度はグンと上がったみたいね。ふふっ、やったあ。
あ、ちなみに病気療養なんて言われてるパパの奥さんだけど、本当はパパが追い出したみたいなの。
まぁ、ね。拓人さんはその人の連れ子でパパとは血がつながってないわけだし、長男って言っても立場が弱いから。そこにパパが溺愛してるあたしがきたら邪魔、って思ったんでしょ。
でもざーんねーんでしたー。パパの愛はマリファナ海溝(注:正解はマリアナ海溝です)より深いんだから!
そうしてあたしは、高校入学を前に『大野ゆりあ』から『四条ゆりあ』になりました。
えへへ、これから本格的にあたしのための物語が始まるのね。た・の・し・みっ。
2月4日 くもり
今日は待ちに待った月城学園高等科の入学試験の日!
初等科入試の時は可愛い失敗をしちゃったけど、これまでずっと公立の小中学校でトップクラスに君臨してきたのは伊達じゃないんだから。
それに、最近は毎日ニュースを見たり新聞を読んだりもしてるし、面接で時事問題とか聞かれても平気だもん。首相の名前だってちゃんと言え…………あれ、今の総理大臣って誰だっけ?
「パパ、お待たせ!」
「ああ、ゆりあ。どうだい、ちゃんと実力を出せたか?」
「うんっ。あのねあのね、すっごく簡単な問題ばっかりだったの!全部できたかもしれない」
「それはすごいな。成績が上位だと特待生に選ばれることもあるから、午後の面接もその調子で頑張るんだぞ?」
特待生かぁ……確かゲームのゆりあは特待生だったはず。
あれってすごくおいしい特典がついてくるんだよねー。食堂で割引がきいたり、買い物のチケットがもらえたり、委員会とかも優先的に決められたり。
生徒会に推薦されたり……そのまま生徒会のメンバー達に囲まれて逆ハーしちゃったり……なあんて。
あ、午後からの面接はパパと一緒だったんだけど、にこにこ笑ってたらすぐ終わっちゃった。
結果発表は郵便で来るんだよね?
でもその前に一応滑り止めの公立高校受けなきゃいけないんだけど、なんか面倒くさーい。
どうせ受かってるに決まってるんだもん、受けなくても良くない?
3月6日 快晴
なんで!?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!
認めない認めない認めない認めない認めないったら認めない!!
あたしの回答は完璧だった!全部埋めたし回答の見直しもしたし、時間も余ったくらいなのに!
なのになんで!!なんで届いたのが【不合格のお知らせ】なの!?
これってなんかおかしいよ!何かの間違いだよ!そうだよ、間違いに決まってる!!
……そうだわ、事務の人が他の人と間違えちゃったのよ。しっつれいしちゃーう。
すぐにパパにお願いして学園に問い合わせてもらった。
けど、間違ってませんって返事だったって。……ウソ。ウソだよ、そんなの。
そうだ!これ、誰かの嫌がらせかも。
ちょっと前まで普通の一般人だったあたしがいきなり四条家のお嬢様としてみんなに愛されてるから……他の人に嫉妬されちゃったんだわ。そうに決まってる。
んーっと、可能性のありそうなライバルキャラってやっぱり藤堂姉妹かなぁ。
あたしがあの学園に入ったら遥斗君も恭一郎君も瑠維君だってあたしに夢中になる。
だからそうならないように、って汚い手使ったんだわ。確かあそこの父親の勤めてる会社って、あの学園への寄付金トップだったはずだから。
許せない。世界の中心はあたしなのに。
パパにお願いして、藤堂のうちなんて潰してもらっちゃおうかな?
3月10日 大雨
なんか最近、パパの帰りがすごく遅い。
お仕事、上手く行ってないのかな?ゲームじゃそんな描写なかったはずなのに。
四条家って言ったらもう誰も逆らえる人のいないほどの実力があって、同じ数字持ちの家の中でもトップの権力があったはず。
前にパパのお仕事部屋から聞こえてきた会話では、「企業乗っ取り」がどうとか、「不良債権」がどうとかって言っていたみたいだし、他の会社を乗っ取ってる最中なのかも。
だったら忙しいはずだよね。どうせなら藤堂の家がやってるエトワールを乗っ取ってくれないかなぁ?
あそこのプリン、本気で美味しいんだよねー。
3月15日 くもり のち 小雨
納得できない。……でも、学校に行かないわけにもいかないからしょうがない、のかなあ。
あたしは、滑り止めに受けてた公立の女子高に通うことになった。
制服は可愛いんだけど、頭のレベルはあんまり良くないから正直すっごい不満。
しかも女子高だし、潤いがないよね?ね?
「ゆりあがその制服を着ると、まるであの学校自体が良家のお嬢様校になったように思えるよ。授業は簡単すぎてつまらないかもしれないけど、頑張り屋さんのゆりあならどこだってやっていけるさ」
でもでも、ヴィオルさんがそうやってほ、ほっぺにちゅうってしてくれたからね!してくれたからね!
うふふふっ。
そう、そうよ。そうだわ。
攻略対象って言っても、ゲーム開始前に拓人さんやヴィオルさんは落としちゃったも同然だし?
蓮司君だって、海外から戻ってきてくれてるはずだもん。
他の人も、ゲームみたいに学園に行かなきゃ会えないなんてこと、ないんだわ。
会えないなら、会いに行けばいいのよ。
だってあたし、今は【四条】なんだもん。家の名前で用事を作って呼び出すことだってできる。
会っちゃえば、きっと彼らはあたしを見てくれる。愛してくれる。求めてくれる。
『俺にはゆりあだけだよ。あんな婚約者、もういらない』なぁんて!
7月9日 晴れ
やっぱりここの授業ってたいくつー。
程度が低いってことはないけど、先生達も殆どがオバサンばっかだしキンキン声で怒ってうるさいし。
クラスメイト達はカレシのこととか合コンだとかカラオケオールだとか、オトコのことばっかり。
そういう誰でもいいやーみたいなビッチには、イイオトコは寄ってこないんですよーだ。
ってわけで。今日は迎えに来てくれた拓人さんと放課後デートでーす。きゃっ。
「そういえば蓮司君、学校ちゃんと通えてるんですか?」
「……私が一緒にいるのに、他の男の話題とは酷いな。人には誠実に向き合いなさいって教えたはずだけど」
「あっ。ご、ごめんなさい拓人さん……ちょっと噂に聞いたから気になっただけなの。もちろん、一番は拓人さんだからね?」
「一番、か。ならいいが」
ふぅっ、危なかったあ。
そう。ある程度親密度が高くなったら、嫉妬イベントが起こるんだったよね。
パターンによってはヤンデレちゃう人もいるんだから、気をつけないと。
このまま順調に逆ハー狙ってくなら、誰の好感度も落とせないもんね。
特に拓人さんの場合、一度ヒロインに失望したらそのままバッド一直線なんだから要注意だよ。
ちらっと上目遣いで顔を盗み見たら、パッチリ視線があってふいっと顔をそらされた。
あ、これって照れてる時のスチルと同じ。
「そうだ、今日はゆりあの大好きなエトワールのプリンを買って帰ろうか」
「うわあっ、拓人さん大好きっ!」
12月24日 雪
「ゆりあ、旅行に行かないか?イギリスでもフランスでもイタリアでも、行きたがっていたところはどこでも連れてってあげるよ?」
ついにヴィオルの『君を独り占め』イベント、キター!!
これがきたら、彼の好感度はもうマックスまであがったってこと。ゲームだったらエンディング一直線になるはずの大事な最後のフラグ。
でも、逆ハー狙いの今のあたしはこのお誘いには乗れない。
乗っちゃったらそのまま旅先でいい雰囲気になってそうして……ピー(自主規制)な展開が待ってるんだもん。もったいないけど、ルート確定フラグは折らせてもらいます。
「え、えぇっ!?そ、そんなあ……二人きりの旅行なんて、まだ早すぎますよぉ。恥ずかしい……」
「照れるゆりあも可愛いよ。でもそっか……楽しみに計画してたんだけど、残念だよ」
「あの、でもあたしまだ16歳だもん。まだ、早いかな、って」
「そう?なら来年の夏休みくらいなら、誘われてくれるのかな?」
きゃあああっ!!きたきたっ、予約イベントっ!
二人きりはまだちょっと、ってためらうとこの『それじゃもうちょっと待とうか?』っていうこれがランダムで発生するのっ。
そう、あたしの狙いは来年の夏。
月城学園高等科の修学旅行って、夏休み中にあるんだよね。しかも海外。
王道担当の一宮遥斗を狙ってる場合、この修学旅行はイベントの宝庫なの。しかも婚約者の藤堂瑠璃との喧嘩イベントから、もし好感度調整ができてればプライベートで合流してきた瀧河恭一郎とのVSイベントとかも発生するし。
そのためには、恭一郎君とも会っておかないとね。
恭一郎君とのイベントで一番盛り上がったのはバラ園での嫉妬イベントだっけ。
バラ園だったら外部の人も入れたはずだし、こっそり今度行ってみようっと。
待っててね、みんな。あたしがみんなにほんとの愛を教えてあげるから。
 




