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STAGE.18 瑠架さんはキンギョソウのような人だ

注意:この話にだけ「TS転生」という話題が出ます。さらりと触れているだけで今後引きずることはないですが、苦手な方・アレルギー反応が顕著な方はスルーしてください。




【藤堂瑠架とかけましてキンギョソウととく。そのこころは?】



「なんだ、謎かけか?」

「要するに、二つの共通項を探せってことだと思うんだよね。……なんだろ?」

「なになに?花言葉は図々しい・図太い・騒々しい・でしゃばり・予知?なんだ、喧嘩売ってるのか、これは」


自分のことでもないのに、恭一郎は眉をしかめて不快感を露にする。

とはいえ、彼の読み上げた選択肢の中に『清純な心』が最初から入っていないのは、逆に瑠架に対して喧嘩を売っているようなものだ。

そういったことを差し引いたとしても、確かに謎の少年の発言は深読みすればするほど腹立たしい。


(彼が全く無関係な通りすがりの人ならそれほど気にしなかったんだけどねぇ)


金にも見える薄茶の髪に淡いブルーの瞳。

一見するとクォーターである遥斗以上に日本人離れして見えたその少年の容姿を恭一郎に話して聞かせると、彼はあっさりとそれが【獅堂しどう蓮司れんじ】であると指摘した。



【獅堂蓮司】……月城学園附属幼稚園時代から病弱で、どうにか初等科進学の試験に合格したにも関わらず療養のためにと学園を離れ、海外留学した攻略対象の一人だ。

年齢は瑠架のひとつ下なので、現在は10歳。瑠架の逢った少年の外見年齢と一致する。

彼は純日本人的外見の両親から生まれ、当初は妻の不貞が疑われたらしいのだがすぐにDNA鑑定し、紛れもなく両親の子であると断定されている。

が、色素異常が遺伝子単位で起こっているのか、生まれつき病気がちであるとのことだ。


「病気になりやすいってのは変わらないらしいが、それでも体力をつけるトレーニングを受けて学校に通える程度には回復したようだな。彩菜と同じように中等科で編入試験を受けて、受かれば復学するという形を取るという話だ」

「結局、彼もこっちに戻ってきたって事か……シナリオが関係ないって言っても、なんか因縁めいたものを感じるね」

「アホか。わけないだろ。獅堂は四条の分家のひとつだ、おおかた大野ゆりあが父親にねだって呼び戻させたんだろうさ」


(いや、うん……その前に彼女がうちの高等科に編入できるかどうかが問題なんだけど)


初等科の時点で問題大有り、知る限りでは現在まで猛特訓をしているような様子は見られない。

毎年初等科の入学試験レベルのテストであれば、いくら彼女でも同じ失敗は繰り返さないだろうが……問題となってくるのは高等科2年という一般と比べてかなりハイレベルな試験に、彼女が立ち向かえるかどうか、だ。


「あのさ」

「なんだ?」

「まさかと思うけど……彼女、今現在も『私はあの学校に入る運命なの』って思ってない、よね?」

「…………いや、それはさすがに…………あるかもな」

「だよね」


ありえそうで怖い。

二人は視線を合わせたまま、異口同音にそう呟いた。





『ひとまず獅堂蓮司のことを探ってみる』

と恭一郎が宣言してから1週間後。

再会の機会は突然訪れた。


「もしかしたら言い方が悪かったかな、と思って。誤解を解きにきたんだ」


そう言って、獅堂蓮司本人が瑠架にコンタクトをとってきたのだ。

前触れもなしに突然藤堂家を訪問してきた蓮司は、気を使ったのか和菓子を携えていた。

そして、瑠架と話がしたいからと応接室に二人きりになった途端、とんでもないことを言い出した。


「ずっと気になってたんだ。大野ゆりあ(ヒロイン)の付け入る隙がないほど出会いが潰されちゃってるし、常に先手先手を打たれてる気がして。そんなことできるのは誰だろうって観察してたら、妙に活発に動いてるのが瀧河恭一郎君と君、藤堂瑠架さんだった。これはもう転生者で間違いないかなー、って思ったのはその時だよ。最初はね、ありがちな『悪役なんかよりヒロインに成り代わってやる!』的なものかなと思って、ちょっと警戒してたんだ。なのに俺達攻略対象には接しないようにしてるし、それも違うかなって。ちなみにキンギョソウにこめた意味は【予知】だよ。まんまでしょ」



瑠架はもう呆気に取られるしかなかった。

蓮司の口から飛び出した『ヒロイン』『攻略対象』『転生者』『悪役』という単語の数々。

これから導き出される答えは、彼もまたそうであるということ。

瑠架がそう確信したタイミングで、彼もそれに気づいたのか「うん」と素直に頷いてみせた。


「そうだよ、俺も転生者。君の場合はどうだか知らないけど、俺はちょっと特殊なケースでね。ラノベなんかで読んだことない?TS転生モノ」


『TS転生』とは、トランスセクシャル……つまり前世の性別とは別の性に生まれ変わることをいう。

彼がそれを出してきたということは、つまり前世では現在と違う性別だったということで。


(…………元女性、ってこと?うわあ、そういうのってある意味キツいかも)


前世の記憶がどこまであるのかにもよるだろうが、もし前世で生きてきた生活の記憶が残っているのなら、その女性の意識と男子の身体という不釣合いな状況が彼の精神的な負担になっている可能性は高い。

もしそうなら、病弱というのも精神的なものからきているとも考えられるわけだ。



獅堂蓮司は、何故か幼い頃から体が弱かった。色素が薄いことには大いに疑問を感じたものの、病弱なのはそういう体質なんだろうとさして気にもしていなかった。

だが彼がそれに疑問を感じたのは、前世の記憶が甦った時のこと。

【キミボク】という乙女ゲームをプレイした記憶も一緒に思い出した『彼』は、自分がその攻略対象者と同じ名前であること、だが本来ゲーム上では体力バカの脳筋であったこと、それと現在の自分を照らし合わせて何かがおかしいと首を捻った。

考えるだけでは埒があかず、彼は恐らくゲームと同じ名前であるだろうヒロインや他の攻略対象者達のことを独自に調べ始め、そして早いうちにここがゲームの世界ではなく良く似たリアルだと確信したのだ。


「記憶が戻ったのは、初等科に入ってすぐの頃だったかな。四条……今は大野ゆりあだっけ、彼女が接触してきたんだよ」

「へ?」

「ほら、うちって四条の分家でしょ?内輪だけの集まりって結構な頻度であるわけ。そこに紛れ込んでたらしいあの子が、俺を見て嬉しそうに接触してきてね。で、自己紹介もなしにいきなりなんて言ったと思う?『キミ、レンジくんだよね?ねぇ、こんどいっしょにサッカーみにいかない?』だよ?今の俺、スポーツ全般に興味ないんだよねー。もちろん全力でお断りしたけど」


ゲーム上の獅堂蓮司は、サッカーが得意なスポーツ少年だ。

サッカーのみならず体を動かすスポーツなら大概は手をつけているし、それなりにこなせる。

勿論、ゲームで彼をサッカー観戦に誘えば『俺と同じ趣味なのか』と大層喜んでくれ、一気に好感度もアップするのだが。

ここにいるのは、小さい頃から外に殆ど出られないひょろひょろの虚弱児である。

そんな彼にいきなり『サッカー行こうぜ』などと誘ったところで、好感度が上がるどころかむしろ駄々下がりなのは当たり前のことなのだ。


(う、うーん……つくづく残念なヒロインだ……)





「で、結局なんだって?」

「うん……あの失礼なヒロインをプギャーしたいから自分も一枚噛ませてくれって。ところでプギャーするってなに」

「そのくらいググれ。とにかくわかった、俺の方から改めてコンタクトを取ってみよう。しばらくお前の方からは接触するなよ」


と恭一郎に釘を刺されてから、しばらく瑠架はいつも通りの日々を送った。

相変わらず遥斗は瑠璃にべったり甘々で、瑠璃も我侭放題になるどころかちょっと泣き虫なところのある優しい姉というスタンスは変わらない。

瑠維も彩菜とくすぐったい交流を始めたようで、たまにその微笑ましい交流を遥斗や恭一郎にからかわれては頬を朱に染めていたりする。

瑠架自身も相変わらずダンス教室に通いつつ児童会の仕事をこなし、時々クラスメイトの相談に乗ったり付き合いのある家のパーティに招かれたりと、実に慌しい。

それこそ婚約者と一緒にすごす時間もとれないくらいだが、彼はそれ以上に忙しいらしく特に嫌味も文句も言われてはいない。



そしてそのまま1ヶ月が経ったある日のこと。

久しぶりに恭一郎から瀧河家に招かれたと思ったら、行った先には獅堂蓮司も一緒にいた。


(ああ、なるほどねー。こうなったってことは、話が纏まったのかぁ)


「過去と現在の素行調査に関係者からの事情聴取、大野ゆりあの言動チェックにこいつのポリグラフ検査までやったが、疑わしい要素は精々で1ナノグラムくらいだな。というわけで、こちらの事情も簡単に説明済みだ」

「はぁ」


ちなみに『1ナノグラム』は『10億分の1グラム』のことだが、それはこの際どうでもいい。

とりあえず蓮司が疑わしいと思われる要素はほぼなかったということなので、瑠架もようやく肩の力を抜いてホッと背凭れに凭れ掛かった。


「大体は瀧河君から聞いたけど、これから特にやることも決めてないんだって?」

「うん。ひとまずこっちの婚約関係自体はシナリオと同じだけど、経緯が違うしね。瑠維にも密かにお相手がいるし……えっと、獅堂君の状況も違うよね」

「あ、俺のことは蓮って呼んでもらえるとありがたいな。一応オトコだって意識して俺って言ってるけど、このおっとこらしい名前は慣れなくてさー」

「あ、じゃあ蓮君でいいかな?で、蓮君の状況も違うわけだし、そこまでシナリオを警戒する必要もないかなって思ってるんだよ」

「まぁ、確かにね。問題はあと5年後にいきなりゲーム補正が出てこないか、だけど」


そうなのだ。

今は時期がゲームより前ということもあって『シナリオがない=個々が意思を持って生活している』と実感できているが、ゲーム開始時期になって突然乙女ゲーム的補正が降ってこないとは誰にも断言できない。

ないと思いたいがわからない、というのが現時点での三人の共通意識だ。



「とりあえず、大野ゆりあの動向は変わらずチェックする。四条家の動きに関しては、蓮に頼んで構わないか?」

「りょーかい」

「他の攻略対象……四条拓人とヴィオル・アルビオレについてだけど、どうする?」

「拓人さんについては俺が探ってみるよ、一応交流あるし。で、ヴィオルだけど……最近あった内輪のパーティに来てたのは見かけたよ。一緒に探れたら探ってみる」


そんなわけで、二人から三人に増えた共犯者達は定期的に連絡を取り合うことを約束し、この日はそのまま別れた。



「獅堂蓮司については判断保留のままでいろよ。信用しすぎてバカを見るのは御免だからな」


別れ際、瑠架にだけ聞こえるようにそう囁いた恭一郎の眼差しはどこまでも鋭かった。




次回、ヒロイン日記(笑)

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