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魔女狩りのアルカイド  作者: 明智 透
冥界からの使者ーー理由ーー
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 颯太には、苦手なものが二つある。それが、颯太がこの時間に遊園地に行くことを了承したことと、深くかかわっていた。


 颯太の苦手なもの。それは、幽霊を含む怪奇現象と、ジェットコースターなどの絶叫マシンだ。理由は単純で、どちらも、破軍(はぐん)の剣で相殺することができないからだ。

 閉園時間まで間もないということで、ちゃんと時間を作って行くよりも、乗れるものが限られてくると思っていたのだが……





「面白かったですね、先輩。特に鎌を持った死神が追っかけてきたところは最高に怖かったです」


 テンションが上がってきたのか、綾花は早口でまくしたてる。颯太は、そだね、とだけ答え、肩の荷を下ろす。


 颯太の思いとは裏腹に、絶叫マシンめぐりはスムーズに事が進んだ。ジェットコースター、フリーフォール、ウォーターライド。極め付けに、シーズンでもないのに取り付けられているお化け屋敷。平日の遊園地がこれほどまでに人がいないということもあるが、綾花が絶叫マシンが大好きであるということが計算外だった。


「御影先輩。最後にあれ乗りませんか?」


 いえ、結構です。と言いたかったが、疲れ果てて声が出なかった。

 最後だし、年上の威厳を守り抜くかと思い直し、しぶしぶ顔を上げる。するとそこには、


「……観覧車?」

「はい。子供っぽいかもしれませんが……。あ、嫌なら、また同じのに乗るっていうのでもいいですけど」

「いやいやいや、いいよ、観覧車。遊園地の一番人気といえば観覧車っていうぐらいだしね」


 何としてもこれ以上、苦手なものに付き合いたくないという思いから、颯太は意味の分からないことを口走る。


「そうでしたっけ? 私はジェットコースターが一番人気だって聞いたことがありますが……」

「いいから。乗りたいんだったら、乗ったほうがいいって」


 もう正直、あの破軍の剣の効力がない恐怖から逃れられるのなら、なんだっていい。颯太は綾花の手を握り、少し強引に観覧車へと連れていく。


「へ? あぁ~」


 赤面する綾花を見て、颯太はあることを思い出す。このシチュエーション。閉園時間ギリギリに、男女が二人で観覧車に乗る。しかも、手を握っている。……ということは。


「ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ」

「いえ……お、お気になさらずに」


 だが、時すでに遅く、係員はにやにやしながらこっちを見ているし、密室に二人きりになり、とても気まずい。


 これ、想像以上にやばくないか?


 小学生以来、観覧車に乗ったことがなかったのでわからなかったが、この狭い空間だと、いろいろと意識してしまう。


「あ、あの。颯太先輩」

 そろそろ頂上に着くかというところで、綾花が口を開く。頂上付近、そして、急に名前で呼ばれたことに、颯太は激しく動揺する。


「な、ななななに?」

「先輩は、その……魔女狩りのこと、どう考えてますか?」

「……え?」


 だが、綾花の言葉は、颯太の予想の斜め上を行っていた。それでも、綾花は告白と同等に緊張したらしく、プルプルと小刻みに震えている。


「私は、その、言いにくいんですが……」

「俺もやるべきではないとはないとは思うよ」


 不意に漏らした颯太のセリフに、綾花は呆然(ぼうぜん)と見つめてくる。


「あれ? 君も間違っていると思ったから、こんなことを聞いたんじゃないのか?」

「いえ、それはそうなんですが……まさか、魔女狩り否定派だったのが以外で。倉嶋さんからは、先輩は復讐のために魔女狩りをしていると聞かされていたので」

「それはまぁ、否定はしないけどさ」


 颯太が魔女狩りを間違ったものだと思い始めた理由は、アルシアという魔女のおかげだ。どこまでそのことを話せばいいのかはわからないが、彼女の名前はまだ、出すべきではないと判断する。


「さすがに過去にとらわれていても仕方ないな、って最近思い始めていてさ。罪のない人たちを殺しても、何も解決しないんだよ」

「そうですよね!!」


 綾花がそう言い、身を乗り出す。


「やっぱり、間違ってますよね。私は何度も間違ってるって言っているのに、師匠は耳も傾けなくて。そして昨日突然、今日からお前が執行者だ、って言われても、納得するはずないじゃないですか! だいたい師匠は、頭が固くて、頑固で、そのくせ料理や掃除なんかはからっきしだめで、いっつも弟子の私に押し付けてくるんですよ!!」

「わかった。わかったから、少し落ち着いて。それに、ゴンドラの中で立つのは控えたほうがいいって」


 第一印象では、おとなしそうだと思っていたが、遊園地に来てからの彼女の様子から察するに、案外、活発な女の子だったりするのだろうか。


「すみません。つい興奮してしまって」

「いいって。俺も、綾花みたいな考えの子がいることがわかって、うれしいよ。それで、倉嶋さんからの依頼のことなんだけど……」


 颯太は自分に内に秘めていた、魔女を逃がそうとしていたことを、綾花に打ち明ける。


「なるほど。確かに問題はなさそうですね。あの人たちは、何も罪を犯していないんですし」


 ふと外を眺めると、観覧車は終わりに差し掛かっており、地上にある売店や係員の人たちが大きく見える。


「終わりましたね。今日は付き合ってもらってありがとうございました」

「俺の方こそ。なんかすっきりしたよ。ありがとう」


 係員が開けた扉から片足を出しながら、綾花は、じゃあまた来ます? と声をかける。

 しばらくは足を運びたくはないが、楽しんでいた綾花や、目の前にいる係員のことを気にしてしまい、颯太は言葉を濁す。


 観覧車へと続く階段を下りていると、ふと、誰かの視線を感じたような気がして、振り返ってしまう。


「……どうしたんですか?」


 心配そうな目で颯太を見つめる綾花に、颯太は誰もいないことを確認し、


「何でもないよ」


 と言う。


 気のせいだよな。と自分に言い聞かせ、歩を進める。観覧車の鉄組に立ち、颯太を見つめる影に気づくこともなく。





 颯太が家に着いたのは、少し遅めの七時半ごろだった。

 鍵を開け、誰もいないはずの部屋に入ると、そこにはアルシアがいく手を阻むように仁王立ちしていた。


「遅かったね。……何かあったの?」

「ああ、ちょっと執行者の仕事について、いろいろ話し合っててな」

「へぇ。女の子と二人っきりで遊園地で遊ぶことが颯太の仕事だったんだね」


 颯太はびくっと震え上がる。決して後ろめたいようなことは無いが、アルシアのこの態度から、何かを誤解しているように感じた。


「何で知ってんだよ」

「意外だったよ。颯太が絶叫マシンやジェットコースターが苦手だったってこと」

「答えになってねえよ!!」


 アルシアはくすっと笑うと、


「魔術でね、颯太のことずっと見てたの。そしたら可愛い子とデートしてたから、思わず見入ちゃった」

「いや、デートじゃなくて、あれはだな……」

「手、つないでいたのに?」

「だから違うって!!」


 理解しようとせず、どう見ても面白がっているアルシアを見て、颯太はため息をつきそうになる。


「あのさ。あの子は新しい執行者で、俺と同じ考えを持ってたから、いろいろ相談してただけだよ。てかお前、観覧車の上でずっと見てただろ」


 正確には、観覧車に乗ってから、綾花も同じように悩んでいると気づいたわけだが、さすがに会話の内容までは聞いてないだろうと高を括る。


「颯太、何言ってるの? 私、観覧車から颯太たちを眺めたりしてないけど」

「いや、冗談はよせよ……」


 しーんと静まり返った空気。そんな中、颯太の額から、たらーっと冷や汗が流れる。


「颯太、何かに取り憑かれてるんじゃない?」

「や、やめろって。そんなこと、あるわけないだろ」

「颯太が気づいていないだけかもよ。怖いからって、私のとこに逃げてこないでね」


 そう言い残し、アルシアは次元魔法でその場を去った。

 颯太は、絶対にありえない、と呟きながら、部屋の明かりをつける。翌日、あんなものを目にするとは思わずに。

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