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魔女狩りのアルカイド  作者: 明智 透
冥界からの使者ーー理由ーー
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 颯太は魔女狩りをするために、ロザータに住んでいる。そしてその命令、つまり、こいつが魔女だとわかったので殺せ、とか、魔女について調査しろ、と言ってくるのがここ、ロザータ政府だ。


 正直、颯太は成り行きで魔女狩りを始めてしまったため、颯太はここのことをあまりよくは知らない。颯太に命令を出している倉嶋のことも、結構いい立場にいる愉快なおっさん、としか知らない。というか興味がなかった、とでもいうべきか。


 颯太は魔女狩りをするにあたって、たった一つの理由さえあれば、それでよかった。無論、エルドのような快楽ではない。だが、それと同様に、とてもくだらないものだったということは、今ならはっきりとわかる。

颯太が魔女を殺してきた理由、母親を魔女に殺された復讐が、いかに虚しいだけのものだったのが。





 颯太は扉の前一呼吸おいてから、ドアをノックする。


「どうぞ」


 優しい声で応答する倉嶋に、颯太は失礼します、と声をかけ、部屋の中に入る。


「何の用ですか? 倉嶋さん。黒ミサについての新しい情報でも入ったんですか?」

「いやいや、君が脱走したレノン・ジュノールを倒したおかげで、今はこれといった動きはないよ。……今は、ね」


 倉嶋は机の中を詮索(せんさく)すると、一つのA4サイズの茶封筒を取り出す。


「君にお願いしたいのは、別件だ。とりあえず開けてみてくれ」

「……まあ、倉嶋さんの趣味はよ~くわかりましたけど」

「え? あ、え!?」


 颯太が開いた茶封筒の中には、正直、見たくもなかった十八歳以下NGの雑誌が入っていた。倉嶋は慌ててそれを奪い返すと、別の茶封筒をよこす。


「ははは……いや、別に好みってわけじゃないけどね。目の保養とか気分転換とか、いろいろとできると思って」


 言い訳をする倉嶋を横目に、颯太は警戒しながら中身を見る。今度はちゃんとした依頼のようで、数人の女性の写真、住所などの個人情報が記されていた。


「魔女の疑いがある人の中で、刻印を確認できた人たちをリストアップしておいた。その人たちを殺して、黒ミサに奪われる前に魔導書を回収しておいてもらいたい」

「罪のない人たちを殺せ、ということですか?」


 倉嶋は何の感情もなく、そうだよ、と即答する。


「なぜですか!? なぜ、そんなに簡単に人の命を奪う命令が出せるんですか!?」


 憤りながら問いただす颯太に対し、倉嶋は冷静に答える。


「颯太君は、魔女を殺すことが間違っている。だから、この依頼は受けることができない、と言っているのか?」

「はい。彼女たちはれっきとした人間です。俺たちと何にも変わらない人たちを殺すのはもう嫌なんです」

「君は突然、どうしたというんだ……」


 倉嶋は、やや乱暴に椅子の背もたれに体を預ける。


「君だってわかるだろ? 七年前の悲劇に続き、レノン・ジュノールが起こした破壊活動が何を示すのかを。魔女狩りがよくないことぐらい、僕だってわかっているよ。でも、この国の決まりは? 人々に刻まれた魔女への恐怖は? それでも君は、魔女狩りをやらないというのか」


 いつもとは違った倉嶋の姿を目の当たりにし、颯太は思わず尻込みする。

 やがて倉嶋は、椅子の姿勢を直し、こほんと咳払いをする。


「……すまないな。感情的になってしまって。でも、颯太君にも分かってほしいんだ。なにがあったかはわからないけど、僕たち政府だって、何にも感じずにこんなことをやっているわけじゃないってことを」

「はい……。悔しいですが、俺もまだ、自分の答えを出せていません。倉嶋さんの話を聞いて、正直、どうすればいいのかわからなくなりました。魔女たちをとるのか、この国をとるのか」


 倉嶋の言い分は、悔しいがよくわかった。確かに魔術というものは、未知で、恐ろしいものだ。通常の人たちが遠ざけたくなるのも無理はない。


 そこで颯太は考え方を変えた。倉嶋の依頼は魔女を殺し、魔導書を奪うこと。つまり、魔導書さえ奪うことができれば、とりあえずは任務成功と言えるだろうし、黒ミサの目的の疎外にもつながる。


 極論だが、魔女を殺さなくても済むはずだと思い、颯太は決して横にふるまいと決めていた首を縦に振る。


「わかりました。この任務、受けますよ。けど、彼女たちを殺せるかどうかは、保証できませんよ」


 自分を責めていて、どよんとした顔だった倉嶋の顔がぱーっと明るくなる。


「そうかそうか。ありがとう。ついでと言っては何だが、新たなる《執行者》のレクチャーも頼みたい」

「……執行者?」


 聞きなれない言葉に、颯太は、はて、と首をかしげる。すると、倉嶋は思い出したかのように、ぽんっと手をたたく。


「あぁ、そうか。颯太君には、直接言ってなかったんだな。悪かったよ。執行者ってのは、君たち、《七星の魔導書》に記された七人のことだよ。どうだい? かっこいいだろ?」


 颯太はその言葉に、なるほど、と納得する。国民にとって、颯太たちは悪の魔女どもを裁く正義のヒーローといったところか。


「で、新たな執行者ってのはどういうことなんですか? 誰かが死んだ、ってわけじゃないですよね」

「死んではいないんだけどね。柏木のじいさんが腰を痛めてしまってね。ろくに弓を引ける状態じゃなくなったんだよ。昨日電話があって、執行者の任をお弟子さんに任せるそうだ」

「そこで俺にレクチャーしろ、ってことですか? ニコラスさんの方が適任じゃないですか?」


 正直、同行者がいると、魔女を逃がすことが難しくなる。颯太の意志を突き通すには、新たな執行者というのは邪魔な存在でしかない。


「新しい子は、颯太君の一つ後輩なだけだし、何より日本人だからね。中等部とはいえ、同じエルダート学園の生徒でもあるから、やっぱり颯太君が手とり足とり教えてあげることが一番ベストなんじゃないかな?」

「いや、でも……」


 ここは何としても断りたかった。倉嶋の会話にも出てきた柏木信玄という人は、責任感が強い。言われたことはすべてやり通すし、時間にも厳しい。そのような人の弟子が、颯太が魔女を逃がすことを手助けすることを快く思うはずがない。


「やっぱり無理ですよ。俺が誰かを教える立場になるなんて……」

「そっか。話は変わるけど、君の住んでいる部屋、抑えるのに苦労したんだよね」

「……はい?」


 突然、淡々と語りだした倉嶋を、颯太は呆然と聞き流す。


「魔女狩りが理由で転入したのがばれるのが嫌だっていうから、長期留学の手続きもしたし、留学生が住んでても怪しまれたりしないような家賃、立地、住みやすさがそろったようなところを探したり。それも、君が辛いことを思い出すような前の家の周りは外し、なおかつ、記憶に残っていて住みやすいと思えるような……」

「わかった。わかったから。引き受ければいいんでしょ。新しい執行者さんの教官役を」


 完全に倉嶋の思う壺だということはわかっていながらも、颯太はしぶしぶ承認する。日本でもロザータでも、上の人間の言うことには逆らえないのだ。


「颯太君。僕は君みたいな優秀な部下を持てて幸せだよ」

「俺はあんたの部下になった覚えはないんですけどね。執行者って名前も、今日、初めて聞いたぐらいですから」


 颯太は皮肉を言いながら、心の中で自分をなじる。ロザータは間違っている。魔女は人間だと思いながらも、結局、執行者として魔女狩りをすることを認めている。ロザータ政府の手の中で踊らされているだけなのだ。


「そんなこと言わないでくれよ。じゃあ早速、紹介しようか。……入っておいで」


 失礼します。という透き通った声と共に、部屋の中に入ってきた同業者を、目を細めながらじっと見つめる。倉嶋の態度から見ても、どうやら何かの間違いではないらしい。


「初めまして。御影先輩。大宮綾花(おおみやあやか)といいます」


 そう言い、綾花は頭を下げる。それに連動するかのように、後ろにまとめられたポニーテールがぴょこんと動く。

 彼女は制服姿で、スカートの裾から、白くてすらっとした足が伸びている。茶色の髪の毛からも、彼女が魔女狩りからは程遠い、清楚なお嬢様といったイメージを連想させる。


「倉嶋さん? 彼女は……?」

「聞いていなかったのかい? 大宮綾花君だ」

「それはわかってますよ。なんでこんな子が執行者なのかって聞いているんですよ」

「だからそれは、柏木のじいさんが腰を痛めたからだと言ったじゃないか」


 颯太は思わず大きなため息をつく。いろいろな問題があると予想されたが、まさかこのような難題に出くわすとは思いもよらなかった。


「じゃあ僕はこれから会議に出るから、あとは任せたよ。颯太君。……間違っても、変な気を起こさないでくれよ」

「は!? おい、ちょっと待てよ」


 余計な言葉を残し、倉嶋は逃げるように、綾花が入ってきたドアから出る。

 二人っきりになり、気まずい空気が颯太を襲う。


「え~と、大宮さん」

「綾花でいいですよ。御影先輩」

「あ……じゃあ、綾花。今日はとりあえず、この資料に目を通して解散ってことにしようか。学校で疲れとかも残っているだろうし」


 なんとかこの空気を崩そうと、颯太は倉嶋に手渡された資料をあさる。


「あの、御影先輩。この後、時間あいてますか?」

「え? ああ、一応」


 この後は、特に何の予定も入ってなかったことを思い出し、颯太はたじたじになりながらも答える。


「あの……でしたら、一緒に遊園地に行きませんか? 今から」

「今から!?」


 ここからそう遠くないところに、確かに遊園地は存在する。だが、今から行ったところで、移動時間も含め、一時間も遊べないだろう。


「やっぱり駄目ですよね。ごめんなさい」

「いや、駄目ってわけじゃないんだけど。……ないんだけど、さ」


 すっかり綾花にペースを崩され、颯太は、めんどくさいことになりそうだなと感じながら、そっと息をついた。

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