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うっすらと差し込んでいる朝日で、颯太は目を覚ます。サラマンダーだけでなく、メイの魔力も自分の中には感じられない。
恐らく、目的を追えたから契約を切ったのだろうと颯太は理解する。その代わりに、
「……颯太!」
「アルシア……おわっ!?」
体を起こした颯太に、アルシアは背後から抱きつく。
「おい……痛いんだけど……」
「よかった……颯太が無事で」
「……なんでお前が心配してるんだよ」
背後でアルシアが泣いているのが、背中を通して伝わってくる。
「心配すんなって。慣れない魔術に体が疲れただけだろうから。……そろそろ離れてくれないか? なにか、その……当たってるからさ」
アルシアは顔を真っ赤に染め、後ろへ飛び上がる。その拍子にずれてしまった三角帽子を直しながらアルシアは、変態、とぼそっと呟く。
「待てって!! 今のは不可抗力だろ」
「……うるさい」
アルシアは小さく身を寄せ、うるうるとした瞳でこちらを見つめてくる。
なんで命がけでレノンと戦った上に、アルシアにここまで責められないといけないんだろ。と颯太は内心で嘆きながら、乱暴に頭をかきむしる。
「なあ……レノンとサラマンダーはどこ行ったんだ? 近くにはいないみたいだけど……」
ふと、近くにレノンの姿がいないことが気になり、何気なくアルシアに尋ねてみる。あの時からかなり時間が経っているようなので、アルシアのように待ってくれているというわけなどないのだが……
だが、その問いに答えたのはアルシアではなく、一体の悪魔だった。
「彼女なら死んだぞ。落とし子の少年」
「……どうゆうことだ? 不死鳥」
颯太は立ち上がり、永き眠りから目覚めた最強の悪魔に問いかける。
不死鳥はその場に降り立つと、ふんっ、と鼻を鳴らす。
「貴様も見たであろう。レノンの魂が炎と化して消える様を」
「悪い冗談はよせよ。レノンはあんたと契約して不死身の体を手に入れたんだろ? 死ぬわけがないじゃないか」
「頭の回らないやつだな。レノンは自ら我との契を拒絶したのだ。当然、そうなれば我の力を失い、再び蘇るわけがなかろう。あの悪魔も共に消えてしまったよ」
レノンの真意は颯太にはわからない。それでも、何か伝わってくるものがあった。レノンはこのまま力を誇示するのではなく、サラマンダーと一体になることを選んだ。そのことが少しだけうれしく感じる。
「貴様が気にすることなどない。死によって解放されるものだってあるからな」
「……ああ、そうだな」
不死鳥の慰めに、颯太はうなずく。不死というものが、必ずしも幸せではないことが、その力を象徴する悪魔に伝えられたことに、どこか複雑な感情を抱く。
「……この魔導書は、世に出てはいけないってお母様は言ってた。けど、私にはあなたが悪い悪魔には見えない。……ねえ、あなたは本当に世界を終わりに導く者なの?」
いつの間にか颯太の隣に来ていたアルシアが、不死鳥に尋ねる。
「……契約者がそれを望むなら、それを実現させることができる自信はあると自負している。……が、所詮は我も単なる悪魔だ。力を導くのは我ではなく、人間だ。そいつの器量しだいで、世界を滅ぼす兵器となるのか、世の末を見るための観察者となるのかが決まる」
颯太もアルシアも、不死鳥が質問に答えるはずがないと思っていたが、意外にもあっさりと、答える。横目でアルシアを見ると、どう返せばいいかわからず、困惑しているようだ。
颯太は、アルシアの肩をポンッと叩くと、不死鳥と面と向かう。最強の悪魔である不死鳥からは、恐怖や威圧感などは一切感じられない。
「俺も、あんたが望んで世界を滅ぼそうとしていないことぐらいわかる。だから、契約者に合わせる必要なんてないんじゃないか? だってさ、自分と相性の悪いやつと一緒にいたって、つまらないじゃないか」
「ふっ……貴様らは不思議なやつらだな。我は死ぬことがない。……いや、死んでも蘇る、といった方が正しいか。人間と契りを結ぶのも、我にとっては暇つぶしでしかない」
「……その暇つぶしに、俺らはなれたのか?」
「無論だ。レノンを救うために、奴の悪魔と新たな契りを結んだ者と、生贄にされそうになったのにもかかわらず、悪いやつではないと言い切る魔祖の契約者と出会えたのだからな。……最後に名を聞かせてはくれないか?」
颯太とアルシアは互いに向き合うと、微笑みあう。
「俺は御影颯太。でこっちが……」
「アルシア・ソフィーナ。よろしく」
「御影颯太にアルシア・ソフィーナか。しかと覚えたぞ。その名を」
不死鳥は翼を大きく広げる。
「颯太よ。貴様とはまた刃を交えたいものだな。なかなか楽しかったぞ」
「敵同士じゃなくて味方として会おうぜ。……今度は、な」
不死鳥は何も言わず、朝日に向かって飛び立つ。
「ねえ」
不死鳥の姿が太陽と同化して見えなくなるのを確認すると、アルシアが口を開く。
「なんで颯太は私を殺せなかったの?」
「どうしたんだよ。急に……」
アルシアが、出会った初日に尋ねてきた質問を投げかけてきたことを、颯太はすぐに理解した。レノンと不死鳥に関わったことにより、それまで何気なしに考えてきた《死》というものを、深く意識し始めたのだろう。
「いいから……答えて」
その答えを颯太は最初、わからないと言った。けど今ならわかる。
「それは……」
だが急に照れくさくなり、颯太は押し黙る。どうしたの? と聞いてくるアルシアに、颯太は答える。
「さあ……何でだろうな」
交差する魔導書編 完
交差する魔導書編を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
自分でも、表現力が乏しい箇所が多いと感じ、もっと頑張りたいなと思いました。しかし、こうやって最後まで書ききれたので、ひとまずはよかったなと感じております。
感想や評価などございましたら、ぜひお願いします。温かなメッセージから厳しいお言葉まで、幅広くお待ちしております。(夢の中でぼろくそ言われたので覚悟はできております 笑)
それでは、第二部「冥界からの使者編(仮)」でまたお会いできる日を…




