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魔女狩りのアルカイド  作者: 明智 透
交差する魔導書ーー発動ーー
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 サラマンダーは元宿主の問いかけには答えず、ただ乱暴に鼻息を吐くだけだった。


「答えなさいよ。どうして私を裏切るの? 何でそんな奴に魔力を渡したのよ!!」


 それに対して、レノンは激しくサラマンダーを攻め寄る。今まで共に戦ってきたものが突然、相手の味方をしているのだ。いくらレノンでも冷静さを保つのは困難だった。


「だから言ってるんだよ」


 サラマンダーの代わりに口を開いたのは颯太だった。


「あんたは力に執着(しゅうちゃく)して、不死鳥と契約を結んだんだろ? こいつはそれが辛かったんだよ。政府から脱出したんだから、ゆっくりと強くなればいいじゃないか」

「……私のこと、全部理解したような口をきかないでよ……」


 レノンは拳を握りしめ、ぶつぶつと何かを呟き始める。

 颯太は何を言っているのか分からず、耳をそばだてる。そしてすぐ、それが魔術の詠唱だということに気づく。

 颯太は破軍の剣に魔力を注ぎ込むが、レノンの魔術はそれを大きく上回った。地面から噴き上げた炎は、颯太を地面もろとも吹き飛ばす。


「あなたにはわからないでしょうね。あの子に見捨てられた、私のこの屈辱と絶望を。もっと力があれば……あなたたちをねじ伏せられるほどの力があれば、ずっとあの子のそばにいられたのに!!

 颯太は教会の壁に叩きつけられる。魔術の威力自体は、破軍の剣で何とか抑えることに成功したが、壁からの衝撃はどうすることもできず、全身に痛みが残る。


「……だからなんだっていうんだよ……」


 アルシアを助けることに成功し、本来の目的を果たしたにもかかわらず、逃げ出したいという思いを必死にこらえ、颯太は続ける。


「見捨てられたからって、何なんだよ。そんなに悔しかったんなら、サラマンダーと一緒に、あがいて、もがいて、必死こいて、自分たちの力をそいつに認められればいいじゃないか。そんな魔導書なんかに頼ったりするんじゃねえよ」

「黙れ!!」


 レノンは叫ぶと、噴き上げていた炎の勢いがよりいっそ強くなる。コンクリートの地面は熔けかかっており、レノンの使用する炎が今までとは比べ物にならないことを、改めて物語っている。


「あの子は、私の生きがいだったのよ。あの子が隣にいない世界なんて、私にとっては地獄。地獄なのよ」


 巨大な爆発音と共に、颯太のいた場所が消し飛ぶ。だが、今度の颯太はメイの次元魔法で炎を回避し、空中にいるレノンの目の前に、一瞬で移動する。

 破軍の剣はレノンの体を切り裂く。レノンの血が宙を舞うが、すぐに何もなかったように、炎となって消える。


 レノンは颯太のすぐ背後で転生し、颯太の首をつかむ。呼吸ができず、力が抜けていき、颯太は破軍の剣を地面に落としてしまう。


「これでわかったでしょ? 私は死なない。死んでもこんな風に生き返る。それに対して、あなたはついさっきまで普通の人間だったのよ。どうあがいても勝てはしない。勝てはしないのよ」

「……おまえだって……」


 颯太は、かすれた声でレノンに反論しようとする。レノンは颯太を鼻で笑うと、腕の力をさらに強める。


 颯太は次元魔法で姿を消し、レノンの手から逃れる。


「お前だって……人間だろ!!」


 だが、レノンはそれを読んでいたようで、破軍の剣がある方へ炎を放つ。

 颯太は、拾い上げた剣でそれを防ごうとする。まるで隕石でも受け止めているような衝撃に耐えながらも、自分の中に存在する魔力を絞り出す。


「メイ、サラマンダー!!」


 自分の中の魔力では限界を感じ、颯太は悪魔たちの助力を得て、なんとか炎の相殺に成功する。衝撃の余波によって腕がしびれ、正直、破軍の剣を落とさずに握りしめているだけで精いっぱいだ。


「ギリギリじゃない。二体もの悪魔を従えているのにもかかわらず、契約が完全に成立していない私の炎を防ぐだけで手一杯。……ふふ。健気なものね」

「そうだな。もっと手におえないと思っていたんだけど、これなら何とかなりそうだ」


 颯太のその言葉に、レノンは眉間にしわを寄せる。


「大した実力もないのに、何ほざいてるのよ。……いいわ。そこまで力の差を知りたいのなら、教えてあげるわよ」


 レノンは炎を一か所に集めると、一対の巨大な槍を創り出す。全長は約十メートル。神の槍と言っても通用するような、強い魔力を帯びていた。


「死になさい。自分の無力さを実感しながらね……」


 炎の槍は、颯太に突き刺さり、爆散する。


「ほら。この力の前では、何もかもが無駄なのよ。……私の邪魔なんかせずにおとなしくしてたら、こんな目には合わなかったのにね」


 燃えながら飛び散った破片を眺めながら、深くため息をつく。


「人の子よ。なぜ貴様はそのような悲しい目をしている」


 突然、遠くで見ているだけだった不死鳥(フェニックス)が口を開く。


「別にそんなことないわよ。……それより、私の名前はレノン・ジュノールよ。いい加減覚えてよね」

「貴様から名を聞かされるのは初めてだと思うがな。まあ、貴様も名乗っている場合ではないだろうな」


 レノンが、どうゆうこと、と聞き返す前に、レノンの背後の空間から颯太が現れる。


 不意を突かれたレノンだったが、かろうじて颯太の刃を炎で受け止める。破軍の剣が両者の競り合いで、きりきりと悲鳴を上げる。


「……何でそこまでして私の邪魔をするのよ。もういいでしょ。あの子を取り返すことができたんだから」

「それじゃあ足りないからだよ。サラマンダーとの約束を果たさなきゃいけないからな」

「サラマンダーとの約束っていうのは。魔力をもらう代わりに支払った代償のこと? よっぽど面倒なことを押し付けられたようね」

「そんなわけないだろ。約束っていうのはな、お前を救い出すことだよ!!」


 颯太の叫びに、レノンは心を揺るがす。その証拠に、炎の一部がピシッという音をたててひび割れる。


「何なのよ……いったい私の何が間違っているっていうのよ。力を得るためにレメゲントを発動して、あの子の元へ戻ろうとしている私のどこが間違えているっていうのよ!!」


 レノンの覇気によって強まった炎に、颯太は押し戻されそうになる。

 だが颯太は、ここで退くわけにはいかなかった。不意打ちによって成功した互角の勝負。これを逃したら、もう二度とレノンに刃を、いや、言葉を届かすことなどできない。

 すると、颯太の中の魔力の流れが加速するのを感じる。颯太の中には今、自分の他に二体の悪魔が存在する。レノンの使い魔であり、宿主を救うために闘うサラマンダー。そして、もう関係ないはずなのに力を貸してくれる、アルシアの使い魔、メイ。


「ああ、間違っているさ。認められたいなら、まず認めることからはじめろよ。サラマンダーのことを、対等の存在だと」

「そんなこと、できるわけがないじゃない。あんな道具と……」

「道具なんかじゃない!! まだわからないのか!? お前らは二人で魔女、レノン・ジュノールだろ!!」


 ぱりん、と炎が砕け散り、破軍の剣がレノンの肉体に深々と突き刺さる。


 颯太はこれが、自分たちの力がレノンを上回ったのではなく、レノンの炎が弱まったからだと直感する。


「やっとわかったのか。お前も、サラマンダーも、俺たちと同じように生きているんだよ」


 レノンは何も言わずにうつむいている。これ以上語るべきかと悩んだ颯太の頭の中に、一人の銀髪の少女が現れる。年齢は今のレノンよりも五、六歳ほど若いといった感じだ。


『あら、あなたも一人なの?』


 銀髪の少女は、冷たく話しかける。だが、それは颯太へではなく、そばにいた一匹のトカゲに向けられたものだった。


 トカゲはチロチロと舌を出す。それを見た少女はふっと笑うと、トカゲに背を向ける。


『ついてきなさい。あなたの力、私が利用してあげるわ……』




「……悪魔と人間。二人で魔女、ってことね……」


 はっと気づくと、そこにはさっきの少女はいなくなり、代わりに破軍の剣に貫かれたレノンがそこにいた。


「さっきのは……お前か?」


 伝わるはずがないと思っていた質問に、予想外にもレノンは反応を見せる。


「ええ、そうよ。長らく忘れていたのだけれどね。利用してやるって思いで言ったのに、勘違いして……」

「それほどうれしかったんだろ。サラマンダーにとっては、お前が生きがいだったんだろ。だから悲しかったんだ。お前が魔導書の力を求め、変わってしまったことに」


 颯太の中にある、サラマンダーの魔力が、ゆっくりと颯太の中から抜けていくのを感じる。

 その魔力は、小さな火の玉となり、レノンのそばにやってくる。


「ふふ……おかしなものね……」


 レノンは微笑みながら、遠くの空を見つめる。すでにレノンの四肢は炎と化し、新たな肉体を得る準備を始めていた。その最中、サラマンダーの火の玉がレノンの炎の中に混じっていくのを確認し、颯太は安堵の息を漏らす。


「道具だと思っていたはずなのに、私のことをこんなに思ってくれてたことが嬉しいだなんてね」


 そう言い残し、レノンの体のすべては炎となる。そしてその炎は、天へと昇りながら、そっと消えた。

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