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魔女狩りのアルカイド  作者: 明智 透
交差する魔導書ーー発動ーー
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「やっぱりここにはいないのね」


 古びた教会を前に、レノンはため息をつく。レノンがともに連れているのは、圧倒的な力で颯太たちをねじ伏せた最強の悪魔、不死鳥。そして、その封印を解くために今もなお魔力を奪われ続けている少女、アルシアだ。


「人の子よ。いったい貴様の目的は何なのだ?」


 唐突に不死鳥が口を開く。レノンは不死鳥が人の言葉を話すことに驚いた様子もなく、答える。


「目的、ね……。そんなものないわよ。さして言うのなら、力が欲しかったの。あの子に認めてもらえるような力が……」

「ふん。そんなことのために我を目覚めさせたのか」

「あなたには言われたくないわね。だいたい、どれだけ時間をかければ気が済むのよ。その子はまだ息をしてるわよ。最強の悪魔が聞いてあきれるわ」


 レノンは不死鳥のすぐそばに浮遊しているアルシアを指差す。アルシアの周りにはまだ、例の赤い電流がまとわりついており、時折苦しそうな表情を浮かべる。


 レノンの愚痴(ぐち)に、不死鳥は、ふん、と鼻を鳴らしてつまらなさそうに答える。


「貴様が無理に魔術を使用しなければ、すぐにでも《契約の儀》を終えることができていただろうな。ただ、こいつは《魔祖》の契約者なんだろ? そこは貴様を褒めねばならぬな」


 魔祖というのは、レノンが《レア物》と呼んでいた、すべての悪魔の始祖にあたり、様々な魔術を操る悪魔のことだ。

 そのような魔祖の魔力は他とは違うのだろうかと思いながら、レノンは永き間封印されてきたにも関わらず、態度のでかい口調の悪魔に言い返す。


「何で上から目線なのよ。あなたたち《使い魔》は、私たちに使われる側の道具なのよ」

「その道具に頼らなければ、ろくに魔術も使えぬのは、貴様ら人間だぞ」


 正論を言われ、レノンは押し黙る。悪魔がいなければ、魔女は普通の人間と何ら変わりない。不死鳥の力を手にしようと思ったのも、自分ではどうすることもできなかった裏返しでもある。


「まあよい。久方ぶりだからな。このような下界に降り立つのは。……それにしても、ここもずいぶんとすさんだものだ。見るに堪えないな」

「人類は数百年で急激な発展を遂げたから、あなたが見てきた世界と違って見えてるのかしらね」


 そう言い、レノンは街の方角を眺める。その時、ふとミーシャと一緒にこのような夜景を見たことを思い出し、つーっと目頭が熱くなる。


「どうした? 人の子よ」


 不死鳥のその言葉に、レノンは自分が泣いていることに気づく。レノンは慌てて涙をぬぐうと、不死鳥に表情を見られないように、彼に背を向ける。


「何でもないわよ。……それより次に行くわよ。あの子の前で今の私を……」


 レノンの言葉を遮るように、空間が(きし)む。そして、レノンのすぐ脇を一人の少年が駆け抜けていくのが見えた。その少年は、一メートルほどの大剣を振り、アルシアを縛っていた赤い鎖を断ち切る。力なく倒れた少女を、少年は優しく受け止め、そっと呟く。


「よかった。まだ生きてる。……メイ、アルシアをあっちの空間に避難させてくれ」


 レノンは少年の後ろ姿をよく知っていた。破軍の剣を操り、様々な魔女を狩ってきた、七年前の乱戦を終わらせた英雄。そして、レノンがミーシャから見捨てられるきっかけを作った張本人。


「御影颯太。……あなた、生きていたのね」

「勝手に殺すなよ。……ま、メイがいなければ死んでいただろうな。確実に」


 颯太の腕で眠るアルシアが、すっと消える。そして振り返ると、ゆっくりと閉じていた眼を開く。


「あなた……その眼……」

「ああ、これか。ちょっとした手品だよ」

「ふざけないで。……なんであなたの目に……」



 魔女の刻印が刻まれているのよ……!?



 レノンの言うとおり、颯太の左の瞳は真っ赤に染まり、その角膜(かくまく)には、悪魔と契約した証である刻印が黒光りしている。


「あなた。あの子を助けるためだけに、魔女になったってわけ? そこまであの子がいいの?」

「だから言ったろ? ちょっとした手品だって。俺は魔女になったわけじゃない」

「じゃあ、その刻印は何なのよ!? ……それともなに? それは単なるこけおどしってわけなの?」


 レノンの質問に、颯太はくすっと笑うと、これだよ、とだけ答え、一冊の古びた魔導書を提示する。


「この魔導書の魔術。使い魔から魔女へと送られる魔力を、術者に移すってやつさ。簡単に言えば、魔女じゃないやつがこの魔導書を使えば、魔女は魔術を使えなくなり、こちらは悪魔から魔力をもらって魔術が使える。まあ、魔女側が別の悪魔と契約を結べば、魔術を使えるようにはなるんだけどな」

「ふーん。……けど、なんで不死鳥の魔力を奪わなかったのかしら? いくらそっちのおチビさんがレア物だからって、不死鳥の方がよっぽどいいと思うのだけど」


 レノンのもっともらしい質問に、颯太は呆れ顔で嘆息する。


「そんな簡単なわけにはいかねえだろ。術者と悪魔、両方の同意がないと発動しないんだよ。こっちには。どうせ不死鳥に掛け合ったところで、断れるに決まってるだろ」

「なかなか条件が厳しそうね。……けど、手土産には丁度いいかもしれないわね。あの子のために……あなたの首も一緒に」


 レノンは新しい魔術、炎の翼を広げる。その姿は、世界最強の悪魔の契約者と名乗るにふさわしく、すべてを圧倒するほどの力を秘めていた。


「やっぱり、魔導書に取り込まれてるのか……」

「あら、私が取り込まれているっていうのは、どうゆうことかしら」


 そう言い、レノンが繰り出したのは、颯太との戦いで散々使ってきた炎の弾丸。だが今回のそれは、不死鳥の魔力を受け、サラマンダーが放った火山の溶岩よりも強力なものになっていた。

 颯太はレノンの力に驚きもせずに、ただ無表情で剣を振る。


「こうゆうことだよ」


 破軍の剣の能力によって、砕け散った魔術を眺めながら、レノンは興味深そうに呟く。


「落とし子が契約したら、こんな風になるんだ。……っていうか、結局はレア物のおかげね、御影颯太」

「……なあ、お前、それ本気で言ってるのか?」


 殺気立つ颯太に、レノンは肩にかかった髪を払いのける。


「あら、何か気に食わないことでもあったかしら」

「何も感じていないわけないだろ。俺とメイ以外の存在を」

「あなたとレア物以外の存在? どうゆうことよ」


 白を切るレノンを見て、颯太は破軍の剣を(かか)げる。


「頼むぞ……お前の力をあいつに見せつけてやるんだ」


 颯太の頭上にレノンの魔術によく似た、炎の小さな塊が四つ現れる。


「あら、私の真似事? さすがレア物。気持ち悪いくらいいろんな魔術が使えるのね」

「惜しいけど、ちょっと違うぜ。なぜなら……」


 颯太は炎の塊を放つと同時に、その姿を消す。レノンは颯太の魔術には目もくれず、翼の爆風だけで炎を消し去る。


「これはお前の魔術だからな」

「なっ!?」


 舞い上がった土煙の中から、颯太が姿を現す。剣がレノンの肌に当たる前に、不死鳥の炎がそれを阻む。


「どうゆうことかしら? 私の魔術ってのは」

「……見えないのか? 俺の後ろに、あいつがいることを」


 颯太の後ろに、はっきりとは見えないが、揺らぐ影を目にし、レノンは飛び立つ。そして颯太を見下ろす形で制止すると、目をこすり、それが偽りじゃないことを確かめようとする。


「何であなたがそいつについているのよ。……ねえ、何でよ。サラマンダー!!」

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