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魔女狩りのアルカイド  作者: 明智 透
交差する魔導書ーー乱戦ーー
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 何で私はいつも守られてばかりなんだろ……


 箒に腰を掛け、宙を駆けながら、アルシアは心の中で呟く。みんなが死んでいく中、母親に逃がしてもらい、今度は魔女狩りの少年に助けられている。普段は強がってはいるが、自分では何もできない。そんな自分が……情けない。


「みぃ~」

「メイ……」


 帽子の中にいたメイが、アルシアの心情に気づき、寂しく鳴き声を上げる。


「……ごめん。私がこんなじゃ駄目……だよね」


 ローブの下にある、転生の書‐レメゲントを思い浮かべながら、アルシアは静かに呟く。この魔導書が一体どのようなものなのかは想像することができないが、母が言っていた『世に出てはいけないもの』という言葉。これは一体何を意味するのだろう。

 不意にアルシアは殺気を感じ、高度を下げる。殺気を放った人間が撃ったと思われる銃弾が、アルシアの帽子の先を霞める。


「……もう。しつこい」


 今のアルシアは、巨門(きょもん)の銃の能力のせいで、振り切れるほどのスピードを出すことができない。アルシアは空中で一回転すると、風の刃で狙撃手に反撃する。が、肝心の攻撃は狙った場所から大きく逸れ、その場にあった照明灯を一台破壊する。


「い……つっ!!」


 肩に受けた傷がうずき、アルシアは箒から振り落とされそうになる。かろうじてこらえたアルシアだったが、狙撃手から放たれる二発目の弾丸をかわすことはできなかった。今度は右足を撃ち抜かれ、完全に魔力を制御できなくなったアルシアは、そのまま地面に叩きつけられる。


「……絶対に……渡さない。この魔導書は……」


 撃たれた右足を引きずりながら、アルシアは建物の影に隠れる。出血で朦朧(もうろう)とした意識の中で、アルシアの頭に一つの考えが浮かんだ。


「この魔導書が消えれば……もう、誰も傷つかないのかな……」


 狙撃手であるニコラスは、もうすぐそばまで来ているはずだ。アルシアは取り出した魔導書を放り投げると、それに手をかざす。だが、アルシアの意志とは裏腹に、魔術は一切発動しない。


「なんで……なんでこんなにも無力なの? ……私は」


 アルシアの腕がカタカタと、小刻みに震え始める。アルシアの受けた巨門の銃は魔力を乱す。今のアルシアには高度な次元魔法はおろか、ごくごく基本的な魔術すらまともに使うことはできない。


 アルシアの指先にぽっと小さな燈火(ともしび)がつく。だがそれはすぐに消え、アルシアは力尽きたように膝をつく。


 目の前の魔導書を見て、アルシアは思い出す。あの日、御影颯太と出会った日に、自分は死んでいたはずだ。教会で仲間と一緒に死んでいたかもしれないし、黒ミサに追われていた時も、颯太がたまたまそこにいなければ助からなかった。更に、あそこにいたのが颯太以外の人間、エルドやニコラスだったら確実に殺されていた。


「ねえ、この魔導書は世に出てはいけないものなの」


 アルシアは人の気配を感じ、最後の『交渉』に出る。近づいてきた人間はアルシアを殺そうという気はないらしく、アルシアもそれを感じ取って、続きを口にする。


「だからこの魔導書は燃やして、この世から完全に消し去ってほしいの。……私の命は、もうどうでもいいから」


 教会の皆はこれを黒ミサに渡さないように戦い、死んだ。自分でこの魔導書を消すことができなかったなら、代わりに燃やしてもらうしかない。


 だが、アルシアの最後の決意も、直後に聞かされた一言によって打ち壊される。


「……あら、そんなことできるわけないじゃない」

「……え?」


 アルシアが顔を上げると、そこに立っているのはニコラスではなく、ボロボロで(すす)けた色のローブをまとった……銀髪の少女、レノン・ジュノールだった。


「あなたは……あの時の!?」

「辛いわよね。巨門の銃の弾丸、くらったんでしょ? でも、すぐに楽にしてあげるわ」


 レノンはしゃがみこむと、ローブの下から右手を出し、落ちていた魔導書を手に取る。


「ずいぶんと簡単に手に入ったものね。……最初からあなたがレメゲントを持っていないって知っていれば、あの子に失望されることもなかったのに」

「……返して」


 アルシアは逃がすまいと、レノンの足をしっかりと抱え込む。だがレノンにとって今のアルシアは虫けらに等しく、容易(たやす)く足を引き抜く。


「あなたたちなんかに……絶対に渡さない。みんな、それを守るために」

「何を言っているのかしら。……それより、私の記憶が正しければ、きっとあるはず」


 レノンは片手だけで器用にページをめくり始める。そして目当ての魔術を見つけると、にやりと笑う。


「天よりいでし不死の翼よ。忌まわしき枷を解き放ち、我と新たなる契を結べ」


 レノンの頭上に巨大で複雑な魔方陣が出現する。


「何なの? ……あの魔法陣は!?」

「あら? この魔導書を守るって言っときながら、何にも知らないのね。いいわ。教えてあげる」


 頭上の魔法陣が光り輝き、その影響で地響きと大きな衝撃波が周辺の建物を破壊する。そして魔法陣の中央から赤い雷がアルシアに落とされる。雷はアルシアに帯電し続け、彼女はその痛みに悲鳴を上げながらもだえ苦しむ。


「苦しいの? でもそれは直に終わると思うわ。あなたには生贄になってもらうんだから」

「……い……けに……?」


 ぐったりと横たわるアルシアの体がゆっくりと宙に浮き始める。アルシアにはもはや意識はなく、一切抵抗することもなく、地面から二、三メートル離れたところで制止する。


 ぐおおおぉぉぉぉ


 魔法陣の中央から咆哮をあげながら、一体の悪魔が姿を現す。


「来たわね。転生の書‐レメゲントに封印されし悪魔の一体。……不死鳥(フェニックス)

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