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魔女狩りのアルカイド  作者: 明智 透
交差する魔導書ーー乱戦ーー
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「はあ!? 七番目が魔女をかくまってるぅ!?」


 メールで、『すぐにそっちへ行く』とだけ伝えられ、何事かと思っていたが、家の前でニコラスに告げられた言葉は思いもしないものだった。


「ちょっと待てよ。いまいち理解できないんだけど、魔女をかくまってるってのはどうゆうことなんだよ? 黒ミサとつながってるのか?」

「黒ミサとの関係は正直わからない。ただ、御影と一緒にいたあの子……」

「あの子がどうしたんだよ。確かに魔女のコスプレはしてたけどさ。それだけだろ」


 何も疑わずに言い放ったエルドを、ニコラスは鼻で笑う。


「おい……なに笑ってんだよ」

「少しはその単純な頭も治ったのかと思ってたんだが……何も変わってないんだな」

「んだよ。その口は。だいたいあの子がどうしたんだってゆうんだよ。どこにでもいる普通の女の子だったろ?」

「お前は何も感じなかったのか?」


 馬鹿にされていると感じ、エルドは雑誌の続きを読もうと部屋に戻ろうとする。が、ニコラスはエルドの肩をがっしりとつかみ、耳元でささやく。


「おそらくあの子は……魔女だ」





「……何を言ってるんだ、エルド。こいつが魔女なわけないだろ。第一証拠は? 証拠がないのにこいつを魔女だって言うつもりじゃないだろうな」


 苦し紛れのいいわけだということは十分に理解している。だがこれ以上の言葉は出てこなかった。


「俺もニコラスから聞くまで信じちゃいなかったんだけどな。こんなもん聞かされたらな」


 エルドはICレコーダーを取り出すと、そこに保存された音声を再生する。そこに保存されていたのは、魔導書を取り戻す手順を確認する颯太とアルシアの声だった。


「ニコラスが仕込んでたらしいな。レノンって魔女を捕えるときに、破軍の剣に仕込んでたらしいんだけど。悪い趣味してんだよな、あいつ。……ま、そのおかげで」



 ゲームオーバだ。七番目。



「アルシア!! 次元魔法を……」


 ばれてしまった以上、もう魔術を使うことをためらうことは無い。颯太は一切ためらわず、アルシアに次元魔法で逃げるよう指示する。

 が、颯太の言葉の最後は、突如聞こえた銃声によってかき消される。アルシアは左肩を被弾し、血を流しながらよろめく。


「ちっ……外してんじゃねーよ。ニコラス」


 エルドは廉貞(れんじょう)の鎌を握りしめ、アルシアに襲い掛かる。颯太は竹刀ケースにしまわれていた破軍の剣を取りだし、廉貞の鎌を弾き飛ばす。


「アルシア、一人で逃げ切れるか!?」

「……うん。……メイ、ほう、き……」


 痛みをこらえながら、メイの名を呟くアルシア。魔女の移動手段の一つである箒に腰を掛け、空を飛ぶが、巨門の銃の傷がうずくのか、どこかぎこちない。

 巨門の銃の恐ろしさは、魔力を乱すことだ。傷が浅く、基本的な魔術は使えるようだが、アルシアの切り札ともいえるだろう次元魔法は、魔力消費、術式の繊細さから使えないようだ。


「……なあ、七番目よ。なに魔女の心配してんだよ? ……そいつは確か殺しても問題ないやつだぜ」

「……やっぱりそういうと思っていたよ。エルド」


 ロザータが魔女狩りを続けてきた理由。それは、魔女を人として認識しないこと。七年前の悪夢を見て、この国の人々は認識したのだろう。魔女狩りは正しい。魔女はいてはいけない存在なんだ、と。

 だが、魔女も同じ人間だ。今まで人間同士で行われてきた戦争も、決して丸く収まったとは言えないが、解決してきた。ならば魔女と人とが共存することもできるのではないか。


「今までの俺たちが間違っていたんだ。魔女も俺たちと同じ人間なんだ。魔女狩りは間違った行動なんだ」

「……どんな言い訳を言うかと思ったら、そんな今更なことを」


 エルドは鎌と繋がっている鎖を引き、廉貞の鎌の柄を手に取る。


「知ってるよ。魔女が人間なんだってことぐらい。なんだ? お前にはあれが化け物か何かに見えてたのか? あぁ!?」

「だったらなんでお前は魔女狩りをしてるんだ!? 人間だってことをわかっていながら、なぜ廉貞の鎌で人々を殺せたんだ!?」

「そりゃあよぅ。堂々と人殺しができんだぜ。しかも相手は魔術を使ってくる。こんなゲームみたいな世界、楽しまなきゃ損だろ?」

「……本気で言ってんのか?」


 剣を握りしめ、颯太はエルドに問いかける。魔女を人間だと感じながらも、『殺せるから』という理由だけで、魔女狩りを続けられていたエルドのことが信じられなかった。第一、あのレノンを撃つ瞬間も、颯太は人間を撃つということに抵抗を感じ、引き金を引く指が鈍った。


「ああ、そんな不思議なことじゃねえだろ」


 押さえつけていた理性が吹っ飛び、破軍の剣でエルドに切りかかる。エルドは大鎌の柄でそれを受け止め、一回転してそれを振り切る。回転の勢いで鎖が引っ張られ、廉貞の鎌の刃が颯太のすぐ目の前を通り抜ける。


「もう少しで当たるとこだったのに……運がいいな、お前」

「知るかよ。そんなこと」


 颯太はエルドに蹴りを入れるが、エルドはそれを左手でガードしつつ、受け流す。そして、後ろに跳びながら廉貞の鎌と鎖でつながった右腕を振り下ろす。廉貞の鎌はその動きと連動し、その刃をきらりと不気味に光らせながら、颯太の頭上に迫ってくる。

 颯太は破軍の剣を盾にするが、廉貞の鎌はそれを嘲笑うように剣をくぐり抜ける。


「くっ」


 実体を取り戻した鎌は颯太の頬を(かす)める。数滴の血が舞う中、エルドは再び鎖を引き戻し、颯太の脇腹をえぐり取ろうとする。

 颯太は剣を鎌の刃にぶつける。両者はキキーッと火花を散らせながら反発しあう。エルドはこの我慢比べが無意味だと感じ、破軍の剣をすり抜けさせる。


「それが廉貞の鎌の能力……てわけか。確か刃の部分を非実体化させることができるんだったか」

「ご名答。ってか!!」


 エルドは戻ってきた鎌を手に取り、颯太に振り掛かる。無駄だと感じながらも、颯太は破軍の剣で受け止めようとする。


 このように純粋な剣術だけで戦うことに、颯太は慣れていない。魔女との戦闘は必ず相手の魔術にどう反応するか、どう対処するかというものだった。破軍の剣を持つ颯太にとって、魔術は難なく攻略でき、相殺できないような大魔術は相手のスキをついて殺してきた。だからこそ、魔術を使わない相手との戦闘は、颯太にとって完全に未知のものだった。


「無駄なんだよ!!」


 狂ったような声でエルドが叫ぶ。廉貞の鎌は実体をなくし、破軍の剣は空を切る。


「んなことわかってるよ!!」


 颯太は剣を切り返し、エルドの首を狙う。だがエルドはそれに感づき、重心をずらす。両者は互いに交差し、颯太はエルドの二の腕のあたりの服を引き裂く。

 エルドは後ろに跳びながら、鎌を颯太に放り投げる。颯太は当然ガードしようとするが、鎌は再び颯太をすり抜ける。


「やっぱり楽しいよな……人殺しは!!」


 めいいっぱい伸びた鎖は、ジリッと音をたてると、来た道を戻り始める。


「ちっ……間に合わねえ」


 颯太の首元まで迫ってきたとき、颯太はわざとバランスを崩し、それをかわす。颯太のすぐ上を通り抜け、エルドの元へと帰ってきた廉貞の鎌は、大きな半円を描きながら、再び颯太へと向かう。


「……いって。ここまでやるとは正直思っていなかったよ。エルド」

「当たり前だろ。俺の廉貞の鎌は五番目。それに対してお前の破軍の剣は七番目。どちらが強いかなんて誰でもわかるだろ」

「番号は……関係ないだ、ろ!!」


 颯太はかわしきれずに足に突き刺さった鎌を抜く。傷はそこまで深くはなかったが、痛みが毒のように傷口をズキズキと突き刺す。


「なあ、俺はお前のこと、結構気に入ってたんだぜ。今なら許してやらんこともねーけど」

「別に。お前みたいな馬鹿に、お情けを受けようって気はない」

「馬鹿、か……」


 エルドは鎖を手繰り寄せながら、颯太の元へ歩いてくる。


「颯ちゃんがそんな風に俺のことを見てたなんて、ちょっとがっかりだよ。ニコラスからは止められてんだけどさ、どうせ死刑か何かだろ? ……殺しても問題ないか」


 エルドは鎖につながれた鎌の柄を手に取る。肩を大きく回すと、颯太の首元に刃の部分を当てる。


「あのさ、エルド。……死ぬ前に一ついいか?」

「なにかっこつけてんだよ。……まあ死ぬ前の人間の言葉を聞いたことは無かったからな、ちょっと興味はあるわ」

「じゃ、遠慮なく……死ねよ」


 颯太は懐から銃を取り出す。エルドは完全に油断しており、回避することなく、銃弾を受けて血を流しながら倒れる。


「七番目……て、めっ」

「……俺も甘いよな。死ねって言っときながら……」


 颯太はエルドの傷口を見ながら呟く。颯太が頭の中で狙ったのは心臓だ。だがエルドが抑えているのはそのはるか下、腹部だった。

 颯太は破軍の剣を杖代わりにして立ち上がる。エルドの傷は深く、しばらくは動けないだろう。アルシアが逃げ切る前に回復し、再び颯太の前に立ちはだかることは無いだろう。だが、


「急がねえと……アルシアが」


 エルドで言うところの、『二番目』に当たる人物を想像しながら、颯太はおぼつかない足取りで歩を進める。今の自分では役立たずどころか足手まといになると思われたが、アルシアを守るという己の使命感が颯太の体を動かしていた。


 突如、地響きとともに大きな衝撃が颯太を襲う。無論、颯太の足はまともに踏ん張ることができずに、吹き飛ばされてしまう。

 足を押えながら顔を上げると、想像を絶するようなものが視界に入り、颯太ははっと息をのむ。


「……なんだよ……これ……」

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