表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女狩りのアルカイド  作者: 明智 透
交差する魔導書ーー乱戦ーー
10/28

   9


「そこにいるのって……」


 破軍の剣を握りしめていた手の力が、より強くなる。アルシアが魔女だと知った彼、エルドは、必ず彼女を殺そうとするだろう。それが悪いことだとは言えない。むしろロザータにとっては、それが正しいことなのだ。

 だが、颯太はアルシアを守ると決めた。例えこの二人を敵に回すことになったとしても、アルシアを守りたい。そう感じていた。


「今朝、颯ちゃんの家にいた子でしょ。何でこんなとこにいんの? てか、巻き込まれなかった? 怪我とかしてない?」

「あ……えっと……」


 一気に緊張が解け、颯太は思わず口ごもる。そもそもさっき、アルシアの格好(かっこう)はコスプレみたいだから大丈夫だと思っていたはずなので、こうなってもおかしくなかったはずだ。


「颯ちゃん。ちょっと」


 エルドが手招きをするので、とりあえず近づいてみると、エルドは颯太の肩をしっかりとつかみ、アルシアに背を向け、小声で(たず)ねてきた。


「なあ、お前の彼女、なんで魔女の格好してんの?」

「いや、だから彼女じゃなくて単なるクラスメイトだってば」

「いや、仕事中だから、これ以上の詮索はやめる。……ほんとはここで直接伝えた方がいいんだろうけどさ、やっぱ戻ってきてよ。この子の前じゃちっとばかし言いずらいことなんだよ」

「……なんだよ」


 アルシアの前で言いずらいことという言葉に引っかかり、颯太は聞き返す。


「いや、さ……、お前を追っかけてくる途中で魔導書(ひろ)ったんだよね。多分あの子、食いついてくるだろ?」

「食いつくって……ああ、そっか……」


 正直、アルシアが魔導書を見て、目を輝かせるようなところは想像できないが、それが、『魔女のコスプレをした女の子』ならば、容易(ようい)に想像できる。


「どうしたの? そんな()()けた返事しちゃってさ」

「何でもない。……じゃあ俺はあいつを家に送ってから行くからさ、ニコラスさんと一緒に先に行ってて」

「はいはい。わかってるよ。そんなに邪魔なんだな……おい、ニコラス、帰るぞ」


 今朝、無理やり追い返されたのが気に(さわ)っているのか、エルドは少々ふてくされたように呟く。


「ニコラス、おい、ニコラス、聞こえてんのか!?」


 エルドが怒鳴(どな)ると、ニコラスは、ああ、という力の抜けた返事をする。


「おいおい、どいつもこいつも、しっかりしてくれよ。……たく」


 エルドが文句を言いながら帰っていくのを見届けると、颯太はへなへなと腰を下ろす。


「さすがにあせったよ。ばれたんじゃないかと思ってさ」

「そう? そこまで深刻に考える必要、なかったと思うけど……」

「あのな……」


 颯太は乱暴に頭をかくと、


「ロザータは魔女狩り推奨国だぞ。つまり、アルシアが魔女だってわかったら殺されるってわからないのか?」

「わかってるわよ。そのくらい……」

「いや、わかってない。だいたいアルシアは危機感ってものが……」

「あれ? ……ない……」

「人の話を聞け!!」


 柄にもなく大声で叫んでしまったが、アルシアが必死に何かを探している様子を見て、ただならないことだと察する。


「どうしたんだよ? そんなに慌てて」

「……魔導書……落としたかも……」





 同時刻、ロザータにある、誰もが忘れているであろう教会の中にレノンはいた。


「持ってきましたよ。七星の魔導書」


 そう言うと、奥から、たったっ、と誰かが走ってくる音が聞こえてきた。


「ほんと!? 見せて見せて」


 駆けてきた小柄(こがら)な少女は、レノンに魔導書を見せるようにとせがむ。少女の目はくりくりと丸く、十歳らしい無邪気な笑みを浮かべる。


「あらあら、そんなに急かさなくても……あ!!」

「へへ~、もらっちゃうよ」


 魔術を使ったのだろうか、レノンの手にあったはずの魔導書は消え、少女の元に現れた。


「そんなにうれしがらなくてもねえ。まだまだ先は長いのに……」

「うれしくなるよ。なんたって《大図書館グリモワール》の復活に一歩ずつだけど近づいているんだもん」


 きゃっきゃっと、子供らしい笑い声をあげながら、少女は手放しに喜ぶ。

 魔女の聖地とも呼ばれていた《大図書館グリモワール》。今は魔導書が各地に散らばってしまい、かつての偉業(いぎょう)を失いつつある。そんな中、魔導書を集め、グリモワールを再建させようとしたのが《黒ミサ》だった。


「あ、そうだ。レノンちゃん、一つだけミスがあったよね」

「え……ミス?」


 不意に少女に声をかけられて、レノンは息を()まらせる。


「うん。だってね、あの子も持ってたじゃない……魔導書を。それも神が記したといわれる《転生の書‐レメゲント》をね」

「……そんなことは……」

「失敗は失敗だよ。ごまかさないでよね」


 レノンを見つめる少女の目の奥には、すべてを飲み込むような冷たさがあった。


「あの子だよね。クレスティアが向かった教会の魔女って。すごい魔導書を見つけたからって言ってたから、何かと思ってたら……ふふ」

「……クレスティアはどうなったのかしら? 今日はいないみたいだけど」

「あれ? 言ってなかったっけ? 死んだよ。破軍の剣を持ってるやつに殺されたの。レノンちゃんは生きて帰ってきたのにね」


 生きて帰って来てくれてよかった。そのようにもとらえられる言葉だったが、レノンは、全く違う意味だと感じた。すなわち、クレスティアは必死に魔導書を奪おうとしたが、お前はのこのこ帰ってきたんだ、と。


「……わかった。今度こそは必ず持ってくるわ」

「うん。楽しみにしてるね」


 その笑顔はまさに、先ほどまでとは違ういたいけな少女のものだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ