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告白 後編

告白


 翌日は、文化祭の最終日。

 俺達のクラスは中庭ブースで焼き鳥の販売。

 仕入れた生の焼き鳥を炭火焼で焼くのだが、当然ながら全員初めての経験で、タオルで口を押え、涙目になりながらも煙に耐えつつうちわを煽ぐ。

 うちのクラスは理系の特クラで、いわゆる国立理系なので、女子が五人しかいない。その貴重な五人の女子も性格ブスばっかで(俺が言ったわけではなく、周りの評価)滅多に喋らない。

 女子だから焼き鳥焼くぐらい手伝えと協力を求めても、「煙臭くなるから嫌だ」とか「女子が焼き鳥売るなんてナンセンスだわ」と、居直られた。

「あいつらマジでかわいくねえ~」と、頭にタオルを巻いた委員長の永田がぼやく。

「まあ、いいんじゃない。彼女たちが校門で呼び込みをやってるから、売り上げも順調だし」

「そりゃそうだけどさ。なんつうか…可愛げがねえよなあ」

「おまえらがJKに期待し過ぎっていうの。つうかさあ、…由良、見てねえ?」

「ああ、なんか体調悪いから、今日は来ないかもってメールあった。昨日は由良にずっと店番任せてたし…。マジで悪かったわ。葛城の方には連絡なかったのか?おまえら、仲良いじゃん」

「え?…あ…うん。今日はまだ顔合わせてねえな」

「会ったら謝っててくれないか。あいつ、顔良いし、愛嬌もあるからお客の評判も良くてさあ~、つい無理強いさせてしまった~」

「わかった。伝えておく」


 昨日別れた後、俺は光流ひかるにメールも電話もしていない。

 告白もだけど、あいつがくれたメールを読んだ時、今まで光流の想いに気づかずにいた自分に罪悪感を感じた。

 だからと言って、光流の想いに応える自信もない。

 どう考えても俺はノーマルで…男とどうこうしたいなどとは思えないからだ。

 だけど、光流は大事な親友でさ…

 だから、気まずいままこれからを過ごす、なんて嫌だし…。


 地学部の催し物は、手作りのプラネタリウムで、お客さんも教室の四角い天井に映る偽物の星空を楽しんでいる。

 だけど、ここにも光流の姿はない。

 途方にくれながら廊下を歩いていると、担任の三瀬が声を掛けた。


「葛城、さっきロンドンの大使館から連絡が来たよ。UWC留学決定だそうだ」

「え?マジで?」

「マジです。良かったなあ。宇宙飛行士なんて夢見すぎだと思っていたけど、おまえならマジでなれるかも知れないなあ。俺もおまえの夢の一旦を担う役目を貰った気がするよ。もし叶った時は恩師として俺の名前を忘れずに出してくれよ」

「了解です。先生、本当にありがとうございました」

「出発は十二月か…。クラスのみんなと一緒に卒業できないのは残念だけどな」

「そう、ですね」


 留学の事はクラスメイトは知らない。だが、光流だけには話していた。

もし決まったら、十二月にはUWCに留学することも…。

 宇宙飛行士になる為には、英語やロシア語は当然ながら必須で、外国で勉強するのが一番効率が良い。国際バカロニア資格を得たらどの国の大学にも入学できるし。

 一歩ずつ歩き出す…そうやって確実に夢を現実に近づけさせていきたいんだ。

 光流も「応援してるから、頑張れよ」って…言ってくれた。

 …

 俺は思い違いをしていたのかなあ…。

 俺の夢に付き合わせて、同じ宇宙そらを見上げて、それであいつの事を理解していたつもりになっていたのかもしれない…。


 陽が暮れた東の空にはまんまるの月が昇りはじめた。

「そういや今夜はスーパームーンだったな」

 いつだって晴れた満月の夜は光流と望遠鏡を覗き込んだ。

 月面のクレーターを見ながら、俺達が降りる場所を見つけようと話したっけ…。


 運動場では積み上げられた焚き木に火が点され、明るい炎が暗闇に映え渡る。

 それぞれに肩を組んだ生徒たちが大声で校歌を謳い、文化祭のクライマックスとも言えるフォークダンスが始まる。

 誰とも構わずに踊り明かすフォークダンスは、最初は恥ずかしがって輪の中に入りたがらないものだが、次第に焚き木を囲んで手を繋ぎ合う。

 なんだか不思議な光景だ。

 昼間はうるさがっていた女子たちも楽しそうに男子と踊っている。

 ぼやいていた委員長も女子の手を取り、ご機嫌な様子だ。


「葛城君、踊らない?」と、クラスメイトの内野さんが手を差し出し誘ってくれた。

 その手を握ろうとするその時、彼女の向こう側にちらりと光流の姿が見えた。

「まさか…」

「どうしたの?」

「悪い。俺、ちょっとはけるわ。教室に大事な忘れ物してた」

 そう言い残した俺は、すでに見失ってしまった光流の姿を探した。


「あいつの行きそうな場所は…まあ、わかるけどさ」

 ふたりで夢を語り明かした校舎の屋上って決まっている。

 

 五階までの階段を飛ぶように駆け上がって、屋上へ着くと、予想的中って奴で、光流が望遠鏡の近くに佇んでいた。

「光流~。今日一日、おまえを探したんだぜ」

「悪い。なんか、さ。燿平に顔合わせづらくて…さ」

「…うん、わかる」

 俺達はどちらともなく近づき、同時に夜天を見上げた。

 満月の近くで金星が鋭い光を放っていた。


 互いに顔を天に向けたまま、光流が口を開いた。

「あのさ」

「ん?」

「昨日、燿平にあんな告白をしてさ。帰宅して思い返してみたら、どうにも居たたまれなくなった…。それにあんなメールまで…。読んだ?」

「読んだよ」

「ゴメンな。迷惑だったよな。…ゴメン、あんまり気にしないでくれ。ほら、満月の時って動物も人も興奮状態になるって言うだろ?…その所為だと笑ってくれ」

「笑わないさ。まあ、ちょっぴり困りはしたけれど、光流の告白もメールも嫌じゃなかった」

「え?」

「おまえの求めるものに応えられるかどうかはわからんけどさ、このまま光流との友情を終わりにはしたくねえし…」

「俺の告白に燿平が応えられるものじゃないってわかっていたんだ…。わかってておまえを困らせて悪かったって反省してる」

 

 光流が俺を見つめるから、俺も光流を見つめた。

 目が合ったまま顔を見合わせていると、何故だか気恥ずかしくて仕方がない。

「光流、俺、留学決まったんだ。今日、連絡が来た。十二月には…この学校を離れる」

「…そう、か…。おめでとう、燿平」

「ありがと…」


 フェンスに近づいて、赤く輝く運動場に目を下ろす。

 フォークダンスの曲が繰り返し流れ、それに合わせて皆漂うように踊っている。

 

「そうか、とうとう行くのか。…燿平が夢に近づいたのなら、俺も置いていかれないように頑張るしかないな」

「筑波大の理工学部だろ?おまえなら大丈夫さ」

「卒業したら国立天文研究所、それからすばる天文台、月探査計画、JAXAと協力しながら、月に向かう燿平を助ける」

「うん、頼りにしてる」

「…」

 口にしてしまうと軽く、でも現実は遠い俺達の夢…。

 でも俺と光流なら叶えるさ、きっと。


「ありがとう」

「なにが?」

「精一杯の告白だったんだ。嫌われても仕方ないのにさ」

「嫌うもんかよ。…俺はおまえが好きだよ」

「…うん」

「キスでもする?」

「え?」

「スーパームーンの記念。その気になるかも」

「いいよ。無理にするもんじゃないし」

「そうか?俺は光流とならキスぐらいしてもいいかな…なんて思い始めてますけど」

「…」


「あ、おい、下見ろよ。永田の奴、常盤っちと見つめあってデレてる」

「ここから見えるのか?相変わらず眼だけは異常に良いなあ」

「宇宙飛行士候補生としては当然だろ?」

「さすがだね」

「あ、ほらほら、あいつら今にもキスしようとしてるぜ?」

「燿平…」

「え?」


 俺の両頬を掴み、光流はすばやく顔を寄せ、俺に口づけた。

 光流の乾いた口唇が俺の口唇に触れた…。

 目の前に光流の顔がある。

 そして、ゆっくり俺から離れた光流は、柔らかく微笑む。


「やっぱりおまえとのキス、貰っておく」

「おまえねえ…。する前に言えっ!こっちも準備ってものがあってな…」

「ありがとな」

 

 そう言って笑う光流がかなりかわいいと思えたのは、きっと夜天に輝く満月の所為なのだろう…。



       2015.10.14

 



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