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告白 前編


 それは突然の、だけど、いつもと同じような下校途中の出来事だった。

「俺、ようが好きなんだけど」

親友の光流ひかるからの突然の告白に、俺は光流の顔を凝視した。

「え?…うん、俺も好きだよ。おまえ、いい奴だし」

 校内一のクールガイともてはやされている光流だが、時々突拍子もない冗談を言う奴だから、俺も何も考えずに笑って答えた。

 だが、光流は笑うでもなく、整った顔を崩さずに…

「…性的な感情を含んでいる。つまり毎晩のようにおまえでシコってる…って言えば、理解する?」

「……はあ?」

 なんだ?新手の冗句か?

 …せい、てき?

 …俺に?


「無理無理無理~。光流、冗談が過ぎるよ。俺、彼女居るし~」

「先月別れただろ。受験勉強忙しくなるからって」

「そりゃそうだけど…。だからっておまえと付き合うなんて…冗談でも無理だから」

「そうか…」

 明らかに落ち込んだ声音で光流は少し残念そうに眉を顰めた。

 そ、そんな顔したら、本気なのかって勘違いするじゃねえか。


「マジで本気なのか?」

「うん」

「つうか、なんで今日?おまえねえ、告白するんなら、もっとこう…誕生日とか出会った記念日とか、卒業の日とか…あるんじゃね?」

「敢えて言えば…満月だったから…かな?」

「…」

 意味わからん…つうか、

 確かに今日は中秋の名月だった。

 俺達地学部にとっては最高の天体観測日和なのだが、今日と明日は高校の文化祭でめちゃくちゃ忙しく、のんびり観測するどころじゃない。

 

「まあ、いっか。断られるのわかってたし…」

「いやいやいや、わかってるなら、口に出すなよ~。俺達の友情にヒビが入るだろ?」

「わかってたけどさ…。我慢できなかったんだ」

「光流…」

「じゃあな」

「あ?」

「明日、晴れるといいな」

「あ?…ああ、キャンプファイヤー楽しみだな」

「耀はマジ…ば~か」

 そう言って、光流は横断歩道を走り去っていく。

 俺はその後ろ姿を見送りながら、一体光流と何を話してたのだろう…と、しばらく腑抜けたままに立ち止まっていたんだ。



 告白 (前編)



 俺、葛城燿平かつらぎようへい由良光流ゆらひかると出会ったのは、高校に入学したばかりの地学部の入部の日。たまたま廊下で見学していた光流に声を掛け、一緒に入部することにした。

 宇宙の話でたちまちに意気投合した俺達は、校舎の屋上に設けられた小さな天体望遠鏡を夜遅くまで覗き込んでは、煌く星々のように心を輝かせていたのだ。

 

 俺は宇宙飛行士、そして光流は天文学者。

 途方もない未来の夢を夢にしない為に、俺達はお互いを励ましながら、勉強に打ち込んできた。

 馬鹿話やエロ話もしないわけじゃなかった。

 付き合ってた彼女と最後まではいかなかったけど、デートしたり、キスしたりしたことまで光流には話していた。光流は…家庭事情やらで、その辺の経験は俺よりもずっと豊富だったから、教えてもらう事も多かった。

 一度だって、光流は俺にそういう素振りを見せたことが無かったし、俺だって男を好きになるなんて…考えたことも無い。


 今日、俺を好きだと告白した時の光流の顔を思い出す。

 どう考えてみても、本気だった…と、思う。

 そして、俺は非常に困っている。

 嫌いじゃない奴に…と、言うか、大好きな親友に告白される事は、好きでもない女からの告白を断るようにはいかない。

 親友だぞ?

 ずっと一緒に夢を追いかけようって誓った仲だぞ?

 …

 …

 なんか…

 段々と腹立ってきた。

 裏切ったのはあいつの方じゃねえか。

 

 腹立ちまぎれに夕食を掻きこんで、早々と自室に引きこもった。


「…ったく、光流の所為で好物のカツ丼をじっくりと味わえなかったじゃねえか。明日も文化祭の後片づけまでめっちゃ重労働させられるっていうのに」

 

 いつものようにパソコンの電源を入れ、一旦ベッドに寝転んだ。

 目を開けても瞑っても先程の光流の顔と言葉が目の前から離れてはくれない。

 あんなに簡単に断っても良かったのかな…。

 光流を傷つけたんだろうか…。

 俺が断った所為で落ち込んだりしてないだろうか…。

 そもそもなんで俺なんだ?

 あいつが男も女もイケる事は知っているけれど…。


 立ち上がり机の上のパソコンのメールを確認すると、珍しいことに光流からのメールが受信されていた。

 俺は急いでそのメールを開封し目を通した。



 『燿平。

  このメールは今朝、君が登校する時間を見計らって送っている。

  だから君がこのメールを読むのは、学校から家に帰った後だ。


  俺は今日、君に告白することに決めた。

  すでに結果は出ているだろうし、燿平の事だから、俺の告白は無残な結果に終わっているだろう。

  答えがわかっているのに、負け試合をしかける俺を君は笑うだろうか。

  そんな事はしまい。君は正義の人だ。


  高校入学の頃から、俺は君に惹かれていた。

  俺の家庭の事情は知っているだろうけれど、両親達の事業の成功の所為で俺の家は裕福だった。だけど両親はずっと不和で、それぞれに愛人を囲って楽しんでいた。それでも一人息子の俺の事はそれなりに可愛がってくれたものだから、俺も道を間違う事も無かったけれど、性格は相当に捻くれていたんだと思うよ。

  君には話した事もあると思うが、初体験も父や母の愛人たちが教えてくれた。

  今となっては彼らの同情心を有難く思う余裕もあるけれど、当時は両親に一矢報いてやりたい…なんて浅はかな考えもあったりね。


  君と出会って星空を崇めて、夢を語り合って…俺は燿平から未来への希望をもらった。

  そして、人を本気で好きになるときめきや喜びを初めて知った。恋の苦悩もね。

  君と温めた友情は本物だと思いたいけれど、やっぱり君への煩悩が多かったのも確かだ。


  このまま何も言わずに卒業するのが俺達の友情にとっては最良だとわかっているけれど、それでも告白しなければならなかった俺の恋熱を憐れんでくれよ。

  昨日までの俺と燿平には戻れないと思うけれどさ。

  できるなら、明日、顔を合わせた時に、笑ってくれると有難い。


                    由良光流 』



 はあ~?

 なんだよ、光流のバカヤロー!

 俺は…

 俺は明日が怖いよ。





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