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神の細道 後編―帰りは怖く

神様がいる

仏様がいる

信仰され

帰依され


人の拠り所となる

人の頼みとなる


崇めて祀られ

掲げて畏怖する

そんな形

遠い存在


けれど

そんな神様にも

願いはないのだろうか

救いはないのだろうか


何処かに寄る辺はあるのだろうか




人は流れ星に願いを託すのだけれど

その願い抱えて

星は流れ落ちてしまうのかもしれない



その重さに耐え切れないで

その重荷に潰されて



________________________________________



「怖ろしいこって」



土が隆起し、岩が乱れ飛び、地が揺れる。

風が吹き荒れ、水流が暴れ、雷鳴が鳴る。

二柱の神の戦争

神力のぶつかりあい


天と地の潰しあい



――いい迷惑だ。


流れ弾のように降り注ぐ神の力の塊を眺めながら思う。

一応、社に被害が及ばないように湖の真ん中辺りで戦いを行っているようだが、神々同士の争いが少し距離をとった程度で、その余波が見せないわけがない。

たかが人間という存在は、そんな神にとってのほんの小さな風や地震で被害を受ける――傷を負う。

その残り滓であろうが、その威力は強大なもの

堪えきれるものではない




――こういうのはあんまり得意じゃないんだがな



神殿の境内自体は強い結界、多分傘下の神々のものであろう力によって守られている。

しかし、それは大社内のみ。そこにたどり着くまでの街道や民家など全てを覆っているわけではない。

この辺りの人間には、一応の知識が伝得られているのか、神々の姿は見えずとも、災害・天災から身を守る対策として境内に避難するという素早い対応を見せている、が


逃げ遅れたもの、旅の途中だったものなどに関しては、神社にも辿りつけず、集会所のような場所に避難する程度。

当然、その場所には、流れの術士はいようとも、神の守りなど存在しない。


地震一つ

神にとってのそよ風一つで、それは崩れ落ちる。


呆れるほど簡単に



「ふぅ……」

小さく息を吐いた。


まったく、研ぎなおしておかないとな、って考えた矢先にこれだ。



小さな不満。

だが、何もしないのは気分が悪い。

自分にはその力があり―――震える者たちと変わらない人間なのだ。


少なくとも

目の前で何かがただ死んでいくのを好まない程度には



だから

埃を払って火をつける。

錆びきった鉄に油を注し込んで



紡ぐのは

一つの言霊

自らの能力を呼び起こす鍵



「さてさて」

上手くいきますかねぇ

そんなことを呟きながら、それを想像する。


描くのは壁。

漏れ出る力を隔絶する境界。



「久しぶりの相手が神の力とはきついが」

まあ、流れ弾の処理くらいならなんとかなるだろう。


そんな楽観に身を任せ、その言葉を紡ぐ。



――我、幻を想い描く。



|能力〈ちから〉の宣言を




________________________________________




――こりゃあ、いささかまずいね。


新たな呪い、祟り神の力を込めた弾幕を撃ち出しながら考える。


並の者なら消滅。

それなりの神格をもつ者でも数発で悶絶するようなその力は、相手から撃ち出された強大な一撃によって、簡単にかき消されていく。


「っ!」


無残に霧散する力たち。

そして、その巨大な一撃はそのままの勢いで自分へと向かってくる。


「なんて力業!」


神の祝福を受けた木の柱

髪の象徴的力の具現による重撃。

その太い射線から逃れるために宙を飛び回る。

無論、合間合間にこちらの攻撃も打ち出すが、その柱から発せられる強大な神力に影響されてか、上手く届かない。


「まだまだ!」


不適な笑みを浮かべたままの相手は、力強い叫びと共に、さらに数十の柱撃ち出す。

神力が込められたその重い攻撃を一撃でもくらえば、いかに自分であってもかなりの痛手を負うだろう。


だが


「なめるな!」


こちらもただでやられているわけにはいかない。


力を集中させた両腕から、神力で編まれた蛇を模した弾幕を撃ち出す。


しゅるると絹連れのような音をたてながら宙を這い進む弾丸。

細長い紐状のそれは幾つかの御柱をまとめて巻きつけ、そのまま締め壊す。


「むっ!」


そのまま相手へと向かう蛇。

鋭く牙剥くように伸びたそれに、相手の表情から一瞬笑みが消え、眼前に迫ったそれがその体を貫くまでに迫る。


――が


駄目か。


力を集中させた御柱を振り回すという一撃でそれはかき消された。

蛇は寸断され、宙へと溶け消える。


多少、表情を引き締めた相手から、さらなる弾丸がこちらへと向かい、舌打ちをうちながらそれを回避した。


――きりがない


絶え間なく放たれる御柱を避け、弾き飛ばしながら考える。


この国での信仰はこちらの方が上、ただ、あちらには大陸で培った力と突き進む勢いがある。

それは、変革を望み、新たな生活を望む人々に対しては魅力的なもの――進化しようとするものに対しては、新たな力こそ素晴らしく思えるだろう。

つまり、人から得られる力はほとんど同格、下手すれば向こうの方が上になる可能性もある。



そして、相手は多分軍神の性質を持ちあわせている。

戦いならお手の物、本領発揮の場だ。こちらも軍事の力は持ち合わせているとはいえ、攻撃・侵略に関しては――多分、相手に一日の長がある。


つまり



また数発の攻撃が打ち出され、こちらが作り出した防御壁が、御柱の一撃によって突き破られる。



――単純な力なら向こうの方が上だ。


このままのせめぎ合いでは、いつか押し負ける。



目の前には、莫大な神力を発揮する大和の神。

眼下には、荒れすさぶ湖の波が揺れる。

そんな神々の戦場



力では敵わない相手


――なら、こちらは知恵と経験で凌駕するしかない。




________________________________________




隆起し、壁となるように現れる岩壁

その合間合間から打ち出される弾幕はこちらに届きこそしないが、巧妙に配置され、こちらの気を散らす。

時折混ぜられる力ある弾丸は、油断すれば自らでも悶絶するような一撃だ。

もし怯んだとすればそのまま畳み込まれる。


手数なら向こうの方が上だ。



音もなく頭上に出現した巨大な木の柱。

自らの神力で作り出した神具である御柱、それを射抜くように撃ち出す。

射線上に存在する相手の弾幕を破壊しながら進むそれは、強大な矢のようなもの。

標的に衝突する寸前、滑るように相手が滑空したことで回避される。


そしてそのまま、湖の水面をなぞるように飛行し、こちらに近づく相手。

合間に放たれた弾丸を回避しながら、進路を塞ぐように再び御柱を撃ち出すこと

でそれを防いだ。


後退した相手は牽制の弾幕を撃ち出しながら、こちらに相対するように正面へと位置どる。


その繰り返し。


――しつこい…



実力が拮抗しているとはいえ、戦いに関していえば、多分こちらの方が上だろう。

真正面からの力のぶつけ合いは、相手の本領の場ではない。

こういう戦場なら、こちらのお手の物だ。


しかし、仕留められない。



押しているのはこちら

確かに、こちらが相手を上回っている。


相手の攻撃はもはや、牽制や威嚇程度にしか役に立たず。

こちらの攻撃も、今は避け続けるとはいえ、いつかはジリ貧となるだろう。

もはや打つ手はない。


――油断さえしなければ、押し勝てる。


そんな状況である。


しかしそれでも


――強い



こちらの弾幕の間を潜り抜け、時に叩き落す。

防御の壁が崩れた瞬間、それを目眩ましとして弾幕を張る。

威力こそ自分に及ばないが、それは絶妙な間で撃ち出され、自らの眼前にまで迫る攻撃。

要所要所でこちらの攻めの勢いを削ぐ牽制の間。


一進一退の状況


それを生み出しているのは、力もさることながら、その知恵と経験。

土着の神として積み重ねてきた年月の重み。


――地の利を得ているとはいえ



「ふふっ……」


微かに漏れ出たのは、自分でも思っても見なかったことに笑みだった。


自分に匹敵するほどの力を持つ者

自らと|戦える〈・・・〉ほどの者

この国にそれ程の神が存在するとは、まったく想像もしていなかった。


ただただ

蹂躙し、侵略し、打ち砕く。

圧倒し、圧殺し、叩き潰す。


相手の力を飲み込みながら

相手の全てを奪い取る。


それは

一方的な略奪といってもかまわないほどのもの。

戦争とさえいえないものだっただろう。


それほどまでに圧倒的な差だった。



――それが


今、戦える相手が目の前にいる。

自分と、対等といってしまっても差し支えないような相手が



口元には自然と笑みが広がる。



「やるわね。ミシャクジの統制者」


突然かけられた声に相手は少し驚いたようだが、空中で動きを止め、真っ直ぐにこちらを見つめ返す。


「正直、ここまで戦えるとは思わなかった」


それは、敵にかけるにはいささか友好的過ぎるような声音だった。

けれど、なぜだか嬉しかったのだ。

自らと対等な者がいることが


「舐めてもらっちゃ困るよ。これでもここを治めて云百年と経ってるんだ。ぽっとでの新参者に」

そう簡単にやられてたまりますか、そんな言葉と共に発せられる神力の波。

空気を震わせ、地を揺らす力の奔流。



浮かべる笑みは不遜なもの。

けれど、何処かそれは楽しそうにも見えた。


全力で、遊べる相手


孤高を生きる神

頂に立つ者




肩を並べられる相手

同じ荷を背負う相手


それでも


「こっちも負けるわけにはいかない」



負けてしまえば、自分に居場所はない。

認められなければ、移ろい消えてしまう。

それが、新しさという摂理。


その信仰

その力


神としての存在ごと


「呑みこませてもらう!」


人間の作った稲の穂、その実を媒介として神力を込める。

膨大な力がこもったそれは、一つ一つが威力を持つ光球としてばら撒かれる。



「……!」



一度も見せていない弾幕。

今までの直線的なものとは違い、無作為的に相手を包み込むもの。


しかし、対して動じた様子も見せずにすぐに反応し、その弾幕の合間をすり抜けるように動き回る。

右に、左に、その数少ない空間

そこしかないという回避場所を潜り抜ける。


そう――限定(・・)された道筋を通って



「―――なっ!」



たった一つの逃げ道

そこに逃げ込むしかない場所


それは、攻撃した自分が一番理解している。



「はああ!」


その一点へと向けての弾丸。

数発の御柱を跳ばす。



「っくぅ…!」


咄嗟に力を収束し、防御障壁を張られるが、そんなものは付け焼刃にも足りない。

一発の威力でさえ、こちらの方が上なのだ。

真正面からのぶつかり合いで、相手が勝てるはずがない。



一つ、二つと御柱が弾かれ、障壁がギリギリと音をたてて―――三つ目ではじけ飛ぶ。


「―――!?」



続けざまになだれ込んだ弾幕。

声も上げられぬままに弾け飛ぶ土着神。


「あああ!!」


叫び声を上げながら、雷のような速度で吹き飛ぶ相手。

上位の神でも耐え切れないほどのものが数発分、そんな威力の攻撃を食らった相手は巨大な水しぶきを上げて水面を割る。




――やったか……?




上空まで弾け跳んだ水滴が降り注ぎ、濡れた髪が頬に張り付く。

うっとうしいそれを指で掃いながら、波立つ水面を見つめる。





白くざわめく波、落ちた雫のざわめきが少しずつ収まっていく。



「……」


どんな些細な変化も見逃さぬように広い水面を睨みつけるように見つめるが、そこからは何の気配も感じられない。

流石の統制者もあの攻撃にも耐えれずに消えてしまったのか、それとも力を使いすぎて動けなくなったのか。

どちらにしても、その存在自体の力が感じられない。


あれほどの神格を持つ神だ。

その神力の気配自体を完全に消し去ることはできないだろう――押さえ込むには、その力は大きすぎるものだ。


ならば


「――終わった…?」


そう

独りごちた瞬間。



――水底からの大きな力の盛り上がりを感じた。



「……っ!」


突き上げる膨大な神の力。

水しぶきを上げながら飛び出した塊を咄嗟に回避する。



「これは…!?」


湖から撃ち出されたのは、無数の岩石群。

しかも一つ一つが神力によっての強化が施され、それなり威力を誇っているもの。

それが、まるで落石のように――重力が逆転したかのように降り注ぐ。



「く……」


入り混じった細かな礫を障壁によって弾きながら、特に威力の高そうなものを回避していく。

元がただの岩や小石であるため、一発食らった程度でどうにかなるものではない。

が、いかんせん数が多い。

数十、細かなものも合わせれば百にも昇る数の弾幕。


けれど


――これほどの規模の攻撃…いくら力があろうとも並みの消費ではすまない。


こちらもそうだが、長い戦いで相手も消耗し続けている状態だ、

余剰の力など残っているはずがない。


ならば、これは最後の――死力を尽くした攻撃。



これさえ凌げば。



「はあああ!」


舞い上がる礫を弾き飛ばすようにして、身を守る障壁へと力を注ぎ込む。

範囲は自らの周囲から軽く手を伸ばした程度のもの、それだけで視界は保たれる。


あとは、残りを回避しきってしまえば―――私の勝ちだ




右へ、左へ

左右へと身体を揺らしながら、岩と岩の間をすり抜けるようにして飛び回る。

それはまるで、先程までの相手と同じような動きだった。


攻守逆転、そのままこちらの攻撃と相手の攻撃が入れ替わったようなもの。

相手と同じように、弾幕のぎりぎり――そのたった一つしかないような間隙を潜り抜け……先へと抜ける。


そう、ほとんど同じ(・・)動き。



――まさか


嫌な予感が頭をよぎる。



――そう、先程までと同じなら


逃げた兎を待っているのは…!



「いけぇ!!」


響く声と共に表れたのは――巨大な岩。

地の底から噴出した間欠泉によって勢いを増したそれは真っ直ぐにこちらへと迫ってくる。



「くぅっ……!」



まったくに瓜二つな状況。

やられる側とやられて側が入れ替わった状態。


まるで、時間が巻き戻ったように同じ。




――だが、一つだけ。決定的に違うものがあった。



「―――りゃあああ!」


それは、攻撃能力の違い。

手数と威力の差。



眼前に迫る巨岩に向けて、ぎりぎりのところで完成させた御柱を打ち込む。



どがしゃっという派手な音をたててぶつかったそれにより、その速度が落ちる。

その間にさらに御柱を具現化し、一点を打ち抜くようにして集中させる。



「はあああ!」


残りの力を絞りつくすかのように、息をつく間もないほどに弾幕を放つ。


そのたびに地響きのような音をたてて、軋んでいく巨岩。


相手にはなかった力。

大規模な火力。


その重い一撃によって――弾幕は打ち砕かれる。



「――やった…!?」



飛び散った岩石の破片、礫となって降り注ぐ瓦礫の雨。

互いの神力がぶつかり合い、弾けとんだその中で


「もらった!」

「―――っ!?」



その最後の最後の土壇場で

目の前に迫るのは鈍く輝く銀色の輪。


それが、真っ直ぐにこちらへと向かって跳んだ。





________________________________________




神に捧げられ、神の装具の一つとなった人の造りし物。

崇めしものへの最上級の贈り物

いつしか、それ自体が神の一部として祀られしモノ。


神気を発するのは、その鉄の輪自体。

最後の最後、切り札の奥の手




投げられたそれは真っ直ぐに、吸い込まれるように相手へと向かっていく。


その刃を鈍く光らせて



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